表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/73

62話

 ドレイクの泥玉攻撃はそれからも続いていたが、バギッドはそのすべてを回避していく。


 泥玉の数も減り足場が泥塗れになる。


「いい加減にしろよ! こんなやり方で、冒険者になれると思ってんのかよ!」


 バギッドの声にドレイクは自信満々に頷く。


 その反応にバギッドは諦めたように、頷くと一度しまったナイフを両手に握る。


「覚悟はあるらしいな。なら、手加減もここまでだ!」


 バギッドが一直線にドレイクへと駆け出す。

 だが、ドレイクは微動だにしない。


 ドレイクはただ、笑って見せると魔法カバンを握ったまま、片方の手で地面に触れる。


 その瞬間、『黒龍の息吹』の魔法使いが呟いた。


「ありゃりゃ、バギッドの負けだわ……まったく」


 俺は言葉の意味が分からなかったが、その意味はすぐに自分の目で確認することになる。


 地面に散乱した泥玉だった土が一気に魔法カバンへと吸い込まれていき、バギッドが足を取られる形になる。


 次の瞬間、ドレイクは魔法カバンを開いたまま、バギッドへと向ける。


 土石流のような勢いで回収された泥がバギッドを襲い、土に混ぜられた複数の砂利などが散弾のように撒き散らされる。


 咄嗟に両手をクロスさせたバギッドは顔面への直撃は防ぐことに成功した。逆に言えば、両手両足、胴体に至るすべてにダメージを受ける結果になっていた。


「やってくれたな……予想外すぎるぞ」


 バギッドはそう口にすると、ドレイクに向かって笑みを浮かべる。


「はぁ、負けだ。試験でこれ以上怪我させられたら、商売あがったりだからな」


 バギッドはそう言うとナイフを鞘に収める。

 クラリスさんが勝利を宣言したと同時にバギッドはドレイクの名前を呼んだ。


 それは一瞬の出来事だった。バギッドの手に握られたナイフがドレイクの首に当てられていた。


「負けは認めてやる。試験だからな、ただ魔物や敵になった人間はそんな優しい真似はしない。忘れんなよ? いいな、ドレイク」


「うん……」


 ナイフをしまったバギッドは軽く手を振るように動かすと『黒龍の息吹』側に戻っていった。


 そうして、『黒龍の息吹』側から次鋒である盾使いの女獣人が前に出てくる。


「やあ。ミルガニアだよ。よろしく」

「えっと、ドレイクだよ」


 軽い挨拶の後に2人の試合が開始されたが、手の内を見せてしまったドレイクはあっさりと盾で弾き飛ばされてしまった。


 ドレイクも拳を前に出して攻撃をしたが、経験の差からもドレイクには難しい相手だったことは言うまでもない。



「マスター……モモ姉、ごめんなさい。負けた」


 しゅんとするドレイクに獣人コンビが声をかけていく。


「むしろ、スゴいぞ! ボクはドレイクを見直したからな!」

「そうだぞ! 相手を倒した事実が大切なんだからな! オイラはドレイクを称賛するぞ!」


 いよいよ、モモの番になるが正直な話、盾使いを相手にするなんて、俺も、モモにも経験のない話だろう。


「モモ? 勝てる勝てない以前に怪我だけはするなよ?」

「先輩? モモがそんな、おっちょこちょいみたいに言わないでほしいッス。むしろ、先輩の番が来ないかもしれないッスよ」


 軽口を叩きながら、モモは盾使いのミルガニアさんの前に向かっていく。


「モモッス。素手でいかせてもらうッスから、しっかりとガードしてほしいッス」


「親切にありがとう。ミルガニアだよ。あと、盾があるからガードは大丈夫かな。あなたも盾が当たったら痛いから気をつけてね」


 互いの挨拶が終わり、クラリスの試合開始の合図が出される。


 モモは悩まずにゆっくりと前に向かって歩いていく。

 ただ歩いているだけのモモにミルガニアさんは両手の盾をしっかりと構えて警戒していた。


 モモとミルガニアさんの距離が縮まるとモモが悪戯に舌をぺろっと出してから「勘弁ッスよ」と口にする。


 その瞬間、地面に撒き散らされたままの泥に魔力が流され、巨大なトラバサミのようにミルガニアさんを挟み込む。

 両手の盾を手離して、頭上に手を伸ばし、モモのゴーレムになった巨大な泥を支えるミルガニアさん。


「ぐっ……ズルい、素手って言ったに」


「だから、謝ったんッスよ。あと、全部が嘘じゃないッスよ。今から正拳突きを入れさせて貰うッス。ガードしないとマジに痛いッスよ」


 モモはそう口にすると、地面に転がるミルガニアさんの盾を地面に突き刺し、正拳突きを盾に向けて放つ。

 盾にはしっかりと拳の凹みが残り、モモはにっこりとミルガニアさんに微笑み掛ける。


「ウゥ……な、なめないで……【防御強化】、【防御力向上】、【メタルボディ】、殴ったらアナタもタダじゃすまないよ!」


「見たいッスね? なら、モモも【身体強化】!」


 モモの【身体強化】を見て、ミルガニアさんの表情が歪む。


「さぁ、我慢比べの時間ッスよ!」


「ま、待って……本気なの……今殴ったら、アナタの手もタダじゃすまないよ」


 そんな説得がモモに効くはずもなく、構えられた拳がミルガニアさんの腹部に放たれる。


 鈍い音が“ゴン”となり、ミルガニアさんは腹部を押さえると同時に巨大な泥のトラバサミに挟まれて戦闘不能状態になった。


 俺以外の誰もが想像しなかった幕引きだっただろう。


 『黒龍の息吹』の面々も戦闘不能になったミルガニアさんに向かって駆け出した。


 仲間達により引っ張り出されたミルガニアさんが運ばれていった。


 モモを睨むのは、中堅のナンシーさんだ。


「やってくれたわね。ルーキーだと思ってたけど、私は本気でやらせてもらうからね!」


「むしろ、手を抜いて勝つ気だったんッスか?」


 そんな返答もクラリスさんの試合開始の合図で静けさを取り戻す。



 全力であろう魔法という物を俺は初めて見た瞬間だった。


 ナンシーさんの片手には炎、もう片方には風の渦が作られている。


「さぁ、燃えなさいな!」


 激しく巻き上げられた炎がモモに目掛けて、撃ち放たれる。


「モモッ!」


 気づけば、俺は声を上げていた。


 ただ、モモは悩まずに炎に向かって駆け出していく。


 次の瞬間、地面に残った泥が土壁のように炎の進行を塞ぐ。


 一瞬だったが、ナンシーさんの視界からモモが消えた。

 それでも経験の差で、ナンシーは竜巻を作り出し、風の防壁を展開する。


 次の瞬間、モモは更に【身体強化】を発動させて、速度を上げて竜巻の中に飛び込んだ。


 ナンシーさんは予想外のモモが選んだ選択に、慌てた様子だったが、モモは勢いよく竜巻の中に飛び込んでいく。


 竜巻に巻き上げられたモモが天高く放り出されると、片足をしっかりと伸ばし下に構えたまま、急降下させる。


「行くッスよ! ギロチン・ドロップ!」


 凄まじい速度で【身体強化】されたモモの“カカト落とし”が炸裂すると同時に『黒龍の息吹』側から人影が駆け出していく。


 1人は意識を取り戻したミルガニアさんで、その横には、重戦士のスリンガーさんだった。


 ナンシーの頭上に、ミルガニアさんの両盾が展開され、重戦士のスリンガーさんが更に下から盾を支える。


 凄まじい速度で落下したモモのカカト落とし。


 ミルガニアさんの両盾が逆さにへし曲がり、下から支えていたスリンガーさんの手甲を無惨にへこませた。


「ひぎゃぁぁ!」

「ぐっ!」

「あわわわわ!」


 結果として、3人がモモのカカト落としを食らい倒れ込んでいた。


「なんッスか! 審判! 異議ありッス。3人なんてズルくないッスか」


 クラリスさんがモモの言葉に頷く。


「『黒龍の息吹』のナンシーさんは2人の手助けがあった為、失格負けとします! スリンガーさん。乱入により失格負けとします!」


 そうして、モモと大将のミラ・ノエルが向かい合うが、ミラさんは両手を上に伸ばす。


「あんな、プロレス技を見せられたら、ムリムリ。降参するよ。なにより、スリンガーさんとミルガニアが防げないとか無理ゲー過ぎるからさ」


 笑みを浮かべたミラさんの言葉にクラリスさんがモモの勝利を宣言する。


 そうして、俺達の冒険者ギルドでの試験は無事に終了した。

お読みいただきありがとうございます!

もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)

☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ