60話
俺達はギルド奥の部屋に案内され、ダイルの指示で出されたお茶を飲んでいる。
「いやぁ、ウチのギルド連中が悪かったなぁ。普段は気の良い連中なんだが、教養なんてもんはスッカラカンだからねぇ……まさか、お前らに喧嘩を売るなんて思わなかったがねぇ」
「ダイル、俺が怒ったのは、ウチの連中をバカにされたからだ。謝ったなら今回は許すし、俺も軽くやり過ぎだからな」
「軽くねぇ……少なくともD級冒険者が数人いたのに、こりゃ、ギルドのランクを見直さねぇとならねぇなぁ……」
その後はダイルが呼び出した理由、つまりは本題を話し始める。
「まぁ、今回来てもらった理由は早い話が、お前さん達を正式に冒険者登録させたくて来てもらったんだよなぁ……どうだ?」
いきなり本気モードの質問かよ。面倒事は断るのが一番なんだが、なんで獣人コンビは、俺に羨望の眼差しを送ってんだよ。
「なんでそんな目で俺を見てんだ?」
「当たり前だぞ! ツルツルのホタル!」
「そうだ! ボク達はピカピカのホタルを仲間にしたいから頑張ってたんだぞ!」
忘れてたが、コイツら獣人コンビの目的はずっとそれだったな。
「はぁ、俺以外の奴を探すんじゃダメなのか?」
「「ダメだ!」」
俺達のやり取りを見ていたダイルがニヤリと笑う。
「こいつは、決定だよなぁ? まさか、そいつらの為に暴れたのに……ただ一つの願いを唾を吐き捨てるように断らないよなぁ?」
ダイルの野郎、分かって言葉を選んでやがるな。
「ったく、なりゃいいんだろうが! 冒険者になってやるから、そのキラキラした視線やめろっての」
「オォ……やったよ。ソマリ……ピカピカのホタルがオイラ達の仲間になったんだ!」
「だね。ボク達はツルツルのホタルを仲間にできたんだ!」
手を繋いで飛び跳ねる獣人コンビ。
これで解決かと思っていたら、モモとまさかのドレイクが、話に入ってきた。
「先輩が冒険者になるなら、モモもなるッス!」
「ドレイクとブル(ビッグブル)もなる!」
その発言に、俺よりもダイルの方が困った表情を浮かべた。
「いや……嬢ちゃんの方は昨日の流れを他のやつが見てるから問題ないんだがなぁ……」
「ん? なんだよ。ダイル、なんでそんな難しい顔をしてるんだよ?」
「いやぁなぁ……獣人の2人も冒険者ギルドで暴れたから登録は仮登録まで降格処分だしなぁ……そのチビとゴーレムは戦えるのか?」
ドレイクが冒険者登録するのが難しいってことか?
俺は少し悩んだが、あるスキルを思い出した。
【従業員教育】──従業員の身体的な能力を使用者を基準として随分強化する。知識などは学ばないとならない。
「ドレイク。改めてになるが、俺の店の従業員として働く気はあるか?」
「じゅうじゃあいん?」
首を傾げるドレイクにモモが説明をする。
「ドレイク違うッスよ! つまり、モモは先輩のパートナーで、ドレイクが手下になるって話ッス!」
「手下する! マスターの手下がんばるよ。モモ姉」
「なんて説明の仕方してんだよ!」
「むしろ、先輩は小難しい言い方をして、子供に通じると思ってるのが間違ってるんッスよ!」
返す言葉もねぇ。
そうして、無事にドレイクに【従業員教育】を発動させる。
ドレイクの身体が一瞬輝き、光が収まる。
見た目の変化はないが、本当に大丈夫なのか?
「ドレイク、軽く俺の手にパンチしてみてくれるか?」
手を開いてドレイクの前に伸ばす。
悩んでいた様子のドレイクだったが、俺の手にパンチを放つ。
しっかりとした威力のある拳だった。軽くピリピリする手の平を見てから俺はドレイクに笑いかける。
「問題ないな。なぁ、ダイル? 俺もだが、冒険者になるのに力を示さないとダメなんだろ?」
俺の顔を見て、面倒くさそうな表情を浮かべたダイルだったが、すぐに秘書を呼び出した。
「おい、悪いんだが? 適当に人を集めてくれるか」
秘書の女性がダイルに対して首を傾げる。
「何人集めるおつもりですか?」
「何人って? 人数分だろうが?」
「ですから、何人の方が試験を受けられますか?」
そうして、秘書さんは、何回かダイルに確認をしてから、俺達と同じ5人の冒険者を集める為に表側に移動していった。
待つこと数分で、秘書さんが戻ってくる。
「裏の試験場で、冒険者パーティー『黒龍の息吹』が待機しています。すぐに試験を開始できます」
秘書さんの言葉を聞いたダイルが慌てて立ち上がる。
「待て待て! なんでC級パーティーなんて用意しちゃってんのさぁ!」
「お言葉ですが、先程の騒ぎで、まともに試験をしようという冒険者はいません。ですので、クエストから戻られた冒険者パーティー『黒龍の息吹』の皆様にギルドから依頼させていただきました」
ダイルは困った表情で俺に視線を向ける。
「どうするよ? まさかのC級冒険者パーティーなんだが、日を改めるかい?」
そんな言葉に俺はウチの連中に確認する。
「お前ら、どうする?」
そんな一言に、モモは呆れたように首を左右に動かす。
「先輩、モモは先輩に従うッスから、質問するだけ無駄ッスよ」
ドレイクはやる気満々らしく、ビッグブルと一緒に頷いた。
獣人コンビも大丈夫らしく、気合いを入れて、頷いてきた。
「決まりだな。まぁ、冒険者になるなら、強敵を前に逃げてばかりじゃ意味ねぇだろうからな……軽く胸を借りるとするか!」
まぁ、試験ってやつは昔から苦手だが、軽く身体を動かさせてもらうか。最近は全力で動けてないからな。
試験場に指定された冒険者ギルドの裏手に向かう。
広い訓練場のような作りだな。それでアレが例のパーティーだな。
俺達が入ると細身の男が喋り出す。
「遅いぜ、クラリスさん。待ってるオレ達の身にもなってほしいぜ」
クラリスって、誰だ?
そう思った俺の横からダイルの秘書さんが前に出る。
「すみません。バギッドさん。ですが、然程待たせたとは思えませんが?」
秘書さんはバギッドってやつと話している。その横からこちらに向かって短い黒髪の女性が俺達側に近づいてくる。
「君達が試験を受ける新人さんだね。随分と暴れん坊らしいね。私がこのパーティー『黒龍の息吹』のリーダーでミラ・ノエルだ。よろしく」
手を前に出され、握手をしようとした瞬間、モモが飛び込み、ミラさんの手を握る。
「先輩、何してるんッスか? 握手はしっかり握らないと失礼じゃないッスか」
「これは困ったな。一番強そうだったから私が相手をしようと思ったんだが? 手を握られた以上、私の相手は君になるみたいだね」
「それは嬉しいッスよ。モモは先輩のパートナーッスから、強いッスよ」
そうして、戦う相手を決めていく流れになるはずが、ミラさん以外のメンバーは困った様子だった。
「おい、ミラ! これさぁ、団体戦にしないかい?」
とんがり帽子を被った魔法使いの女性がそう提案すると他のメンバーも頷いているのがわかる。
ミラさんは「なんでだい!」と質問をする。
魔法使いの女性の横にいた鎧姿の男性が返事を返す。
「見たら分かるだろう? 子供相手に我らも本気は出せないのだよ」
理由を聞いて、ミラさんが首を傾げる。
「団体戦の方がズルくないかなぁ? それなら勝ち抜き戦にしようよ。それなら恨みっこなしだしさ」
ミラさんの提案で、どちらかが大将を倒したら勝ちという変則的に試験内容に変更されることになり、当然ながら、大将は俺にされてしまった。
ただ、モモが副将ってことは、ドレイクと獣人コンビが戦うことになるわけで、心配しかねぇんだがな。
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