61話
複雑な感情を拭えないまま、俺達の試験は開始される。
試験官を務める『黒龍の息吹』は5人パーティーだ。
『黒龍の息吹』についてはクラリスさんが、軽く説明をしてくれた。
ランクC級の冒険者パーティー。
リーダー──ミラ・ノエル。
──職業女剣士。『黒龍の息吹』のリーダーを務めている。黒髪の女性で腰にはロングソードを装備しており、鎧と剣には複雑な文字が刻まれている。
メンバー──スリンガー。
──男の戦士。ハルバードを武器として使う重戦士だ。ヘルムを被っている為、素顔は見えない。
メンバー──ミルガニア。
──女獣人の盾使い。高身長の女性で、武器ではなく盾を両手に装備しており、守りとカウンターを基本に戦う防御特化で全身がモフモフの毛で包まれている。
メンバー──ナンシー。
──魔法使いの女で、とんがり帽子がトレードマークらしく、いつも深く被っている。肌白で綺麗を通り越して不健康にすら見える。魔法使いとあって基本の『火』『水』『土』『風』『光』の魔法を使えるエリートらしい。
メンバー──バギッド。
──斥候職の男。細身で小柄ながら、鍛えているのが分かる。武器はナイフなどの軽装であるが、数が多く、武器を使い分けるシーフ型の戦闘スタイルだそうだ。
クラリスさんの説明を聞いた感じ、バランス良すぎないか? ウチのメンバーは……説明するまでもないだろうが、はっきり言って、ズルくないか?
そうしてる間に、勝ち抜き戦の順番が決まる。
・先鋒──ソマリ。
・敵陣──バギッド。
・次鋒──ポメラ。
・敵陣──ミルガニア。
・中堅──ドレイク。
・敵陣──ナンシー。
・副将──モモ。
・敵陣──スリンガー。
・大将──ホタル(オレ)。
・敵陣──ミラ・ノエル。
とにかく、勝つしかないが……ドレイクと、獣人コンビの2人が怪我しないかだけが本当に心配なんだよな。
順番が決まると先鋒のバギッドって奴が前に出てくる。
「はぁ? 試験ならもう少し強い奴らと戦いたいっての、時間が惜しいから早く掛かってきな。ルーキー」
その言葉にソマリが前に踏み出す。
「ボクは強いから安心しろ! ツルツルのホタルに実力を見せてやるからな!」
やる気は十分らしいな。武器は……ありゃなんだ?
ソマリが貸し出しの武器から選んできたのは戦鎚ってデカいハンマーだった。
そんなソマリの身体よりも巨大な武器を軽々と持ち、ブンブンと振り回す。
「少し軽いけど、まぁいいや! いくよぅ!」
ソマリはそう口にすると勢いよくジャンプして戦鎚をバギッド目掛けて叩き込む。
地面から土煙が舞い上がり、視界が悪くなる。
ただ、そこで思わぬ声がその場にいる全員に聞こえるように叫ばれる。
「試合開始の合図を前に戦闘を開始した為、試験者、ソマリを失格負けにします!」
それはクラリスさんの声だった。
攻撃を開始したソマリも、回避したバギッドもその場で固まり、耳を疑うような視線をクラリスさんに向けていた。
ソマリの失格と聞いたポメラが納得いかないとクラリスさんに抗議をする。
当然ながら、試験者が審判役に抗議など有り得ない。
「分かりました。試験に対して、審判役の私に抗議するのですから、ポメラさんは失格となります。次、中堅のドレイクさん。どうぞ」
クラリスさんは容赦ないらしいな。
そうして、俺達は戦う前から、2人の失格者を出す結果になり、まさかのドレイクの初戦となってしまった。
ドレイクとビッグブルが前に出ようとすると、クラリスさんがこちらに確認するように声を掛けてきた。
「失礼ですが、そのゴーレムの所有者と魔力供給者はドレイクさんでしょうか?」
ゴーレムであるビッグブルは、モモの魔力で動いていると説明する。
「そのままゴーレムを使われますと、ドレイクさんは、試合に他人の力を借りたという扱いで失格になりますが、よろしいですか?」
「え、ドレイクは失格になるのやだよ! ごめん、ブル。待ってるをしててね」
ドレイクがビッグブルにそう告げると、ビッグブルは静かに後方に移動する。
バギッドが待ちくたびれたと言わんばかりに二本のナイフを構えてドレイクを待っていた。
そうして、ドレイクとバギッドの試験が、クラリスさんの号令で開始される。
バギッドは、ドレイクを軽くあしらうつもりだったのか、ナイフを腰の鞘に仕舞うと拳を握り、ドレイクに殴りかかる。
普通の10歳くらいのガキなら、恐怖で目を瞑ってしまうだろう。
しかし、ドレイクは目を瞑らなかった。
「逃げないと当たっちまうぞ!」
ドレイクが回避しないせいか、バギッドが焦ったように声を出す。
「目を瞑ったら、前はもっと殴られた。だから瞑らない!」
バギッドの動きが微かに変化する。それは純粋な優しさだろう。
ただ、その優しさはドレイクにチャンスを与える結果にしかならなかった。
ドレイクは、ただグーを作り出す。バギッドの微かに遅れた拳が前に出されるとタイミングを同じくして、ドレイクの拳が前に突き出された。
獣人でも、亜人でもない。ただの人間の子供が前に出した拳がバギッドの腹部にめり込んでいく。
「ぐっあ……マジかよ」
ドレイクの拳を脇腹に受けたバギッドが後方に移動する。
それはC級冒険者が、素人の子供、いや……少女の拳を前に警戒した事実に他ならない。
「笑えないな。ルーキー以前に、ガキの一撃に警戒しないとならないなんてな」
「ドレイクはドレイクだよ。ガキって名前じゃないよ!」
「そうか、ドレイク……それでどうするんだ? 武器も無いんだろ? まさか、次の拳を当てられる自信があるのか?」
「ない! でも、負けたらダメだから負けないようにするよ」
バギッドは、やっぱり場慣れしてるな。会話で時間を稼ぐのは、基本だからな。
そんなことを考えていると、ドレイクは不意に魔法カバンに手をつっこむ。
「ドレイクには、カバンがあるから大丈夫!」
その光景に俺は困惑した。ドレイクのカバンに何が入っているのかなんて、俺も知らないからだ。
そして、カバンから手を抜き出したドレイクの手には泥玉が握られていた。
俺はその泥玉がなんなのか知っている。
ゴーレムを作る際に使った粘土だ。ただ、普通の粘土と違い、土に砂利を混ぜて、泥をしっかりと纏わせた物で、俺の知る泥玉とはまったくの別物だ。
簡単に言うなら、それは単純に鈍器、ソフトボールの玉と変わらないそれを、ドレイクは力任せにバギッドへと投げつける。
ただ、コントロールがない為、バギッドには当たらない。
ただ、当たらないのと避けられるのは別の話だ。
ドレイクの手には既に魔法カバンから、次の泥玉が両手に握られており、足元にも複数の泥玉が置かれていた。
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




