53話
衝撃の事実と、知らない間に負債が金貨40枚……日本円なら200万だぞ!
ただ、必死に「ピカピカホタル! 見すてたら許さないからな!」「そうだぞ! ボク達のテカテカホタルに会うために頑張ったんだからな!」などと言いまくりのこいつらを見捨てるってのはなぁ。
そう、俺は悩んでいる。非人道的に考えれば、他人なんだ。一度しか話したことのない正真正銘の他人、むしろ“他わんこ”と“他にゃんこ”でしかない。
「おい……奴隷商さん。仮に俺が支払えないとどうなるんだ?」
「そうですねぇ……残念ですが、期限である3日以内に払えない場合、そちらの獣人はオークションでしょうなぁ……そうなれば、まだ若いですから、労働力として買う者や欲望を満たす者と……使用方法は様々かと?」
聞くんじゃなかった……はぁ、そんな話を聞いたら、余計に見捨てられねぇ……ったく……
ただ、問題は金だ! 手持ちを考えても、絶対に足りないからな。
考えていると、心配そうに奴隷商が俺に喋りかけてくる。
「やはり、難しいと思いますよ? 何より、ホタル殿は新しい店を買われたばかり、改装なども見れば分かりますが、かなりの額を使われているみたいですし……」
「それだ! なぁ、奴隷商! 商館をもしも、改装できるとしたら、アンタなら、いくら出す!」
「え、わたくしの商館をですか? 今は冒険者ギルドの方を何とかしなければならない話なのですが?」
「だから聞いてんだって、実際にアンタが改装を依頼するとしたら、いくら出すんだ?」
「そうですねぇ……わたくしの商館の規模なら、ゴル金貨で20枚といったところでしょうか?」
ゴル金貨で20枚か、日本円で500万って感じか? なんか、安くねぇか……ただ、安く済ませたいなら、話が早く進むはずだ。
「なぁ、相談なんだが、正式な魔法の契約書ってやつは期限をつけたりできるか?」
この質問に奴隷商が訝しんだような視線を向けてくるが、大切な質問の為、しっかりと答えてもらう。
「できますとも、我々奴隷商はとくに期限の存在しない契約書は恐ろしいですからねぇ」
「なら、1日だけ、商館を俺に売ってくれないか? 当然、壊したりしないし約束通り1日で返すからよ。中に入る際は、アンタが居ないと入れないって契約書に書いても構わない。頼む!」
予想外の言葉だったのか、奴隷商は困ったような表情になっている。
ただ、俺と奴隷商の会話を聞いていた冒険者ギルドの男は不思議そうに首を傾げると会話に割って入ってきた。
「おいおい、なんで、ウチのギルドを無視してくれてるのかねぇ? 単純に払えないなら、払えないで回収するだけだから、早く話し合いの結果を知りたいんだがねぇ?」
流石に気長に待つ気はないってか? まぁ、これだけ時間を貰えた事実に感謝だな。
あとは、奴隷商には悪いが、しっかり協力してもらうしかねぇな。
「大丈夫だ。今、話がついたからな。奴隷商の屋敷を改装して、稼いだ金でしっかり払わせて貰うから、3日目まで待っててくれ。逃げるかを心配してるなら、先に言うが、俺は逃げねぇからよ」
「そんな言葉を信じろってのかい?」
「俺は逃げるだけの人生で生きてく気はねぇからな。それに3日もあるなら、約束通りじゃねぇか?」
「かぁ……ダルいやつだなぁ……アンタ、本当に面倒くさい性格だよ……冒険者ギルドが街の出入口を固めるってのは忘れないでくれよ? 逃げ出そうとしたら、笑顔で会話なんてしてやれねぇからな?」
「その為にもきっちりと、奴隷商の商館で金を作らせてもらうさ」
「なら、その改装ってやつも楽しみにしててやる。リオさんも、改装でミスがあれば言えよなぁ。冒険者ギルドが手助けしてやるからさぁ」
話が決まり、俺と冒険者ギルドの男が互いにギラついた笑みを浮かべる。ただ1人、奴隷商だけは表情を青ざめさせているが、元々は俺が巻き込まれた側だからな。しゃあないよな。
冒険者ギルドの男が奴隷獣人コンビを置いて帰ると、奴隷商から全力で叫ばれた。
「なんで、わたくしまで、巻き込むんですか!」
「嫌なら、話し中に断ればいいだろうが?」
「あんな雰囲気で断れるわけないでしょうが! 改装だなんて……はぁ……」
「問題ないから、任せろって。それより、しっかり契約書を作ろうぜ。じゃないと何も出来ねぇからな」
諦めたように奴隷商は契約書を作成してくれた。
内容はこんな感じだ。
・1日のみ、商館の所有者を変更する。
・商館の中にある美術品などは所有者変更に対して含まれない。
・改装の際に不備がある場合は全額補償する。
単純に名義が1日だけ、俺になるって契約書が完成した。
それからすぐに、奴隷商には奴隷達を宿屋に移動させてもらう。
当然、嫌そうな顔をされたが、奴隷達に何かあればと嫌々納得してもらった。
盛大な引っ越しに周囲から、視線が集まるが今はそれよりも、この奴隷商の商館を俺の物だと宣言する方が先だ。
「よし、商館の中にはもう誰も居ないな? 奴隷商さん、大切な貴重品なんかもしっかり持ったか?」
「えぇ……奴隷達がしっかりと背負っておりますとも、他にも馬車も手配しましたからねぇ……」
「みたいだな、馬車を何台呼んだんだ?」
10台程の荷馬車が並び、大量の荷物が積み込まれているのがわかる。
それでも、変な気を起こそうって輩が現れないのは、俺達の動きを冒険者ギルドの連中が露骨に睨みを効かせて、周囲を警戒してるからだろう。
「馬車台だけで、泣きたくなりますよ……本当に、わたくしが何をしたというんですか……」
トホホって、感じの声が聞こえて来そうな奴隷商の背中を見つめながら、俺達は一度、店と宿屋がある街外れへと向かって移動を開始する。
俺の考えが当たれば、間違いなく奴らが来るはずだからな!
宿屋に到着すると、奴隷商は宿屋の中に入るなり、驚いた表情を浮かべていた。
「これは……まるで新築ではないですか……」
奴隷商がそう呟くのと、タイミングを同じくして
パタパタとスリッパの音が駆けてくる。
「先輩、おかえりッス。言われた通りに風呂掃除をしてあげたッスよ! ピカピカのツルツルッス!」
「頑張るしたよ。マスター!」
ドレイクとモモの頭を撫でてやると、モモは照れくさそうな表情を浮かべ、ドレイクはニコニコと笑った。
それからすぐに、奴隷商が声をあげる。
「水場ではなく、風呂場があるのですか!」
「ん? 水場って井戸だよな、それなら中庭にあるぞ? 風呂場はこの先だな」
風呂場の方向を指さすと、奴隷商がバタバタと確認する為に走っていく。
その後は色々と叫びながら、風呂場を見ていたらしく、男の奴隷の1人が俺に謝罪してきた。
奴隷商……奴隷に気遣われたら、ダメだろう。
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