57話
晩飯は、奴隷達も含め人数が多いので、悩まずにパスタにした。
大量のミートソースに肉ボールは間違いなく美味い!
大皿に山盛りパスタを見て、喉を鳴らす男奴隷達にリオのおっさんが諦めたように俺を見る。
俺の合図を待ってるらしいので、しっかりと頷いてから、両手を合わせる。
それに続くようにモモとドレイクが手を合わせ、獣人コンビも見様見真似で同じように手を合わせる。
リオのおっさんも奴隷達も俺達の行動が不思議らしいな? 本当に異世界ってやつは、祈りはしても、いただく事に感謝しねぇってのは、いただけねぇな。
「ほら、みんなも手を合わせてくれ、そうしたら、俺が言った言葉を繰り返すんだ。いいな?」
再度、不思議そうな視線が俺に集中する。
「くすくす……先輩が手を合わせたら、単なる坊さんじゃないッスか……くすくす」
「モモ? お前は飯を食べたくないらしいな?」
「先輩……仏の心を忘れたらダメッス……」
「知らないのか? 仏の顔も三度までだが、お前はやり過ぎてるからなぁ?」
そんな会話をしていると、ドレイクがテクテクと歩いてきて、俺の服を軽く引っ張る。
「マスター、みんな食べたいって……いただきましたしよ?」
「いただきますだな……」
俺は改めて、手を合わせて「いただきます!」と口にする。
「いただきます!」と全員が口にして食事を食べ始める。
とにかく、男奴隷達がマナーを忘れたように頬張り、女奴隷達は、落ち着きながらもしっかりと食べていく。
モモ達も負けじと食べていくが、最後には獣人コンビと男奴隷達のおかわり合戦に突入して、賑やかな夕食が終了した。
片付けをしようとすると、リオのおっさんから声を掛けられる。
「お待ちください。皿洗いなどは、わたくしの奴隷達できっちりとやらせていただきます。そうでないと、こちらとしても申し訳ないので、どうかやらせていただきたい」
断るのも、違う気がしたので、有り難く申し出を受け入れる。
俺は1人、外へ向かうと空を見上げながら、煙草に火をつける。
風が軽く吹くと同時に木の影から声が掛けられる。
「いいねぇ。賑やかな食事に素敵な家族……いやぁ、理想的な環境ってヤツじゃないか?」
「その声は、ギルドのやつか? なんだったっけか?」
「こいつは失礼、自己紹介をしてなかったよなぁ? ダイル・オーレンだ。あんたの自己紹介は間に合ってるから、いらねぇよ」
「そいつはどうも……あんたにこいつを渡さないとな。ほらよ。中身を確認してくれ」
腰にぶら下げたマジックバッグから、金貨の入った袋を取り出してダイルに渡す。
正直、名前が覚えやすくて助かるな。
「こいつは驚いた。まさか、本当に半日で金貨を40枚も稼ぐなんてなぁ……こっちの計画と違いすぎて泣けてきちまうなぁ……本当にさぁ」
「ダイルって言ったな? 計画ってのはなんだ。事と次第によっては、力づくで聞くことになるぞ?」
一歩前に踏み出した俺に向かって、ダイルは両手を左右に軽く広げ、首を左右にゆっくりと動かす。
「やめようやぁ。こちらとしては、悪巧みってわけじゃないんだからさぁ……それに素人さんを相手するのは、手加減が難しいたらありゃしないんでねぇ」
「売り言葉に買い言葉ってか……俺からしたら、素人相手に負ける冒険者しか見てないんでな」
俺の言葉にダイルが眉間を軽く動かすと、距離を詰めてくる。
野郎が2人、拳を握って睨み合えばやる事は1つだ。
「いくぞッ! 冒険者野郎がァ!」
「素人には、冒険者の怖さをしっかり教えてやらないとなぁ!」
ゴングなんかねぇ、ただ拳を全力で振り抜く!
「おっと、たしかに嫌なパンチだなぁ、ただなぁ……やっぱり素人さんだよ、アンタ!」
拳を突き出す度に食らうカウンター。一撃、一撃が重すぎる。
「どうだい? 勝てないってわかるだろう? 冒険者は魔物を相手に戦ってんだからなぁ。アンタが大男だとしても、魔物と比べたら可愛いもんさ」
「はは……俺に可愛いだなんて、アンタは眼科に行った方がいいぜ! ただなぁ、まだまだ始まったばっかりで、勝ち誇る奴に負けてやる義理は持ってねぇんだよッ!」
俺もダイルも拳を再度、しっかりと握る。
だが、店の扉が乱暴に開かれた瞬間、俺の脇腹に激しい電流が流されたような痛みが走り、全身の力が抜ける。
「何をしてるんッスかァッ! 先輩!」
モモの声に身悶えながら、頭を上げると、俺を見下ろす形でモモが口を開く。
「なんで手加減してるんッスか……馬鹿なんッスか? ハゲなんッスか? 先輩の思考回路も死滅したんッスか?」
言い過ぎだろうと思いながらも、俺はダイルに視線を向ける。
ただ、ダイルは軽く口笛を鳴らすとモモに向けて、ファイティングポーズを取るように拳を構える。
「大男の次は、お嬢ちゃんかぁ、本当に今日は賑やかで仕方ないよなぁ」
「先輩はなんで、こんな馬鹿みたいな人に手加減してるのか知らないッスけど、モモは手加減なんてしないッスよ」
俺は必死に声を振り絞る。
「ダイル……にげろ、マジに、たのむ……逃げ……」
「先輩は黙ってるッスよ」
そうして、モモが動き出す。【身体強化】を使わない状態で、ダイルの拳を軽く往なし、次第に攻撃速度を上げるダイルに対して、カウンターを混ぜていく。
ダイルもマズいと感じたのか、後ろに距離を取ろうと下がった瞬間、モモが【身体強化】を発動させる。
下がると同時に放たれたタックルがしっかりとダイルに決まり、体勢を崩したダイルに向かって容赦ない腿への一撃を食らわせる。
【身体強化】された拳を食らったダイルが完全にダウンしたと同時にモモが“四の字固め”を決め、ダイルが絶叫する。
「ぎゃああああ! や、やめろぉぉぉぉ! 降参だ!」
「降参が許されるのは、試合だけッスよ……何より、先輩が手加減してあげてるのに、調子に乗るような奴の足は完全に破壊して、本当に足腰を立てなくさせてやるッス!」
そこまでやったモモを、動けるようになった俺が止めに入る。
「そこまでだ……やり過ぎだ。ったく……はぁ……ダイル、大丈夫か?」
「ハァハァ……大丈夫じゃねぇなぁ……足、ついてるよな……」
「マジに悪かったな……回復屋の料金には足りないが、金貨で許してくれ……流石にもう、ゴル金貨はなくてな」
俺の言葉にモモがまた怒り出す。
「だから、変に真面目すぎるッスよ! なんで怪我させた後のことを気にして、手加減してるんッスか!」
「しゃあねぇだろうが! 流石に怪我させて何もなしってワケにいかねぇだろ!」
俺達の会話に、ダイルが笑い出す。
「こりゃ、やばいな、ははは。金貨はいらねぇから、お前ら2人、明日の昼でいいから、冒険者ギルドに顔を出せよ。それで仲直りってことにしようじゃねぇか」
それだけ言うとダイルは周囲に隠れていた冒険者達に肩を貸されて帰っていった。
「一昨日来やがれッス! 先輩、塩を撒くッスよ」
「撒かねぇよ。勿体ない……」
一服しに来ただけで、明日の厄介ごとが増えちまったなぁ。
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