46話
商業ギルドで登録証を受け取った後、俺は大通りを散策してから帰ることに決めた。
改めて色々とマダムピンキーに質問したいこともあったが……曲がりなりにも商業ギルドのマスターさんだけあって、多忙らしくな。
マダムピンキーも去り際に「この登録証には、スペシャルな機能があるの、取り扱い説明書は必ず読むのよ、テルテルボーイ!」とか、言ってたな……スペシャルっていうより、とんでも機能じゃないだろうな……読みたくねぇ……
とにかく、商業ギルドに腰を据えるなら、街の様子だけは見とくべきだよな……特に食材なんかは大切だからな。うん……必要だな。
無駄遣いをしないように考えながらの散策、いや……こういうやつをウィンドウショッピングっていうのか?
いやいや、調査とかにしないと、間違いなく怒られるよな……よし、市場調査って、やつにしよう。
モモなら、色々な例えを交えて、スラスラと言葉にするんだろうが、俺には無理だな。
再び歩き出せば大通りには市場が広がり、周囲からは活気と勢いで客引きが引っ切り無しに行われているのがよくわかる。
「おい、兄さんや。よかったら見ていかないかね。面白いモンがあるよ」
「あまり見ない顔だな! アンちゃん! うちのスパイは南からの早馬便で届いたばかりだよ。どうだい!」
朝市とは違う賑わいと、俺なんかにも声を掛けてくる陽気な雰囲気に色々な店で立ち止まっては品物を見ていく。
スパイスなんかは、クミンやカルダモンに似たものも幾つかあり、逆に驚かされた。
詳しくはないが、異世界転生とかの定番になってる“胡椒が大金に!”ってやつは使えないらしいな。割高でも普通に胡椒も塩も並んでるからな。
そうして、歩いて感じたことは、品物はあるって事実だった。
つまりは、日本で見れるものが色違いや味が少し違うだけで、しっかりと存在してるんだよな。
だからこそ、残念だったのは、卵の存在だろう。
卵はまるで“悪魔の食べ物”と言わんばかりに裏路地で売られていた。
売り手は、カタギって雰囲気とは違うな……変に危なそうな男だった。
俺が近づくと酒を飲んでいるのか、いきなり喋りかけてきた。
「なんだい……アンタも当たりの卵を食べたことのある口かい? あるぜ! さぁ、選びな……当たれば、最高の菓子でもなんでも作れるが……ハズレに当たれば、地獄の……」
「フンッ!」
とりあえず、拳が先に出た。本当に無意識に振り抜いた拳に俺も驚いた。
「──食材の管理をしっかりしないで、何ッ! 御託吹いてんだテメェ!」
ふざけんなよッ! 卵の管理を炎天下の路地裏だァ? 当たり前に食あたりの食中毒パーティーだろうが! サルモネラがファイヤーダンスだッ馬鹿野郎ッ!
「オイ……何個売った? あと、この卵はいつ産まれた卵なんだ? 今すぐ答えろ……」
咥えてた煙草を強く噛み、煙を勢いよく口から吐き出す。
「ふざけやがって……卵なんか、いつのかなんて知らねぇよ……それより、わかってんのか! この裏路地でこんなことしたら!」
とりあえず、もう一発、拳骨をプレゼントしてやる。
なんでも、裏路地を仕切ってるやつから、売るように言われたらしい。
因みに、この卵は“ラッキー・アン・ラッキーバード”って厄介な名前の鳥が産んだ卵で、当たりを食べれば、素敵な幻覚と抱擁感を得られるらしい。
逆にハズレは……過去のトラウマと腹痛、嘔吐に高熱と……ガッツリ食中毒にトラウマのオマケ付きらしい。
「ろくでもなけりゃ、くだらねぇ! 厄介な死地にご案内ってか……食材で遊びやがって!」
「意味わかんねぇんだよ……なんなんだよ……まさか、そんな見た目で騎士団なのか……」
「質問に答えろ? いつ採った卵で、何個売った……答えないとマジに殴るぞ?」
「もう殴ってるだろうが! それにさっきも言ったがな! 路地裏ってのは、お前みたいな奴が思うよりヤバいって事実を教えてやるからな!」
自信満々に男はニヤつく。
「お前ら仕事の時間だ! しっかり働いたら、ラッキー・アン・ラッキーバードの当たり卵を2つ用意してやる! さぁ、欲しい奴は出てこい!」
男の声を聞いてなのか、裏路地にある幾つかの扉が開かれる。
扉の先から顔を出したのは、目をギンギンにした卵ジャンキー達であり、棍棒や木の棒といった打撃向きの得物を握り締めていた。
「卵……ひひ、卵……へへへへ……」
「ハッピ……ハッピ……ラッキーバード〜あはは……」
「妖精さんが、呼んでんだ! 早く当たりをよこせよ! ヒャハハハ!」
マジにやべぇな……
「何ビビってんだコラ、オクトパスヘア〜が偉そうに説教しやがって、言っとくがなぁッ! こいつらは実力が本物だから当たり卵くれてやってんだよ! 意味はわかるよな?」
取り囲むようにニヤついた視線を向けてくるラリパッパに正直、イライラしかしねぇ!
「卵でキマったラリパッパが……メンチ切ってんじゃねぇぞゴラァァァァッ!」
次の瞬間、鈍い痛みが後頭部に走る。
俺が殴られた瞬間、見ていた卵売りの男が笑い出す。
「ははは! テメェこそ、調子にのんなよ! オクトパスがぁ! タコはタコらしく、壺の中で寝てやがれぇ!」
「いてぇな……オイ……知ってるか、俺らの世代はなぁ、やられたら……100倍返しにしろって教わってんだよぅッ!」
裏路地に醜い悲鳴が数回響き、男達が地面に転がっていく。
「卵でキマってるから、拳一発で伸びんだよ! しっかり栄養を考えろ、馬鹿野郎!」
そうして、俺は卵売りの男に歩み寄る。
「待たせて悪りぃな……さぁて、話し合いの続きをしようじゃねぇか」
「ひぃ……わかった。話す! 話すから近寄んな!」
「それで、卵について教えてくれるんだよなぁ?」
壁際まで追い詰めて、話し合いを再開すると、観念したのか、卵売りの男は口を開いた。
次の言葉に俺は耳を疑った。
「卵は、クラクラムさんから売るように言われたんだ……わかるだろ! 商業ギルドのクラクラムさんから言われたら、なんの問題もねぇからな!」
俺は卵売りの男に詰め寄り、襟首を掴むと再度質問をする。
「間違いじゃねぇんだろうな! 商業ギルドのマスターがお前に売らせたのか!」
「あぁ、間違いねぇ……この状況で嘘なんか言わねぇよ!」
卵売りの男がそう返事をすると同時に、背後から足音がする。
「話したらダメじゃないか? まったく、これだから三下は困るんだよな……無能はこれだから困るって話だな……それでぇ、このオレの縄張りに手を出すなんて、いい度胸じゃないかぁ?」
そんな声に卵売りの男は慌てて大声を出した。
「クラクラムさん! こいつがクラクラムさんの商売を邪魔してきて、助けてください!」
俺は卵売りの男から手を離すと、後ろへと視線を向けた。
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