45話
俺達3人が、この街『ライム』に来てから数日……
「暇だなぁ……買い出しばっかりしてると金もあっさりなくなるから、本当に困ったもんだな……」
そう呟きながら、空になった煙草の袋を握り潰して、新しい煙草を引き出しから取り出す。
煙草屋がなくても、引き出しを開けると補充されるんだから、本当に【店舗受取】ってスキルは神すぎる。
ふぅ……肺に染みるなぁ。
「な・に・がぁぁぁ! 肺に染みるんッスかぁッ!」
いきなり、背後から駆け足で迫ってきたモモ。
振り向きざまにガードをしようとしたが、全力でステンレス製のボウルが顔面に直撃する。
綺麗に縁の部分が俺に命中するとそのまま、モモのジャンピングドロップキックが炸裂し、朝から勢いよく吹き飛ばされる。
「先輩は、何を縁側にいるおじいちゃんみたいなことをしてるんッスか!」
むしろ、爺さん相手にお前はステンレス製のボウルをフルスイングするのかよ……
「煙草を咥えた人間相手にやりすぎだろうが?」
「むしろ、先輩が吸ってる煙草! 今の状況で考えたら一番ダメなやつッス!」
指を真っ直ぐ伸ばして俺に言い放つモモ。
「何がダメなんだ? ふぅ……むしろ、数日で金貨4枚の稼ぎなんだろうが? 日本円で600万稼いだから大金星だろうが……」
「先輩、忘れてると思うッスから教えるッスけど……既に先輩は朝市の買い物で金貨2枚を使ってるんッスけど……自覚あるんッスか?」
そうだった……日本なら大金だが……こっちだと5万円くらいの価値しかなかった。
「先輩……働かずに煙草を吸うダメな父親……ドレイクはそう思うかもしれないッスよね? ねぇ、先輩?」
むちゃくちゃ突き刺さる……なんだ、この感覚……
「わかった……なにか考えるから、精神攻撃をやめてくれないか……」
「先輩……考えるって言葉はズルい大人の持ち帰り案件なんッスよ! ドレイク……さっき教えた言葉を言ってやるッス!」
モモの後ろに隠れていたドレイクが顔を出すと、俺と視線が重なった。
「マスター、働いてね? ご飯少しでいいよ? ドレイクが頑張るよ?」
モモッ! ドレイクに純粋な瞳でそんなセリフを言わせんなよ!
「わかった……今から商業ギルドに行ってくる……仕事になりそうな案件を探して来るから、待ってろ!」
「やっとッスか。先輩、ファイトッスよ!」
「マスター……ドレイクね。ご飯、待てるよ!」
「ははは……ドレイク、大丈夫だ。腹いっぱい飯は食わせる。あとモモ……お前は1週間エビ禁止な……」
「なんでッスかぁぁぁぁ!」
そうして、商業ギルドに向かったのだが、受付カウンターに話をしにいくと、凄まじく残念な視線を向けられると同時に冷めた声で喋りかけられた。
「ホタル様……随分とゆっくりされていたみたいですね……商業ギルドとしても、土地を購入されてからこれほど、店舗登録や販売者登録に来られない方は初めてですよ」
受付のネェちゃんからは、苛立ちと呆れが混ざったような複雑な声色でそう伝えられ、苦笑いを交えながら、会話を続けていく。
「──つまり、普通の方はすぐに商業ギルドに店の名前と商売に関する商品登録などをされるといった話です……」
「つまり、俺は登録はしたけど、実際は商業ギルドから紹介も何も出来ない状態だったってことか?」
「そうなりますね。むしろ、商業ギルドなしで商売ができると思っているなら、それは大間違いです……」
なんか、すげぇ喋ってるなぁ……早く色々と話を進めてくれないかなぁ……
「ホタル様……なんで、そんなに面倒くさそうな顔で話を聞いてるんですか! 私が必死に説明をしてるのにぃぃぃぃッ!」
商業ギルドに受付のネェちゃんの声が響くと、一気に視線が集まり出す。
一瞬で無数の視線に晒された俺に追い討ちを掛けるように大きな声が向けられる。
「ハァイッ! テルテルボーイ! 数日ぶりに顔を出したかと思ったら、アタシの選んだ可愛い受付嬢ちゃんを涙目にするなんて、罪な男ねぇ……悪いテルテルボーイが見られるなんて、まさに衝撃的……インパクトゥゥッ!」
「よう……マダムピンキー……アンタは相変わらず元気だな……」
「ふふ、当然じゃない! 鍛えた筋肉が輝く限り……消えない胸筋ッ! 溢れる現金ッ! 震える背筋ッ! 人生を彩る、パラダァァイスッ!」
「いや、悪い……マジに話が進まねぇ……頼むから真面目に頼む」
「ノリが悪いわねぇ、テルテルボーイ? まぁいいわぁ……さぁ、チャッチャッと店の名前を書いてちょうだい! 書かないことには何も始まらないわぁ」
マダムピンキーに言われるまま、店名を記入していくと次に紹介して欲しい内容、つまりは受けられる仕事内容を記入する。
店名──カフェレストラン『Gold Rush キンザン』
店主──佐乃村 蛍。
ただ、こちらでは漢字が存在しない為、ただのホタルと記入した。
仕事内容
・商品販売──店舗にある物に限定してのみ可、取り寄せ不可。
・調理──創作料理、オリジナル料理、レシピがあればアレンジなしで調理も可。
実際に考えたが、これくらいしか書く内容がなかった。
むしろ、商品販売に関しては、記入欄に不可のみにすると、すべての品物や料理の販売が無理になると言われて、仕方なく記入してた。
内容を確認したマダムピンキーは、軽く頷きながら、くるりと一回転してから商業ギルドの判子を押してた。
「はい! これで間違いなく登録完了よ。本来なら初日に済ませる作業なんだけどねぇ……あ、そうだわぁ、テルテルボーイ宛に確認の手紙が『ドルミールの街』から届いてるわよぅ! ラブレターなら、良かったけど、残念……差し出し人は、商人のアッラノーマねぇ」
「アッラノーマ? あぁ、爺さんか! なんで商業ギルドに手紙なんか」
「さぁ? ただ……テルテルボーイ? アナタ、ちゃんと新しい拠点を構えた事実を伝えたのかしらぁ? むしろ、伝えてないなら、残念ボーイになっちゃうわよ?」
見透かされたように続く言葉の刃だった。仕方ないだろうが、忘れてたんだからよぅ……それより爺さんの手紙を確認しないとな。
確認すると心配しているといった内容が一行、あとは店を無事に開いたかの確認と取引がしたいといった文がズラりと並んでいた。
最後の一文で『数日の内にライムへ向かう用がある。店に寄らせてもらうぞ』と書かれている。
「まじに、爺さん暇なのか……マダムピンキー、もし爺さんが尋ねてきたら、俺の店を教えてやってもらえるか?」
「構わないわよぅ。商人が商人を頼り、街から街へと動き回るなんて、情熱的なファァァイ、ティングッ! アッラノーマ氏が来た際には、必ず案内してあげちゃうわぁ!」
ウィンクと同時に豪速球のハートを出すのはマジにやめて欲しかった。物理的にハートを出すとか、あれはスキルなのか……どっちにしても、マダムピンキーに渡したら絶対にダメなスキルだろ!
外に出てから、ポケットから煙草を取り出し、ターボで火を着ける。
「ふぅ……とりあえず、登録できたな」
煙を吐き出しながら、受け取った登録証を眺める。
俺はライムでの本当のスタートラインに立った。まぁ、まだ立っただけなんだがな。
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