42話
お久しぶりです。二章の更新を再開致します。
俺はその日、朝から外出、つまりは1人行動をしていた。
俺が1人ぶらついているのには、訳がある。
朝早く目覚めてから、モモとドレイクに声を掛けたが、モモは爆睡していて起きなかった。
ドレイクはしっかりと目覚めたが、モモを1人にすると後が面倒なので、ドレイクに伝言を頼み、俺はぶらりと朝市を楽しんでいる。
「やっぱり朝市ってやつは、色々あって楽しいよな」
俺が歩いていると、何故か周囲からの視線が突き刺さるような気がする。
「見て、あの頭……可哀想に“毛死病”じゃないか……」
「あまり見てやるな。苦労したんだろう……」
違う、この視線は哀れみだ……
「スゥ……ハァ……あぁ! 頭を剃ると涼しいなぁ! ベリーショート最高じゃないか! アハハハ」
フッ、俺の頭はベリーショートなんだよ! 変な病気にされてたまるか。
「見て、可哀想に……現実を受け入れられないのね……」
「見た目もアレだから、きっと孤独な人生だったのね」
朝市の清々しい空気の中で買い物のはずが、哀れみに晒される日が来るなんてな……
「はぁ、気を取り直すか……」
俺はコソコソと話していたオバちゃんの店で足を止める。
足を止めたことで会話が止まったみたいだが、人の頭部で話に花を咲かすなんてのは、ノーサンキューだからな。
「悪いんだが、その野菜を見せて貰えるか?」
「あいよ……好きに見とくれ」
売られているのは、カブみたいな野菜から、ナスの形をしたものまで、見たことのない野菜ばかりだった。
「この黄色いのは何なんだ?」
俺は黄色いナスを指差して質問をする。
オバちゃんは軽く驚いた表情を浮かべた後、すぐに教えてくれた。
「こいつは“ボーナ”っていって、このライムの街から離れた南の街『ベナナ』から来た野菜さ、淡泊でみずみずしい味わいで最大の特徴は炒めるとトロッとした食感を楽しめる不思議な野菜なんだよ」
あぁ、そのまんまナスだな。
黄色ナスを見て、とりあえず幾つか買おうとした時にオバちゃんから質問をされる。
「あんた? 買い物するなら、袋を持ってこないと入れられないじゃないか?」
「え、袋とかって入れてもらえないのか?」
「アンタ、普段は買い出しとかしないタイプかい? 朝市でいちいち袋を渡してたら、赤字になっちまうじゃないか……困ったねぇ? あ、そうだ!」
野菜売りのオバちゃんがオーバーアクションで何かを思い出したように声をあげる。
「アンタ、魔法堂に行ってみな。今日は多分、朝市に来てるはずだよ」
「魔法堂?」
「アンタ、本当に何も知らないんだね? いいかい!」
そうして説明された魔法堂の存在に俺は首を傾げていた。
なんでも、いらない品から、掘り出し物までなんでも、売ってる魔導具屋らしい。
ただ、毎日いるわけではないらしく、今回は二日間限定で朝市にいるらしい。
「いや、オバちゃん? 俺は単純に野菜を買いたくてだな? 魔導具なんてのには興味がないんだ」
「興味があろうがなかろうが、行ってみな。上手くいけば、まだマジックバッグの“小”くらいはあるだろうからね! 買い物は戦争だよ! しっかり準備してからまた来な!」
勢いに押し切られて、俺は言われた魔導具屋の朝市へと向かう。
辿り着いた先には、1人の婆さんが椅子に座り、その前に広げられた敷物には幾つもの品物が無造作に並べられていた。
こいつはまた……フリーマーケット初心者だって、もう少しマシな並べ方するだろうに?
「なんだい……見ない顔だね? 悪いが毛生え薬は置いてないよ」
「違ぇよ! なんでいきなり毛生え薬なんだよ!」
「なんでって、自分の頭に聞いてみな……」
態度の悪い婆さんだな? 買う気がなくなるぜ。
「まぁ、いきなり失礼な会話をしたんだ。悪かったねぇ。よかったら何か選びな、割引くらいしてやるからさぁ……カッカッカッ」
割引って、値札なんかねぇじゃねぇか……
その場にしゃがみこみ、並べられた品物を見ていく。
「なぁ、婆さん? 説明も値段も付いてないのに、どうしろってんだ?」
「聞きたいなら、品物を手に取って聞けばいいだろう? それともこんな婆さんに質問するのも面倒かね?」
「婆さん、アンタ……性格悪いって言われるだろ?」
「なぁに、この歳でいい人を演じるほど、大人じゃないだけさ……さぁ、聞きたいなら聞いとくれ、3回まで無料で答えてやるからねぇ」
煙管のような長い筒に火を着けると婆さんはゆっくりと吸い込み、朝焼けの空に向かって静かに煙を吐き出す。
その様子に俺もポケットから煙草を取り出し、ターボで火を着ける。
「なんだいそりゃ? 今のは魔法やスキルじゃないねぇ? だが、魔導具にしちゃあ、術式がまったく見えないし……説明してくれないかい?」
「なら、そっちも全部の商品の説明をしてくれるんだよな?」
俺はライターについて、分かる範囲で説明をする。
婆さんは、透明なプラスチックにも興味があるみたいで、力を込めて押してみたりと触らせた途端に大変だった。
とりあえず、静電気について説明をする。
「寒い時に金属に触ると“バチ”ってなるのが静電気で、それを起こすのがこの押す部分だな」
「それで、中に入ってる油に引火させるわけかい? よく出来たカラクリだねぇ……そりゃそうと、アンタは何を買いに来たんだい? まさか、偶然立ち寄った訳じゃないだろう?」
婆さんの言葉に俺は何を買いに来たのかを思い出して質問する。
「そうだった。魔法カバンを探してんだよ。婆さんの店ならあるかもってな」
「ほう? マジックバッグでなく、魔法カバンの方かい……あるよ? 少し古い型だが、これなら金貨2枚……と言いたいが、アンタがライターをくれるなら、半値で譲るよ」
「いや、高すぎだろうが! 金貨って……婆さんは煙草を吸うんだよな?」
「煙草? この“ケムリ”のことかい? そりゃあねぇ。婆さんになるまでの長い付き合いさ」
「なら、婆さん、これを試してみろよ。気に入ったなら、これもつけるから、値引きしてくれよ」
俺は煙草を1本手渡して、ターボで火を着ける。
その瞬間、婆さんの目が見開かれる。
「スゥ……はぁぁ……なんだいこりゃ」
「紙煙草だ」
「神タバコ? たしかに、神だって言われたら信じたくなる……ケムリとはまったくの別物じゃないか……」
「どうだ? いいだろう! 俺の信じる銘柄だからな。最高だろ?」
「神、タバァコ……メイガラァ……たしかに……知らなかったよ。そんな神があるなんてねぇ……長生きはするもんだよ」
その後、煙草を定期的に販売することを条件に、俺は“魔法カバン”と“マジックバッグ”、更に“土人形の指輪”の3点セットで金貨1枚にすると言ってきたので買うことにした。
煙草に関して、手持ちに予備がないまま、婆さんに値引きをさせるのは悪いので、とりあえず煙草を1本耳に挟み、残りを婆さんにやることにした。
「また来るぜ。婆さん。元気でな」
「あぁ、神・タバァコ・メイガァラに感謝して、吸わせてもらうよ」
発音が少し違うが、まぁ……この世界には紙煙草も銘柄って概念もないから、しゃあないか。
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