48話
マダムピンキーの教育的指導を見て、その場を後にした俺は本来の目的であった市場調査を思い出して、絶望した。
「やべぇ……モモとドレイクになんて、説明したらいいんだよ……マダムピンキーは……戻るって、選択肢はないな」
未だに路地裏から悲鳴が聞こえるから無し……これは確定だな。
とりあえず、煙草でも吸うか……
「おや、アンタは……神タバァコ・メイガァラの? こんな道の隅で何をしてるんだい?」
ん? この変な訛りみたいな喋り方は……
「道具屋の婆さんか?」
「振り向きザマに失礼だねぇ……魔導屋のヤキスー。ヤキスー・ガーニだよ。そう言えば、自己紹介がまだだったねぇ」
そう言えば、聞いてなかったなぁ。
「俺は佐乃村 蛍だ。皆、ホタルって呼ぶから、婆さんもそうしてくれ」
「そうかい。神タバァコ・メイガァラをもたらすアンタの名前はしっかりと覚えたよ。それで何をしてたんだい?」
「それなんだがなぁ……」
婆さんにとりあえずの経緯を話すと、キョトンとした表情を向けられた。
「ホタル、アンタ……家族が居るのに安定した収入がないのかい?」
「婆さん、ストレートに言うなよ……ただ、俺は料理はできるが、商売が下手なんだよ」
自分で口にした言葉が情けないと思いながら、事実だけに溜め息しか出ない。
「なんだい? 商売が下手ならうってつけの奴がもう少ししたら、この街に来るからねぇ。そいつから色々と学びな……まぁ、それまでアタシで良けりゃ話をきくよ」
婆さんにそう言われ、俺は一旦、婆さんの店に向かう。
案内された古い店には小さく『魔法堂』と書いてある。ただ、ぼやけてるんだよな……【異世界言語理解】もボロボロの看板はしっかり読み取れないらしい。
「随分とボロい看板だな? 新しいのに変えないのかよ?」
「これだから、若いやつは……いいかい? ボロいんじゃないよ。味があるって言うんだ」
その言葉に俺は笑ってしまった。
「ここにも、味があるって言葉があるんだな。なんか、急に故郷を思い出したぜ。婆さん」
「古い言葉さ、長く生きてると変な言葉も覚えちまうのさ、さて……まずは収入だったね? ホタル、アンタからウチの店に神タバァコ・メイガァラのケムリ以外に下ろせる品はあるかい?」
突然の質問に両手を組むが、考えても魔法の存在しない世界から来たんだから、魔法屋に売れるもんなんかねぇよなぁ?
「むしろ、なんなら売れるかが分からねぇんだよな」
「悩む程度には色々とあるのかい?」
「いや、色々あるにはあるんだがな、ただ、魔法とは関係ない品ばかりなんだよなぁ」
「なら、面倒だが、直接、アタシが見に行って買い取れる品があるか見極めた方が早いねぇ。アンタの家に案内しな」
立ち上がると婆さんが腰を伸ばす。
「おいおい、大丈夫かよ? 大通りから距離があるんだぞ。無理して腰をゆわしたら大変だろ」
「年寄りを舐めるんじゃないよ? アンタの何倍も長生きしてきたんだからねぇ。さぁ、案内しな!」
そう息巻いた婆さんだったが、30分後には休憩しながら一服をキメている。
「だから言ったろうが? 俺の店は街外れで普通に歩くと時間掛かるんだって」
「フハァ……だから、休憩してるんだろうが……まさか、本当の街外れとはねぇ……」
「背中を貸してやろうか? 流石に婆さんを脇に抱えるわけにはいかねぇからな」
「大丈夫だよ! さぁ、休憩は終わりだ。行くよ」
頑固な婆さんだな……ただ、嫌いなタイプじゃねぇな。
休憩を終えて再度歩き出す。
普段の倍の時間を掛けて店に戻ると、ご立腹なモモと、不思議そうな表情でポーズを真似ているドレイクが出迎えてくれた。
「説明するッス。先輩! なんで仕事探しに行って、お婆さんを連れて帰って来るんッスか! 先輩は道にお婆さんが落ちてたら、拾ってくるタイプの人間なんッスかぁ!」
「マスター……拾ってくるタイプでありがとう。ドレイクは拾われたタイプ!」
なんだかなぁ……この2人のちんぷんかんぷんな感じ……
「とりあえず、ただいま。あと婆さんは、店の中に買い取れる品があれば買うと言ってくれたから連れて来たんだ。失礼なこと言うなよ?」
婆さんは、俺達の会話が終わると軽く自己紹介を済ませていく。
モモとドレイクも、婆さんに挨拶を済ませると早速、店の中を案内する。
売れる物って話をしたせいでモモとドレイクには店を売る気なのかと誤解されたが、リセットの力を使って、売っても買い直して利益が出る品を探すのが目的になると説明した。
その結果、意外な品に高値がついた。
「この石鹸ってやつは、便利だねぇ……しかも、身体も洗えるのかい?」
「いや、まぁ……店では手を洗うために置いてあるが、普通の石鹸だから身体も問題ないはずだ」
一応新品の箱を裏返して確かめておく。
問題がない為、そのまま話を進める。
「この石鹸ってやつなら、何度も使えるし、何より全身に使えるのがいいねぇ? 定期的に手に入るから、アタシの店で仕入れてやろう、石鹸自体は一つ、大銅貨1枚でどうだい?」
いや……固形石鹸は10個入りで300円のお得用セットだしなぁ……
「やっぱり安く言いすぎたかねぇ……売れないと在庫になっちまうんだが……なら大銅貨2枚でどうだい? 出せるギリギリだよ」
いや、値上がりしたのかよ!
単純に値段を下げてやりたいよな……よし、正直に婆さんに伝えるか……
そう決めて、頷いた瞬間だった。モモから声をかけられる。
「先輩! 売るべきッス! お婆ちゃん。支払いはまとめて後払いでいいッスよ! ただし、後払いは金貨1枚分までッス。どうッスか?」
「ほう? アタシとしては、有り難い話だがねぇ? それだとアンタらが困るんじゃないのかい?」
「大丈夫ッスよ。先輩はこう見えて、頭以外は頼り甲斐のある男なんッス。だから、お婆ちゃんは心配しなくて大丈夫ッスよ」
「なら、お言葉に甘えるとするかねぇ……ただねぇ……」
婆さんが言いにくそうに口ごもったので、それとなく確認してみると、内容を聞いて納得してしまった。
「流石にここまで毎回品物を取りに来るってのがねぇ……」
「そうだよな……婆さんの寿命が燃え尽きちまうよな、なら俺が届けるってのはどうだ?」
俺がそう口にすると、何故かドレイクが手を伸ばしてズボンを軽く引っ張ってきた。
「マスター……ドレイクね、あの……あのね」
上手く言えないみたいだな。俺は片膝を着く形でしゃがむとドレイクの頭を撫でてやる。
「ゆっくりでいいぞ。焦ってないし、急いでもないからな。ドレイクの言いたいことを教えてくれ」
「あ、えっとね、マスター……お届けやりたい……逃げたりしないよ、仕事しないとだからやりたい……」
「ドレイクは優しいな。ただなぁ……」
ただ、俺はその優しさに対して、困った表情を浮かべることしか出来なかった。
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




