47話
「クラクラムさん! こいつがクラクラムさんの商売を邪魔してきて、助けてください!」
俺は卵売りの男から手を離すと、後ろへと視線を向けた。
視線の先には、筋肉質の大男がニヤついた表情で立っていた。ご丁寧に部下も数人連れているから、立派な悪人にしか見えやしない。
「聞いてるのかなぁ? このオレが話し掛けてるのに、耳がないのかねぇ……お前達、どう思う? 聞こえない耳なら、要らないと思わないかい?」
俺は目を見開いたまま、ゆっくりと足を前に出すと、【身体強化】を両足に集中させる。
「ん? 【身体強化】って、逃げるつもりかい? 路地裏で囲まれると、どいつもこいつも、お馬鹿さんだから、強行して逃げ出すけどさぁ! この人数だよ……逃げられると──ガハッ!」
喋り過ぎだっての! 飛び蹴り出来る30代を舐めんなよ!
「グダグダ言ってんじゃねぇ! 次はぶっ飛ばすぞ。モノマネ野郎がァッ!」
「「クラクラム様ぁぁぁ!」」
「だから……モノマネ野郎をマダムピンキーとして呼んでんじゃねぇ!」
15分後──
「ずびばぜんでじたぁ……ゆるじでぐたさい……」
俺は正座させた偽クラクラムを睨み続けている。
取り巻き達は、偽物を本気でマダムピンキーと認識していたようで、言い訳を並べている。
「信じてください。旦那ァ! おれ達は、全員騙されてたんですよぅ!」
「そうですよぅ! こいつがクラクラムだって言うから信じただけなんですよ!」
めんどくせぇ……マジにめんどくせぇ……
「お前ら全員、連帯責任だろうが!」
そんなやり取りをしていると、いきなり商業ギルドの登録証が振動する。
最初は勘違いだと思い無視する。ギルドの登録証が振動するとか、怖すぎんだろ……
そうして、無視していると自然と振動が止んだ。
ホッとした次の瞬間、更に激しい振動がポケットから伝わってくる。
確認するべきか、悩んだ俺は、ポケットに手を入れるとギルドの登録証をしっかり握り、振動を物理的に押さえていく。
しかし、その後に俺は耳を疑うことになる。
「聞こえますか、ホタルさん。こちらベリーです……変ですねぇ……繋がってるはずなんですが?」
「貸してみろ、このブルーがしっかりと繋げてやる! ホタル殿! このブルーが素敵な提案を!」
「ブルーさん! 今は私が喋っているんですよ!」
なぜか、ポケットからブルーベリーコンビの声がしやがる……慌てて確認しようとした時、更に野太い声が響いた。
「何してるのよぅ? 早くテルテルボーイに要件を伝えてあげるのが大切でしょう? 不慣れなテルテルボーイに優しい指導、予期せぬ美声は……衝撃的な! インパクトゥゥッ!」
返事をするべきなのか……むしろ、喋ったら聞こえるのか?
「お、おい? 聞こえるのか……」
「やっと反応したわねぇ、テルテルボーイ! どうせ、説明書を読まないだろうって受付から頼まれてねぇ、仕事が片付いたから、連絡してあげたのよぅ。驚いたかしら? むしろ、衝撃的かしら! そう、これが!」
マダムピンキーがいつもの「インパクト」を言う前に待ったを掛ける。
「待った! 先に報告がある。マダムピンキー、アンタの偽物を捕まえたんだが……どうしたらいい?」
「……すぐに行くわぁ、逃がさないでテルテルボーイ……10分、いぇ……3分で行くわァァ!」
「あ、マスター待ってください! 壁を壊したら、だぁ──」
「だ」の後、なんだよ!
「ダメだ。切れてるな……本当になんなんだ?」
とにかく、待つしかないよな?
改めて、卵売りの男と偽物のクラクラムから話を聞いてみる。
ただ、話を聞いて呆れることしか出来なかった。
偽物のクラクラムは、単純に商売をするなら、有名な人物になりすます方が楽だと言い出し、挙句の果てには、騙される方が悪いと言い出した。
「いや、どう考えても騙す方が悪いだろうが……」
「違う! オレはただ卵を売るように指示しただけだ……少し危ない卵だけど……死人は出ないはずだし……」
最後の方が小さくて何を言ってるか分からないが、反省は無さそうだな……
「何を言ってやがる! お前が偽物だって知ってたら、オレだって、こんなやばい商売に手なんか出さなかったぞ!」
はぁ……なんでいつも俺の周りは、うるせぇんだよ。
とにかく、黙らせるか……
俺が、そう考えた時、周囲の建物から“ダン!”と飛び跳ねては次に飛び移るような音が聞こえてくる。
そんな足音が俺と男達がいる路地裏の頭上で止まる。それから程なくして、風を切り裂くような落下音と野太い声が叫ばれる。
「テルテルボォォォォーーイッ! そこに居たのねぇッ! やっと到着よぅッ!」
天高くから降りてきたマダムピンキーの着地と同時に、路地裏の地面が窪む。
いや……普通ありえねぇだろ……どんな足の構造してんだよ。
「さぁ、ボキバキと話し合いましょうかぁ? このアタシ……マダムピンキーに憧れて美しさを真似たお馬鹿さんはどこかしらァ! たっぷり愛を込めて……悪さを反省させないと……そう、まさに……絶望的なデスパレードゥッ!」
やっぱりマダムピンキーは、これだよな……偽物も最初からしっかり調べてたら、あそこまで下手くそな演技にはならなかっただろうにな。
「おい、なんなんだこの変なおっさん! 兄さん助けてくれ! 反省するから、二度と馬鹿な真似はしないから!」
「ひぃ……来るな、あっちに行け……や、やぁ、いやぁぁぁぁ」
卵売り達に今目の前にしているのが、マダムピンキーだと、もう一度、説明するのは野暮だな……ただ、俺ならトラウマになるなぁ……
「おい、後処理は頼んでいいか……」
「構わないわよォォ。むしろ、テルテルボーイにはハードなラブをお馬鹿さん達に教えてあげるつもりよぅ……人が悪さをするのは、単純に愛情不足だもの……このマダムピンキーがしっかりと愛の拳を食べさせてあげちゃうわァ!」
「おう、あとそいつら……何とかバードの卵で運試しをしてたから、その件も含めてしっかり頼む……」
俺はそこに絶望を見た。マダムピンキーの教育的指導、アレはダメだろぅ……
去り際まで聞こえた卵売り達の悲鳴に対して、手を合わす。南無阿弥陀仏……合掌。
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