56話
爺さんと会った結果の話だが、ワインとカッテージチーズの組み合わせが余程、気に入ったらしく、その場でまとめ買いをしてくれた。
チーズの方は保存が難しいと話してみたが……
「儂は商人だぞ? 魔法カバンくらい持ち歩いとるわ。マジックバッグと違って、こいつがないと話にならんからな」
そう口にした爺さんにマジックバッグと魔法カバンの違いを聞いてみる。
結果は脱帽だった。マジックバッグは大量に荷物が入るが、袋の中に入れた物は外と変わらずに時間が経過する。
ただ、魔法カバンは、そのデメリットを入れられる量を減らすことで克服しているらしい。
早い話が、時間経過しないと言われた。
「つまりじゃ、この魔法カバンがあるからこそ、商人は、港街から魚を仕入れてこれるし、違う地域の果実や野菜、特産品をこの『ライム』に運んで来れるんじゃよ……勉強になったか、若いの?」
「あぁ、そんな凄いカバンとは、知らなかったぜ。婆さんも、もっと説明してくれって話だな……ったく」
「ははは! あれは捻くれてるからなぁ。ただ、ヤスキーの婆さんが、お前さんを気に入っておるのも事実だろう。それだけは、このアッラノーマ・ウェールスが保証するぞ」
それからの話でわかったが、爺さんは、婆さんが色々と俺の店の品を吟味していた事を多少気にしてたらしい。
そうして、爺さんからずっしりとした布袋が渡された。
重さからも分かるが、支払われた金額は大きい。
・ワインボトル30本──(1本金貨1枚)金貨30枚。
・カッテージチーズ50個──(1つ大銅貨1枚)金貨1枚分。
・ブルーベリーと果実の皮のソース50食──(1つ大銅貨1枚)金貨1枚分。
早い話が金貨で32枚分も買っていってくれた。
何より、手持ちの金額と合わせれば、金貨が41枚になる。
「爺さんのおかげで、あっさり問題が解決したなぁ……」
「先輩? それって、フラグってやつッスよ……絶対に回収しないで欲しいッス……」
疑いの眼差しが痛いんだが、俺も出来たら回収したくねぇよ。
「そんな、お約束の回収なんてする気ねぇよ。ほら、それよりも金貨が手に入ったんだ。冒険者ギルドのやつに渡しに行くぞ」
「えぇ! 今からッスか?」
「当たり前だろうが? 俺が壊したわけじゃねぇが、相手からしたら、1日でも早く払って欲しいだろうからな。何より、冒険者ギルドの奴らが見張ってるなら、そこら辺にいるはずだからな」
俺はニヤッと笑うと急いで外に向かって歩き出す。
「お〜い! 見張ってんだろうがァっ!」
腹から声を出し、周囲の木々や空き家などにも聞こえるように叫んでやることにした。
周囲のざわめき、数人の人影が慌てて駆け出して行くのが目で確認できた。
違うだろうがァ! 俺は金を渡したかっただけだってんだよ……
「なんで逃げんだよ……アイツら」
その呟きにモモ達がやってくると不意に呟かれる。
「先輩の雄叫びは、魔物と変わらないッスよ。むしろ、相手が場慣れしてたから、本能で逃げられただけの話ッス」
そう言い、頷くモモと、獣人コンビ。ドレイクだけは、キョトンとしているのが救いだな。
とにかく、逃げられたものはしょうがないと、考えを切り替える。
どうせ、すぐにあっちから来るだろうからな。それよりも、奴隷商のリオに謝らないとな……マジに無理やり付き合わせちまったからな。
「はぁ……とりあえず、宿屋側に謝りにいくか」
俺の言葉にモモが驚いた表情を浮かべたのは、本当に納得いかないが、奴隷商のリオには今回大きな借りを作ったからな、素直に謝ろう。
宿屋側に歩いて向かい、扉をノックする。
扉を男性奴隷がゆっくりと開き、俺の姿を見て中に入れてくれた。
「これはホタル様。我らの主人は今、お借りした風呂に入っており、しばらくあちらでお待ちいただければ幸いです」
見た目は怖そうな大男だが、言葉や仕草が丁寧で正直、驚かされた。
そうして、室内に腰掛け、リオが普段から奴隷商で出しているお茶を女性奴隷から手渡され、口をつける。
慌てた様子で頭にタオルを巻いたリオのおっさんがやってきたので溜め息混じりに声を掛ける。
「はぁ……いいから、しっかりと頭を乾かしてきてくれ。ドライヤーがあるだろうが……」
「こんな姿で失礼を……ドライヤー?」
不思議そうに首を傾げるリオのおっさんを脱衣場に連れていき、鏡に付いている引き出しからドライヤーを取り出してやる。
「ほれ、コンセントを刺すから待ってろよ。あとはスイッチを上にしたら風が出るから、終わったらスイッチを下にしといてくれ」
そう言ってから、脱衣場を離れた途端、リオのおっさんが、子供みたいなテンションで、はしゃぐ声が聞こえた。
「見てみなさい。風魔法と火魔法を同時に吹き出す魔導具だなんて! これは素晴らしいですぞぅ!」
それから数分でリオのおっさんが戻ってくると、何故か目を輝かせて俺の手を握ってきた。
「ホタル様! あの魔導具はどういった手段でお買いになったのでしょうか! わたくし、感激してしまいました!」
その後、売ってくれとか、商人を紹介して欲しいと散々言われたが……ドライヤーは無理だろ……と、思ったが、1つ疑問が頭に浮かんだ。
モモがいないとインフラ関係は動かないはずだよな? 理由が分からねぇ?
そんな疑問を抱えながら、リオのおっさんに宿屋側に俺がきた理由を伝える。
「なんとぉぉ! この短期間で金貨を40枚揃えたのですかぁ!」
「まぁ、知り合いの爺さんが、大量に食べ物と酒を買ってくれてな……それで悪いんだがな、また奴隷商館にみんなを連れて戻ってもらう事になりそうなんだよな」
申し訳ない気持ちでそう伝えると、リオのおっさんは軽く手を鳴らした。
奴隷の女性がやってくる。
「悪いが、皆に移動の支度をさせてください。今ならまだ安全に戻れるでしょうからね」
「かしこまりました。すぐに皆へ伝え準備を開始します」
あまりの早い展開に流石に慌てたが、リオのおっさんはそんな俺に対してにっこりと笑いやがった。
「商人は長く店を無人にするべきではありませんからねぇ。契約では、明日までホタル様に店を渡すという話でしたが、お許しくださいますかな?」
返事は決まってる。
「ダメだ! おい、奴隷商……いいか! こんな時間に大勢で移動して危ねぇだろうが! それに今からまた荷運びなんてやってたらな! 晩飯が食えねぇだろうが!」
それから、グダグダ言ってるリオのおっさんを無視して、晩飯については、奴隷のネェちゃん達と話して、店で食べて貰うことになった。
昼の時点で、コンロに変えられていた厨房で上手く調理が出来なかったらしい。
コンロは……慣れたら便利なんだがなぁ?
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