55話
昼食を食べ終わるとタイミング良く、店の扉が叩かれる。
「若いのおるか! 儂だ!」
声の主は爺さんで、婆さんがいった通り、帰る前に顔を出してくれたらしい。
「モモが開けてくるッス」
入口に向かってモモが駆け出し、その後ろから、ピザを乗せた皿を手にドレイクが駆けていく。
そんで、犬猫コンビはまだ食べてるって感じか?
「お前ら、流れとか雰囲気ってあるだろうが……お前らも客が来たら出迎えろよな?」
「なんでボクが行かないとなのさ!」
「そうだぞ! ピカピカなホタルの客なら、ホタルが行くべきだとオイラは思うぞ!」
ピザを食べながらの言い草に、少しだけ大人気ないが俺も反撃をしておくか。
「そうか、たしかになぁ。なら働かざる者、食うべからずだから、お前達は夕飯は抜きだな? せっかく出迎えって仕事だったのにな?」
「にゃぁ!」
「はわわ!」
「「2人でいってくる!」」
一気に走り出した2人はモモとドレイクを追いかけていく。
それからすぐに、爺さんが4人と一緒にフロアにやってくる。
「おい、若いの……お前さんは孤児院でも始めたのか、元気な娘っ子は、ともかく、こりゃなんだ」
爺さんの周りで、ピザを食べるドレイク、その傍でどちらが先に出迎えたかを競う獣人コンビ、そんな事は無視して席に案内するモモ。
本当になんだかなぁ……
ただ、爺さんが来てくれた事実を素直に歓迎するため、俺はワインを幾つか取り出す。
「爺さん。どれを開ける?」
「まったく、仕方ない男じゃなぁ。ただ、奢りならば、お前さんのオススメを貰えるかね?」
爺さんにそう言われて、手頃な赤ワインをグラスに注ぐ。
「爺さん、先に味見をしててくれ、チーズとハムを持ってくるからよ」
厨房に戻り、いくつかのチーズを皿に並べる。ブルーチーズは残念ながら、知らない人間にはオススメできない。
なのでモッツァレラチーズとトマトのスライスにオリーブオイルを掛けたものと、プロシュートとスライスしたサラミを乗せた2皿を、つまみとして用意する。
世にいう定番ってやつだ。基本があるからこそ、何事にも対応できるってもんだからな。
テーブルに戻り、2皿を置き、空になり掛けているワインボトルを見て、次のワインを選び、コルクを抜く。
「ワインには定番すぎるかもしれないが、まぁ食べてくれよ」
「ふむ。定番か……不思議なものだな? ワインには普通、茹でたジャーモに塩を振り掛けた物を食べると思うがな?」
爺さんが言う、ジャーモってのは、早い話がジャガイモだな。今の説明だと茹でジャガみたいな料理がこちらにもあるらしいな。
「うむ……癖が強いが実に美味い。チーズを食べる機会はあまりないが、こんな食べ方があるとはな」
爺さんの言葉に少し引っ掛かったので、質問する。
「なんでチーズを知ってるのに、食べる機会がないんだ?」
「若いの、そりゃお前、チーズはごく稀に、砂漠の国から仕入れる以外に口にできないからだろうなぁ」
尚更、訳わかんねぇ……なんで、街に牛乳もレモンもあるのに……いや、俺が作り方を知ってるからそう思うんだよな。
カッテージチーズなら、間違いなく『ライム』の街でも作れる。
ただ、作れるからって保存方法を知らないとやべぇんだよな……ガッツリ乳製品だからな。
悩むよなぁ……マジに。
「何を考え込んでおるんじゃ?」
「いや、なんともな……」
言葉を濁すとモモが顔を出す。
「先輩がそういう顔をしてる時は、間違いなく! 何かを思いついた時の表情ッス!」
モモのドヤ顔にその場の全員が俺に視線を向けてくる。
「ほうほう……それは面白い話になりそうじゃなぁ……若いの? 儂とお前さんの仲じゃろう。教えてくれんかねぇ?」
目が笑ってないんだが、爺さん……
俺はカッテージチーズについて説明をしようとした瞬間だった。
「待つッス! ドレイク! ソマリ! ポメラ! 3人で先輩の口を塞ぐッス!」
「行くぞ! ツルツルを捕まえろ!」
「わかってるよ。ソマリとドレイクも飛び掛かるぞ!」
「うん。飛びつく!」
一瞬で、3人が俺に飛び掛ってきたが、足にしがみついてるだけになってるな。
「先輩! ドレイク達を振り払うなんて真似、できないッスよね! 何より、先輩は絶対に損する展開になるッス!」
そうして、裏に呼ばれた俺はモモから話の内容を聞かれたので説明していく。
「先輩……その話はマジに話したらダメッスよ? むしろ、上手く稼ぐチャンスをなんでいつも、ナイアガラダイブさせるんッスか」
いや、ナイアガラにダイブしたらヤバいからな!
「まぁ、やっぱりそうか……俺も流石にヤバいと思ってたからなぁ」
「わかってるなら、辞めとくッスよ。本当に先輩はモモがいないとダメダメなんっスから。ただ、お爺ちゃんには、販売を任せるのが一番だとは思うッス」
モモからそう言われ、とりあえず爺さんに時間を少しもらう事にした。
30分程度の時間だが、その間に俺はカッテージチーズを作っていく。
使う物は牛乳とレモン汁のみであり、やることもシンプルといえばシンプルだ。
鍋に牛乳を入れ、鍋のフチに小さな泡が出るまで煮る。ただし、絶対に沸騰させない。
火を止めてから、レモン汁を加えて、スプーンで静かに数回混ぜてから、そのまま数分放置する。
ポロポロした白い塊と、透明な液体に分離したら、最後にザルにキッチンペーパーを敷き、鍋からザルに白い塊を移して水気を切り軽く絞ってやる。
「先輩……終わったんッスか? 料理になると黙るのは、本当に良くないッスよ」
「悪かったって、それより、味見をしてみてくれるか?」
出来たばかりのカッテージチーズに砂糖をふりかけ、レモンの皮とオレンジの皮をレンジに掛けた物にブルーベリージャムを混ぜてかけてやる。
「ほら、みんなで食べてみてくれ。デザートみたいなもんだからな」
初めて見るカッテージチーズにドレイクと獣人コンビは興味津々で笑いそうになるな。
「ホタルみたいにテカテカだよ……」
「わかる。ボクも同じ気持ちだよ!」
「マスター。綺麗だよ」
「とにかく食べるッス!」
その後の反応もしっかりと美味いが続いたので一安心だな。
賑わう厨房が気になったのか、爺さんが顔を覗かせる。
「なんじゃそれは?」
そう聞かれたので、爺さんにも味見をしてもらう。
「これは……若いの……絶対に売れるぞ!」
「待つッス! お爺ちゃんがこの商品を買うのは構わないッスが、まずは契約を結ぶッス!」
そうして、俺抜きでのモモと爺さんの契約合戦が始まった。
爺さんも慣れたようで、安い金額から交渉を始め、モモの納得する金額までわざと吊り上げているのがわかった。
カッテージチーズのプレーン──大銅貨1枚。
ブルーベリージャムと果実の皮のソース──大銅貨1枚。
それでも、こちらの世界では、安いらしいから、日本の豊かさを改めて感じちまうな。
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