58話
朝を迎え、眠い目を擦っていると外からモモの声が聞こえてくる。
何気なく、窓を開くとラジオ体操をするモモと、ドレイク、ソマリ、ポメラの姿があった。
「いくッスよ! 1、2、3、4〜! モンゴル帝国・オゴタイ・ハン!」
「「「1、2、3、4〜! モンゴル帝国・オゴタイ・ハン!」」」
モモの無茶苦茶な掛け声に、3人が続いていき、身体を動かしていく。
「大きく腕を広げて〜! 1、2、2、3〜! トルコ料理のシシカバブ〜!」
本当になんとも言えない朝のラジオ体操を見ながら、俺は朝の一服を済ませていく。
賑やかな、体操を終えたモモ達が、店内に戻ってきたので飲み物を人数分用意して手渡してやり、その後に朝食を軽く済ませる。
朝食でも、ソマリとポメラの獣人コンビが大はしゃぎで、本当に騒がしい朝食だな。
「見て、ソマリ! オイラの貰ったパン……フカフカだぞ」
「間違いないよ。ボクのパンも白くてふわふわなんだよ!」
何故か、獣人コンビが勢いよく俺に視線を向けてくる。
「ピカピカのホタル! オイラは今、気づいたぞ。お前は金持ちだったんだな!」
「ボク達を奴隷にしたツルツルのホタルは、やばいヤツだったんだな!」
「お前ら、もう金は払ったんだ。朝飯食ったら、すきに出てっていいからな」
俺は優しくそう伝える。
ただそう口にした途端に獣人コンビが絶望を絵に書いたような表情で傍に寄ってくる。
「なぁ……ボク達を捨てるのか……フサフサのホタル」
「違うよな……奴隷でもオイラ、構わないよ。ボウボウのホタル」
既に泣き出しそうなソマリとポメラを前にドレイクが立ち上がり、ゆっくりと歩いてくる。
「落ち着くしよ? マスターは優しいから大丈夫。モモ姉、2人もきて」
ドレイクは俺だけを置いて、隣の部屋に移動する。
聞こえてきた声に俺は頭を悩ませる事になった。
「魔法の呪文は……萌え萌えきゅんだよ」
その後、獣人コンビは、耳まで真っ赤にした決意の言葉を聞かされ、俺はソマリとポメラの2人を正式に受け入れることになった。
朝からハード過ぎるだろ。
バタバタと時間が過ぎていき、店の扉が叩かれ、奴隷商のリオがやってきた。
「朝からすみません。ホタル殿、わたくし達は準備ができましたので、奴隷商館に戻ることにいたします。僅かな時間ながら、素晴らしい時間になった事実に感謝いたしますぞ」
「そうか、俺の都合で振り回しちまって悪かったな」
軽い会話を済ませてから、俺達も奴隷商館に同行することにした。
「ホタル殿、わざわざついてこられなくても大丈夫ですよ?」
「いや、一緒に向かうのは、確認したいことがあるからだからな。むしろ、気を使わないでくれ」
そうして、大通りを抜けて奴隷商館へと到着する。
到着した途端、俺は言葉を失った。
昨日までは、たしかに立派ではあったが、壁などには汚れや小さな傷があったはずの奴隷商館は見違えるほどに輝いており、外の鉄柵なども新品のように黒光りしている。
俺以上に驚いた表情を浮かべるリオのおっさんと奴隷達。
「ホタル殿……これは、いったい……昨日の晩になにかしたのですか!」
質問攻めに会う前に、奴隷商館の中を一緒に見せてもらうことになり、俺は足を踏み入れた瞬間、驚きを隠せなくなった。
すべての家具が新品同様になっており、奴隷達の居住スペースのベッドからカーテンも同様に新品へと変えられている。
そうして、確認をしていく中で、1枚の紙を拾った奴隷の1人がリオのおっさんへと手渡す。
「はて? どの国の文字でしょうか……見たことのない形ですねぇ?」
「悪い、その紙を見せてもらえるか?」
俺はリオのおっさんから紙を見せてもらう。
間違いなく日本語であり、書かれていた手紙の内容に目を通していく。
『お久しぶりです……と、言いたいですが、この前ぶりですね。天使です。
今回はルール違反スレスレですが、サービスで内装と外装を新品にさせていただきました。
このような、キャッチアンドリリース式のやり方を認めるのは今回のみになりますので、あしからず。
※お風呂やダイニングキッチンをご利用する場合、再度物件の所有者になれば、ルーターシステムで再利用可能になります。
次に別の物件でお会いしましょう。あなたの小さな味方。天使より』
つまり、一日限定のリフォームは次から、使えないみたいだな。
今更だが、これが成立したらって考えてみたら、最高のリフォーム業者が出来たなぁ……残念だ。
それともう一つ、確認しないとならない話ができたな……モモのスキル用のルーターってなんだよ……
そう思いながらも出しかけた言葉を飲み込み、俺はリオのおっさんに手紙の内容を伝える。
信じて貰えないだろうと思いながら説明をすると予想していた反応と違い、リオのおっさんは大声をあげて歓喜した。
「素ッッ晴らしい! この風呂をホタル殿が所有者にすれば使い放題ということですか! しかし、そうなると、わたくしは商館をホタル殿に売らねばならなくなる……それは無理な話ですねぇ……」
インテリヤクザ風のリオのおっさんが落ち込む姿に俺はなんとも言えない気持ちになった。
ただ、こういった状況で空気を読まないのがモモだ。
「話は聞かせて貰ったッス! なら、共同購入物件にすればいいだけの話ッス!」
俺は額に手をあて、溜め息を吐くが、お構いなくモモはリオのおっさんに説明をしていく。
「リオさん。先輩に奴隷商館の権利を1パーセント売るって契約書を作るッスよ!」
「おい、モモ! 流石にそれは無理だろ!」
慌てて止めに入る俺にリオのおっさんが素早く書いた契約書を見せてくる。
「わたくしは、構いません。むしろ、この大浴場を使える方にメリットがありますからなぁ」
そう言いながら、リオのおっさんが説明を続ける。
メリットについては、普通の大浴場は魔石だけで作ろうとすれば、膨大な魔力を秘めた魔石が必要になる。一つなら然程問題にならないが『火の魔石』『水の魔石』その二つを管理する『魔水晶』と温度管理にも色々と必要になるそうだ。
「なので、わたくしとしては、権利の一部のみで構わないと言われれば喜んで契約を結ばせていただきますぞ」
「先輩! 決定ッスよ! 年に1パーセントの利益が入ってくるッス!」
そうして、俺は奴隷商館の所有権を1パーセント手に入れることになり、大浴場とダイニング、マッサージチェアにドライヤーなどが使用できるようになった。
因みに喜んだのは、リオのおっさんだけではなく、奴隷達も大歓喜だった。
本当に風呂とドライヤーが嬉しいらしいな。
とにかく、朝の予定はこれで終わりだとして、昼は冒険者ギルドか? まったく……厄介だなぁ。
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




