40話
朝の目覚めと同時に俺は店の倉庫に向かう。
「先輩……朝から、バタバタどうしたんッスかぁ……」
「おう、モモ。起きたのか? 宿屋側の寝心地はどうだった?」
「それが最高にベッドがフカフカで……じゃなくて、本当に何してるんッスか?」
「なに、今日の夜に備えて予備のガス釜を引っ張り出しに来たんだ。買った後に数年は使わないだろうって後悔したが、まさかの出番だな」
「いや、ガス釜を片手に担いで笑う先輩の絵面が、朝から怖すぎるッスよ……」
そう、今日の夜に備えて置かないと、間違いなく米がパンクする。
普段、店で使ってるガス釜は2台、どちらも1回に30食の米が炊ける大型だが、丼物となるとそうはいかないだろうからな。
最初に米を炊いて、保温用のジャーに移したとしても、次に炊ける米は60食分だからな。
「さすがに3回分もあれば大丈夫だよな?」
「先輩? 普通に考えてオーバーッスよ? 最初に炊けた分と合わせたら、2回炊いたら120食ッスよ」
「モモ、相手はあの騎士団だぜ? 当然、アルムさんと愉快な仲間達もいるはずだ!」
「あぁ……先輩、カツ丼一杯2000円は安かったかもしれないッスねぇ……今から値上げ考えるッスか?」
「いや、今更2000円のカツ丼が安いとか言い出して、大銅貨3枚とかにしたら騎士団の連中、全員を敵に回すぞ?」
モモからのいきなりの値上げ発言に呆れながら、ガス釜を厨房へと運び、しっかりと予備のガスホースを繋ぐ。
「よし、とりあえず試し炊きをしないとだな。少ない量だとあれだからなぁ、とりあえず15人前ずつにして、2台で試すか」
「先輩! モモとドレイクでいい事を思いついたッス! 聞きたいッスよねぇ〜? むしろ聞かないなんて無慈悲な真似は許さないッスがね!」
朝からテンション高ぇな。昨日の海老が今もテンション上げてるなら、当分の間、海老は禁止だな。
「聞いてるんッスか?」
「何を思いついたんだ?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべたモモが口を開く。
それに合わせてドレイクも決めポーズを取り、俺は苦笑いを浮かべる。
「先輩! ライスバーガーを売るッスよ」
「バーガーだよ。マスター」
なんで、ライスバーガーなんだ? 普通におにぎりとかでいい気がするんだがな?
「ライスバーガーか? その心は?」
「え、ライスバーガーとかけまして……マダムピンキーと、とくッス! どちらも衝撃的なインパクト!」
「マスター! インパクトしましょう」
いや、なんのこころだよ……
「悪い、マジの理由を教えてくれ?」
「いいッスか? おにぎりを作っても、買ってもらうまでが大変だと思うんッスよ? モモ達も普通にスライムを見て、食べようとは思わないッスよね?」
「確かにな……白い塊に海苔を巻いても、おにぎりを知らないと謎の塊だからな?」
「しか〜し! この世界には、既にサンドイッチが存在してるッス! 騎士団でもカツサンドは違和感なく受け入れられた事実を考えれば、ライスバーガーしかないッス!」
自信満々のモモに俺は納得させられた。
実際に違和感なく米を受け入れるのは難しいだろう。騎士団ではカツ丼が受け入れられたが、一般でもそうなるのかと言われれば、答えは未知数だからな。
「はぁ、わかった。ただ、ライスバーガーになると、かなり手間になるぞ?」
「モモとドレイクが頑張るッスよ!」
「頑張る!」
そうして、俺はライスバーガーを作成していくことになる。
炊いた米をバンズ型に加工して、焼きおにぎりにしてから、中身を決めていく。
・アボカドと海老マヨ。
・ウルフ肉の生姜焼き。
・ウルフ肉のテリヤキ。
・ウルフ肉のタコライス風。
・ウルフ肉のタンドリー風。
「待つッス! モモの海老アボカド以外、全部ウルフ肉じゃないッスか!」
「仕方ないだろうが! アルムさん達が討伐してきたウルフ肉がウォークインに山積みなんだよ! むしろ、ウルフ祭りなんだよ!」
そう、アルムさん達が猿公の森で大量に狩ってきたウルフ肉が大量に余ってやがる。いい機会だから、少しでも消費しないと本当にウルフ専門店になっちまう。
モモとの言い合いを切り上げ、仕込みに入る。
厄介な作業は一切ない。
やることは単純で一番面倒なのが、ライスバーガーのライスだからだ。
試作品があっさりと完成すると、3人で味見をしていく。
これが思ったよりも美味くて驚いた。
ウルフ肉はやっぱり豚肉のような味わいで実際に狼肉とは違うんだろうと感じる。
そうして試食をしていると、不意に店の扉がノックされる。
「誰だ? こんな朝早くから客が来るわけないんだがな……」
違和感を感じながら、俺は扉を開く。
「こんな朝早くから誰だ?」
俺の声に返事を返したのは支部長だった。
「すまないな。大男君、実を言えば謝りにきたのだよ。夜に予定していた食事の依頼なのだが、急遽、大規模な魔物討伐が入ってしまってね。数日は人手不足になりそうなのだよ」
まじか……ドタキャンじゃないが、こいつは……収入がパァだな。
「まぁ、理由があるならしゃあないよな。支部長さん自ら挨拶に来てもらって悪いな」
「いや、今回無理を言って頼んだのは此方だからね。大男君に誤解があれば、騎士団としても申し訳ないからねぇ。それで更に無理な願いなのだが、話だけでも聞いてもらえるかね?」
「立ち話もなんだから、中に入ってくれ。モモ! 悪い、お茶を6人分頼む!」
「ふぇ? ほひゃくさん、れすか? ふぇんふぁい?」
「食べながら喋んなって! とにかく頼む!」
モモの返事から支部長が何かを察したのか、ポリポリと頬を指で掻く。
「すまないな、食事中だったのかね?」
「あぁ、新しく売り出そうって商品の試作をしてて、よかったら食べるか?」
支部長が悩んでいると、背後からイケメン眼鏡が顔を出す。
「キサマは、何度言えばその態度を直すんだ! 大男! サンセル支部長に失礼だろうが!」
「お、イケメン眼鏡もいたのか? なら、丁度いいから食べろって、アンタもカツ丼を美味そうに食ってたからな、むしろ感想を頼む」
「エレガだ! エレガ! 変な呼び方をするな大男!」
そうして、ライスバーガーをハーフサイズにカットして支部長達に出してみる。
最初は不思議そうに確かめていたが、意外にも最初に口に運んだのは、イケメン眼鏡だった。
「う、うま……ううん! まぁまぁだな! だが、悪くない」
「素直な感想ありがとうな。支部長さん達も食べてくれよ」
そうして、ライスバーガーの試食会が始まると、すぐに支部長が口を開く。
「これなら、持ち運びが簡単だねぇ? エレガ副長もそう思わないかい?」
「はい! 間違いなく素晴らしい品です」
「うんうん。そうだね。なら、大男君? すまないが夕暮れまでに、出来るだけでいいのだが、このライスバーガーを用意して貰えるかね?」
結果、カツ丼はキャンセルになったが、ライスバーガーは200個程買って貰えた。
カツ丼屋から、ハンバーガー屋になった気分だな。
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