51話
爺さんと婆さんに挨拶を済ませて、俺達は店に戻ることにした。
去り際に爺さんからは「後日寄らせてもらう」と言われたので軽く頷いた。
そうして、店へと辿り着くと一旦、宿屋側に向かう。
やっぱり働いた後は風呂だよな! 宿屋を『リセットカンパニー』が改装したお陰で風呂は男女別々なので気兼ねなく入れるのが最高だ。
仮に風呂が1つで男女兼用なんかになったら、俺はかなり気まずい立場になるからな……
「先輩。お風呂にお湯を入れてくるッスから、ご飯は任せたッスよ! 因みにモモはかなり頑張ったッスから、海老づくしを要求するッス!」
「お前なぁ……まぁいいが? ドレイクは何がいいんだ」
「えっと……アボガボ、食べたい……」
「あぁ、アボカドな。はは、なら、しっかり作るから風呂は任せたぞ。ピカピカの風呂を楽しみにしてるからな」
役割が決まり、俺は店側に食材を取りに行く。せっかく宿屋側でも調理ができるなら、試しに使いたくなるってもんだからな。
そうして、アボカド、海老、タラ、スズキと魚介類を選び、野菜も適当に見繕って宿屋に戻る。
海老とアボカドはサラダにしてやるとして、メインを何にするかだよな?
煮込みなんかは、定番だが、最近は煮込みばかりな気がするしな?
「悩むよなぁ……」
とりあえずの一服をしていると、1つの料理を思い出す。
「なら、アレにするか……たしか、貝類もあるよな」
そうして、店から追加の貝類を持ち込み、巨大な浅平鍋を用意する。
今からパエリアを作る!
最初に米だが、こいつは洗わずに使う。
ここで間違って洗ったりしたら、べちゃべちゃでダメダメな食感になるし、何より味が染み込まなくなるからな。
何より大切なのは、米をアルデンテに仕上げることだ。
だから、スープの量をきっちり量る。基本だが、絶対のルールだ。
オリーブオイルとニンニクを平鍋に入れて、弱火にかけていく。
香ばしい匂いがしてきたら、カットした鶏肉と玉ねぎを加えて炒めていき、火が通ったら一度、皿に取り出しておく。
次にシーフードと細切りにしたパプリカを軽く炒め、別皿に移す。
鍋に残った旨味が付いたオイルの中に、洗っていない生米(2合)をぶち込む。マジに洗うなと自分に言い聞かせる。
弱火で米が全体的に透き通るまで、じっくり炒めてオイルを吸わせる。
取り出しておいた鶏肉と玉ねぎを平鍋に戻し、混ぜ合わせたスープを一気に注ぐ。
因みにスープの味付けはこんなもんだろう。
水を400mlに白ワイン、コンソメ、カレー粉、細かい分量なんざ、その日の気分で多少変わるが、こいつが味の基本になる。
中火にして全体がしっかり沸騰したら、米を平らになるように均す。
取り出しておいたシーフードとパプリカを円を描くように並べてから鍋に蓋をして、弱火で15分程度炊いていく。
ここまできたら、後は最後の仕上げだな。
火を止めて、数分蒸らしてから蓋を取り、一気に強火で加熱する。
“パチパチパチパチ”と音が鳴り出し、香ばしい匂いがしてきたら火を止める。
最後にレモンとパセリを飾れば完成だ。
ムール貝にエビにイカと、最高じゃねぇか!
「よし! 味見をしたいが、下手に掬うと、見栄えが悪くなるから我慢だな」
そうして、メインのパエリアを完成させた後はサラダ作りになり、テーブルが彩られていく。
そうして、風呂掃除を終わらせたモモとドレイクが慌てて、食事スペースに走ってくる。
「先輩! 何ッスか、この匂い! かなりガーリックじゃないッスか」
「マスター……いい匂い!」
「2人とも来たな。今日はスペイン料理のシーフードパエリアだ!」
「「おおぉぉぉ!」」
いい反応だな。見た目のインパクトもあるし、反応があるのは本当にやってやった感がやばいな。
待ち切れない2人が騒ぎ出す前に食事を開始する。
全員で「いただきます」から、始まった夕食は賑やかだった。
モモはエビをバリバリと食べながら、パエリアを美味そうに頬張り、ドレイクはアボカドとエビのサラダを食べてから、イカを食べてずっと目を輝かせている。
美味そうに食べる姿に俺も一安心してから、食事を食べ始めていく。
本来は4人前で作ったパエリアはあっという間に無くなり、サラダはもう一度仕込み直したりと楽しい時間になった。
「モモ、ドレイク、食べてすぐに寝たら、牛になるぞ?」
「大丈夫ッスよ……むしろ、モモは痩せすぎッスからねぇ」
「ドレイク、ウシはわからない? マスター、なんでウシになるの?」
純粋な質問……マジに、困る日が来るなんて……都市伝説みたいな例えだと思ってたが、マジに困るじゃねぇか!
「あ、あれだ! 寝たら牛になるんだよ!」
「なら……ドレイク、ウシになる!」
「ダメだからな! マジに牛になるなよ!」
「先輩もドレイクも元気ッスねぇ。モモはお風呂に入るッス。先輩、覗いたら許さないッスからね! それじゃぁ、行くッスよ」
そう言いながら、風呂に向かったモモ。
「ドレイクは行かないのか?」
「マスター、1人だと寂しいと思うから……」
ドレイクは優しいな、ただなぁ、優しすぎて心配になるんだよな。
そう思っていると廊下側から、全力疾走するような足音が戻ってくる。
「なんで……ドレイクはついてこないんッスか! 行くッスよ」
モモに連れられていくドレイクを見送り、俺は洗い物をしていくことにする。
食器を洗い、最後に平鍋をしっかりと洗い拭きあげているとモモとドレイクが戻ってくる。
「ふぅ、先輩。いいお湯だったッスよ。髪もお肌もツルツルッス」
「マスター、ポカポカしたよ」
「それは何よりだな。しっかり髪の毛を乾かせよ」
髪を拭く2人に飲み物を用意してやり、風呂についての感想をたっぷりと聞かされる。
そうして、話している間に、2人が限界を迎えたのか、こくり、こくりと眠気に誘われていく。
「はぁ……ったく、ソファーで寝ちまったか? 掛け布団を取ってくるか……」
客室用の部屋から掛け布団を取ってきて、しっかりと掛けてやり、俺も風呂に向かう。
「疲れたが、悪くない日だったな……最後の締めに風呂ってのは、やっぱり日本人としては譲れないよなぁ」
ガラ……
ん? ガラ?
「マスター! 寂しいのはダメだから、ドレイクきたよ」
その瞬間、俺は慌ててタオルを巻き、全力でバスタオルをドレイクに巻きつけていく。
その後、しっかりとドレイクに女の子が男湯に入ったらダメだと教えることになった。
最後の最後にやってくれたな……ドレイク。
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