63話
試験終了後は、クラリスさんを先頭に冒険者ギルドへと戻った。
冒険者ギルドの中では、試験の様子を二階から確認していたと笑いながら、姿を現したダイルが待っていた。
「よう、派手にやってたじゃないかぁ。いやぁ、そこのネェちゃんが空に飛んだ瞬間は、決まったと思ったが……見事な大逆転だったしなぁ」
上機嫌にそう語るダイルだったが、横からクラリスさんが睨みを効かせる。
「マスターとしての品位をお願いします。それが出来ないなら、一度口を取り外して土に還してきてください」
「酷いなぁ? クラリス、マスターへの敬意が足りてないんじゃねぇか?」
「敬意とは、尊敬できる存在に向けるものであり、立場が上なだけのマスターに向けるものではありません。それよりも冒険者登録証明書、ギルドカードにマスター証明の証になる魔力をお願いします」
淡々と事務的な流れを作り出すクラリスさんにダイルが憂鬱そうな表情を浮かべる。
待つこと数分で俺達のギルドカードが完成する。
ドレイクと獣人コンビは大喜びでギルドカードを見つめている。
ただ、モモは裏表を確認すると、力任せに曲げようとしていたので、とりあえず止めておく。
ギルドカードも発行してもらったので、俺達は冒険者ギルドを後にすることにした。
「そんじゃ、俺達は帰る。またなんかあれば寄らしてもらうから、そん時はよろしくな」
俺の挨拶にダイルがつまらなそうに返事を返してきた。
「なんだよぅ? 冒険者になったなら、すぐにクエスト探しをしたりとか、飲みに行ったりってのが定番だろうに? お前もしかして、女とか酒に興味ないタイプなのか?」
「チビ達とモモがいる前でやめろよな……それに冒険者ギルドに来いって言ったのは、ダイル、アンタだろうが」
そうして、冒険者ギルドから外に出ると、予想外の面々が立っていた。
「無事に終わったみたいだね。うんうん。私達もルーキーの滑り出しに立ち会えて良かったって感じだね」
笑いながら、そう口にしたのはミラさんだった。
「なんでアンタらが出待ちみたいな真似してるんだ?」
当然の質問を口にするとミラさんは軽く微笑む。
「連れないなぁ? 冒険者ってのは、新人を担当した試験官が基本を教えることになるんだから、もっと気楽にいこうよ」
モモとは違う強引な雰囲気を前にして、反応に悩んでいると『黒龍の息吹』のメンバーで魔法使いのナンシーさんが話に入ってきた。
「悪いわね。ウチのリーダーは強引なの。それより、立ち話はアレでしょ? 場所を変えましょう。先輩である私達が奢ってあげるからついてきなさい」
ミラさんよりも強引な勢いに押し切られて、俺達は言われるままについて行くことにした。
普段なら、モモが反対すると思って何も言わなかったが、まさかのモモも何も言わずに従ったのは予想外だった。
移動中は、終始賑やかで、バギッドがドレイクに向かって、戦闘に必要な知識や身構え方などを話している。
横を見れば、獣人コンビも、同じ獣人の盾使いであるミルガニアさんと何やら色々と話しているのがわかった。
無言なのは、重戦士のスリンガーさんと俺で、モモはナンシーさんとミラさんから、色々と聞かれて慌てたり、騒いだりと落ち着きなく騒いでいる。
そうして歩いていたら、スリンガーさんが突然質問をしてきた。
「賑やかで嫌になってないか? すべてこちらが勝手に決めての行動だからな」
意外に周りを気にするタイプなのか?
「いや、問題ないな。ウチの連中も見ての通り賑やかなやつばかりなんでな」
「そう言ってもらえたら助かる。ホタル殿とは、後にゆっくりと話せればと思うのだが……」
「なら、飯を食べた後にしよう。そうじゃないとウチのが全員騒ぎ出すからな」
「違いないな。こちらも同じになるだろうから、後の時間を楽しみにさせてもらうとしよう」
そうして、案内されたのは、歓楽街……ではなく、歓楽街から少し外れた裏路地の中にポツリとある店だった。
外から見れば本当に飲み屋なのかと疑いたくなるほど、普通の扉であり看板には『ルナ』とだけ書かれていた。
「すまない。女将に大人数だから、入れるか聞いてくる。待っててくれ」
そう言い、ミラさんとナンシーさんが店の中に入っていく。
「飲み屋みたいだな……飯はあるのか?」
そんな言葉を呟いた俺に、ドレイクがズボンの裾を軽く引っ張ってきた。
「マスター……なんて書いてあるの?」
「そうだぞ! ツルツルのホタルだけ読めるのはズルいぞ!」
「そうだそうだ! ピカピカのホタルは、オイラ達にも説明するべきだぞ!」
賑やかな、獣人コンビとドレイクに俺が困っていると店の中から、ミラさんが俺達に中に入るように声をかけてくれた。
店の中に入ると俺達は奥の大部屋に通される。
飲み物を各々が頼み、料理を選んでいく。
ただ、この時点で俺はメニューにある一つの料理に目が釘付けになってしまっていた。
マジかよ! ……そんな言葉が俺の中に広がっていた。
「なぁ、ミラさん……これって」
俺はとりあえず斜め前に座るミラさんにメニューを指差して内容を尋ねてみる。
「あ、それですか。説明が難しいんだよねぇ。早い話が具だくさんの小鍋に入ったスープと言うべきですかね? まぁ、それって、複数人で分けて食べる料理なんだよね」
間違いなく、鍋だ! この世界に『すき焼き』がありやがる!
「因みに、何かにつけたりするのか?」
「うーん。そのせいで、あまり人気ないんだよね。実は、ラッキーバードの卵をつけダレにするんだけどね」
説明を聞けば聞くほど、確信に変わるが、現物を見ないと判断できねぇんだよな。
「モモ、悪りいんだが……この『スキヤキ』を一緒に食べてくれないか?」
そう告げた瞬間、モモが慌てて俺に声をあげる。
「いきなり、何を言ってるんッスか! ムードもヘッタクレもないじゃないッスか!」
いや、スキヤキにムードなんて……
「いいッスか……ママとパパが言ってたッスけど、スキヤキは、家族で食べる鍋で……だから、先輩がモモと、その……」
「マスターなら、ドレイクが食べたげるよ!」
「ズルいぞ! ボクもホタルからもらう!」
「ソマリがもらうなら、オイラも食べるからな!」
モモの声が小さくなったタイミングで3人の声が賑やかに叫ばれる。
「わかった。わかった。なら、こっちのやつも気になるしな。悪いがミラさん、2種類を頼んでもいいか?」
「構わないよ。むしろ、後から追加もできるから、遠慮しないでね。先輩として当然だからね」
俺は『スキヤキ』と『ヨセナベ』と書かれた二品を頼むことにした。
『黒龍の息吹』のミラさんとスリンガーさん以外は、俺の注文を聞いてギョッとした顔を向ける。
理由が分からなかったが、運ばれてきた料理を見て俺は確信した。
空のすき焼き鍋が熱を発生させる魔導具の上に置かれる。
「マスター、何もない? 空っぽ」
「ピカピカのホタルは、鍋を焼いて食べるのか! それならボクは食べないぞ!」
「そうだぞ! 獣人だって、焼き鍋を齧ったりしないからな!」
言いたい放題だな。
「まぁ、見てろって」
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




