50話
婆さんとの交渉が終わると、婆さんが帰ると言い出した。
「おう、1人で大丈夫なのか?」
「大丈夫さ、アタシは普段から身体を動かしてんだからねぇ。まぁぼちぼち帰るとするさぁ」
そう口にして、婆さんが扉に向かおうと歩き出す。
ただ、案の定、モモが勢いよく立ち上がるとある提案をした。
「みんなでお婆ちゃんを送るッスよ。ドレイクとビッグブルも道を覚えられて一石二鳥のフライドチキンッスよ! 激アツじゃないッスかぁ!」
一石二鳥にフライドチキンは関係ねぇよ……モモの頭ん中は変な言葉製造機なのか?
そうして、無理やり婆さんを送ることになったんだが……周囲からの視線がスゴいんだよな。
普段は俺に何故か視線が集まるが、今回は間違いなく、ドレイクとビッグブルに視線が集まってるのがわかる。
「マスター……なんかね、いっぱい見られてるよ。ドレイク……捕まる?」
なんで、表情を暗くさせてんだか……
「みんな、ドレイクとビッグブルを見てんだよ。みんなの視線をよく見てみな」
ドレイクはゆっくりと周囲に視線を向ける。次の瞬間、驚いたような表情を浮かべていた。
「見て、マスター! みんな見てるけど、怖くない」
「あぁ、怖くないから大丈夫だ。さぁ、婆さんの店まで頑張ろうな」
平和な時間ってやつは本当に良いよな。こんな普通に街を歩くだけの時間すら小さな幸せにするんだからなぁ。
ポケットから煙草を取り出して、ターボで火をつけて、肺に煙を補充しては吐き出す。
「ふぅ……歩き煙草は格別だな」
「いや、先輩……その発言はマジにアウトな気がするッスよ……人として」
そんなモモからの辛口なコメントを貰いながらも、俺達は無事に婆さんの店である『魔法堂』まで到着した。
初めて見る魔法堂にモモとドレイクは興味があるらしく、婆さんもそれに気づいたのか、中に誘って来た。
「せっかく来たんだ。商品を見ていくかい? アンタらなら、説明無料で割引くらいしてやるよ」
まぁ、ついでだから見ていくとするか。
「モモ、ドレイク、2人とも絶対に品物を壊すなよ? 壊したら、買取りになるからな」
最低限の注意と約束をして店に入ろうとした瞬間、婆さんの店の前に一台の馬車が停車した。
馬車から出てきた爺さんに俺は軽く驚いてしまった。
俺が声を出すより先に、婆さんが馬車から降りてきた爺さんに声を掛ける。
「なんだい? 随分と早い到着じゃないか、アッラノーマ?」
「何が早いだ、こちらは店を二回も訪ねて、やっと会えたというに……お? 若いの! お前さんと元気な娘っ子もおるのか、素晴らしい偶然じゃな……あと、更に小さいのがいるようじゃな?」
爺さんがドレイクに視線を向ける。
ただ、ドレイクは慌てた様子でビッグブルからゆっくり降りると俺の後ろに移動してきた。
「マスター……見られてる……」
「そ、そうだな……大丈夫だからな、爺さんは知り合いだから」
そんな何とも言えない雰囲気の中で、婆さんが店の奥を指さす。
「店の前で話を始める気かい? 他の目もあるんだ。店の中でやりな……変な噂が立つと厄介だからねぇ」
爺さんも納得した様子で店の中へと入って行くが、その際に軽く訝しむ目を向けられてから呟かれた。
「若いの……あんな歳の奴隷っ子がおるとは……お前さん、好色家なのか?」
「違うからな!」と、大声で反論してしまい、その結果、モモ達から変な視線を向けられ、踏んだり蹴ったりだ。
そうして、誤解を解くためにドレイクを爺さんにしっかりと紹介することになった。
「ほう、ドレイクというのか? 嬢ちゃんの名前にしては、随分と逞しい名だな」
「うん。ドレイクはドレイク。マスターからもらって、その日からドレイクだよ」
爺さんが微笑んでやがる。まるで孫を前にしてるみたいにしか見えないな。
「ふむふむ。だが、首に奴隷の輪とは、若いの……お前さん、本当にあれじゃな? 普通に解放しているなら、取ってやらんか」
その言葉にドレイクが慌てて、首につけられた輪を両手で掴む。
「あげない……マスターと離れない!」
それから説明する爺さんと、一切譲らないドレイクの会話に俺は笑いを堪えていた。
「先輩、そろそろ止めてあげるッスよ。それにお爺ちゃんも、用があったんじゃないんッスか?」
ナイスタイミングでモモが会話に割り込み、爺さんも頷いた。
「そうじゃなぁ……本人の意思じゃから、しゃあないか?」
そう言いながら、爺さんが1枚のハンカチを取り出すと何故か俺に向けて手渡してきた。
「ほれ、お前が首輪を上手く隠してやれ。マスターなんじゃろが?」
「いや、俺はそういうことが苦手で……」
キョトンとした視線を俺に向けるドレイク。
俺がハンカチを首輪に通して巻き付けると花が咲いたみたいに明るい表情を向けてくる。
正直、罪悪感がやべぇな。
ハンカチを巻かれて喜ぶドレイクを見て、一緒にはしゃぐモモ。
本当に姉妹みたいだな?
その後は真面目な話になり、爺さんが婆さんの店に来た理由を話し出した。
ただ、理由が何故か俺達だと分かり、俺は首を傾げた。
「なんで、爺さんが来た理由が俺達なんだよ」
「そんな事も分からんのか? お前さんは本当に危なっかしいやつじゃなぁ……ヤキスーの婆さんと出会えてたから良いが、商業ギルドは何をしておるのやら」
うーん、今頃はマダムピンキーが偽物達をオカマなクッキングしてる真っ最中だろうな……言わないが。
爺さんの発言に次は婆さんが口を開く。
「何を言ってんだい? そんなに心配なら最初からアッラノーマ、アンタが送って来りゃよかったじゃないか?」
「こちらにも、すぐにドルミールを出れん事情があったんじゃ! 仕事を急ぎ片付けて駆けつけてきたじゃろうが!」
本当にこの世界は、なんで2人集まると喧嘩みたいになるんだかなぁ。ドレイクとモモを見習って欲しいくらいだ。
ただ、そこからは爺さんと婆さんも商売人らしく、俺のワインや石鹸となどについて、互いの知っている情報を小出しにしながら、話せる範囲で話しているのがわかった。
この2人は死んでもタダじゃ起きないタイプだろうなぁ。くわばら、くわばら。
最後には、婆さんの店にワインも移動させておき、爺さんの店から人を向かわせることになったみたいだ。
俺としても、勝手に取りに来てくれるなら助かるので、問題はないんだが……
「ただ、そうなるとドレイク1人で届けに行くのは難しいだろうな……」
俺の呟きに、煙草を吸い始めた婆さんが呆れたように煙を吐いてから呟いてきた。
「アンタには魔法カバンを売ってやっただろうが? マジックバッグよりも、ずっと品物が入るんだから、問題ないだろうさ」
「そうなのかよ! ただ、そんなヤバいアイテムなら、尚更危ねぇじゃねぇか!」
「だから、わざわざ、布カバンみたいな作りにしてあるんだよ! 普通の魔法カバンはもっとギラギラで、品のない下品な柄にされるからねぇ」
説明を聞いて、俺は改めて婆さんは捻くれた性格だと確信した。
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