65話
俺達は裏路地での話し合いを一旦切り上げることに決め、後日、俺の店にミラさんとスリンガーさんが来ることになった。
夜の街を歩いて店へと向かう。俺は両脇に獣人コンビのソマリとポメラを抱え、モモはゴーレムであるビッグブルの背中に乗り、その後ろではドレイクが寝息を立てている。
「なぁ、モモ……」
「なんッスか、先輩?」
「さっきのゲームの世界が本物にって話、本当だと思うか?」
俺はそんな突拍子もない質問をモモにしていた。
「少なくとも、モモは嘘とは思わないッスよ。だって、モモ達が今歩いてるこの街は、リアルッスから、だから……むしろ、思うのはミラさん達のいた日本もゲーム世界の日本って設定なんじゃないかって……いや、違うッスかね」
やっぱり意味がわからねぇな。ただ、どちらにしても、ミラさんとスリンガーさんの暮らしていた日本は俺達のいた日本とは別物だろうからな、悩むだけ無駄かもしれないがな。
そうして、驚く程あっさりと時間は過ぎていき、朝を迎える。
昨日、寝てしまっていた獣人コンビとドレイクは今日もモモと謎のラジオ体操をしている。
「1、8、7、5、食材豪華に〜佛跳牆!」
「1、8、6、2、辛うま元気に麻婆豆腐〜!」
またワケの分からない掛け声を混ぜてるな……なんで中華料理の名前なんだよ……
そんなラジオ体操を見つめていた俺は視界の先に人影を見つけた。
その人影は、間違いなくミラさんとスリンガーさんだった。
朝から来るとは……流石に驚いたな。
ただ、俺には、まだやらないとならない事がある為、気になる気持ちを切り替えて、厨房に立つ。
朝食の支度をする為、寝る前にセットした炊飯器の中身を確認していく。
しっかりと炊き上がった米を見てから、次にハムと卵をフライパンに入れてハムエッグを作り、レタスを水洗いしてから、ツナ缶を開けてマヨネーズを和えてやる。
あとは味噌汁だな。湯を沸かそうとしたタイミングでモモから声が掛けられた。
「先輩! なんか、先輩にお客さんッスよ……ミラさんとスリンガーさんッス」
何が不満なのか分からないが、不機嫌そうな口調でそう伝えてきたモモ。
「悪い、今は手が離せない。フロア側のスペースで待ってて貰ってくれ! あとモモ達、全員! しっかり手洗いしてこいよ」
そうして、俺は味噌汁を作っていく。ワカメと油揚げの味噌汁はやっぱり朝には必要だよな。
俺は味噌汁を作り終わり、フロア側に顔を出す。
しかし、そこには固まったまま思考をやめてしまったような『黒龍の息吹』のミラさんとスリンガーさんが席に座り、飲みかけのドリンクを眺めていた。
「何してんだ?」
そんな呟きに、ミラさんとスリンガーさんが俺に視線を向ける。
ミラさんが突然、俺の名前を呼んできた。
「ホタルさん! なんでこっちの世界にジンジャエールがあるのさ! 私達が過ごしてきた長い時間の中で一番の感動だからね!」
半泣きになりながら、ジンジャエールを手に俺へと必死に訴えるミラさん。
ただ、スリンガーさんが慌てて、興奮するミラさんを止めた。
「すまないホタル殿。ミラは普段から興奮すると勢いで喋ってしまうんだ。許して欲しい」
「スリンガーさん! 約束でしょ! こっちの世界では、お互いに“さん”を付けないと、シナリオが壊れるかもしれないんだよ!」
シナリオ? 昨日からやっぱりワケがわかんねぇ。
「悪りぃ。そのシナリオとか、色々と説明してくれないか? その為に来たんだろ?」
昨日の続きを聞くつもりだったが、そこにドレイク、ソマリ、ポメラが俺にお腹が空いたアピールをしてきたので、『黒龍の息吹』の2人には悪いが朝食を食べさせることにする。
まぁ、味噌汁にハムエッグ、白米と醤油を見た瞬間、スリンガーさんから土下座をされた。
「ホタル殿! 後生だ! 我々にも、米を、白米と醤油に、味噌を食べさせて貰えないだろうかぁ!」
そうして、ミラさんとスリンガーさんを加えた朝食は賑やかな雰囲気と男泣きが加わり、炊飯器があっという間に空になっていく。
「マスター、なくなったね……」
「ホタル、ボクはまだ食べたいぞ!」
「そうだぞ……オイラも、まだ食べたいぞ……」
「はぁ、わかった。すぐに追加で五合炊くから」
米を研ぎ、炊飯器に米をセットしていく。
米が炊けるまでの間を使って会話を進める事になる。
ミラさんが落ち着きを取り戻してくれたので話しやすくて助かるな。
「ふぅ、なんかごめんね。私としたことが、さぁ、話を再開しようか」
そこからミラさんが進行役として話を進めていくことになる。
最初に、この世界が、ゲーム『異世界騎士のマイライフ』の世界に酷似している事実について語られた。
このゲーム『異世界騎士のマイライフ』は、騎士団に所属する女騎士が主人公で魔物討伐をしながら、お金を稼ぎ、仲間を作っていくというよくあるシミュレーションゲームだ。
ただ、普通と違うのは、シミュレーションモードとフリーモードが存在していたらしい。
シミュレーションモードは主人公になり、ストーリーを進める。
フリーモードは、主人公を助けながら好きなキャラを作り、フィールド探索や魔物討伐をしたりといったマルチプレイも可能なモードだったようだ。
そして、今の状況は2人が話すには、フリーモードなのだそうだ。
「つまり、私達は今も最初のクエストである『女騎士の救援』ってクエスト発生を待ってるんだよ。それが発生しないと、本編のクエストが発生しないからね」
クエストという言葉にモモが反応した。
「待つッス? そのクエストってどんな内容なんッスか?」
「内容かい? たしか、序盤の救援依頼で、仲間と魔物討伐に向かった女騎士達が戻らないって内容で、仲間も全滅ギリギリの状態で発見するみたいな、内容かな?」
モモが難しい表情を浮かべる。
「因みにッスが……その魔物って?」
「えっと、なんだっけ?」
「ミラさん。序盤とはいえ、大切なイベントなんだから、忘れたらダメだろう。ビッグエイプ討伐までが救援依頼なのだから……」
スリンガーさんの言葉にモモは俺に視線を向ける。
「先輩……ヤバいッス……モモ達がシナリオをぶち壊しちゃってるッス……」
「何言ってんだよ? 俺達は、依頼なんて受けてないだろうが、冒険者ギルドだって昨日初めて行ったんだからな」
「わかってないんッスか! この話の主人公のことをよく考えるッスよ!」
モモの言葉にスリンガーさんが返事をする。
「主人公の女騎士は『アルム・ニヤンキ』で、このネハン王国の『ライム支部』に所属している女騎士だな」
「やっぱりじゃないッスかぁ!」
そこからは逆にモモが、アルムさんとの出会いとドルミールを経由して、首都『ライム』に辿り着いた事実までを語った。
その結果、ミラさんとスリンガーさんからの質問責めが始まった。
内容としては「スライム汁を食べたか!」「盗賊討伐をしたか!」などだった。
どうやら、スライム汁を食べないと、別のクエストが発生しないとか、色々な条件を知らずに進めていたらしい。
ただ、モモだけは怒りを顕わにしていた。
「なら、モモがスライム汁を食べる必要なかったじゃないッスか!」
その時、炊飯器から米が炊けた合図のメロディーが鳴り、話が中断される。
盛大な話をしてたはずが、朝食の第二回戦が開始される。
みんな、朝から食い過ぎだろう……
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