39話
店側に戻るとモモとドレイクが、食事をしないままで俺の帰りを待っていた。
俺が扉を開いて中に入った時は2人から全力タックルからのハグで出迎えてくれたのだから、心配させちまったよな。
「先輩……モモがどれだけ心配したか分かってるんッスか……次にこんな事したら、本気で正拳突きしちゃうッスからね」
「マスター……おかえりなさい……ドレイクもしちゃうからね」
そうして、2人からのハグが終わると俺は冷めたパスタにソースを見つめて睨めっこをしている。
「思ったより、パスタが固まってるな……なら、あれにするか……パイ生地があったよな」
俺の行動をモモとドレイクが気にしてるみたいだな?
「気になるなら、手伝ってくれ? 俺も早くみんなと飯を食いたいからな」
その一言を待っていたのか、モモが勢いよく飛び出してくると何故かドレイクも真似をしてポーズを取る。
アレだな……日曜の朝によくやってた“2人は○○”みたいな決めポーズだな。
「先輩! モモ達が来たからには問題ないッス!」
「な、ないです……か? マスター」
ドレイク、なんで疑問形なんだ? ったく。
「今からパスタ入りのミートパイ『ティンバッロ』をみんなで作るぞ」
「いや、先輩……いきなりわけの分からない名前を出されても困るッスよ」
「逆にいうが、イタリアの格式あるスパゲティパイの名前だからな……まぁ、あまり知らないかぁ」
「マスター? テイバロ?」
「ドレイク、『ティンバッロ』だ。イタリアって国で太鼓って意味らしいぞ」
俺は冷凍庫からパイ生地を取り出して切り離していく。
「太鼓を食べるの?」
「あはは、形が似てるからそう呼ばれてるんだろうな。因みにイタリアって国ではパスタに魂を込めてるからな……」
「その話はモモが説明してあげるッスよ! いいッスか、ドレイク……イタリアでパスタを折ると、死刑にされちゃうんッスよ!」
「死刑、ドレイク……パスタおらない……マスター、触ったらダメ……死刑されるよ」
両手を広げて大袈裟に説明するモモと本気で俺を心配するドレイク、ただ……今回はモモを素直に叱れないな。
「2人とも、イタリアでパスタを折っても死刑にはならない……ただ、死ぬほど嫌われるし……なんなら、ずっと後ろ指を刺されるだろうがな……」
「え、違うんッスか! だってイタリアッスよ! パスタの為なら戦うイタリアなんッスよ!」
イタリアに謝ってこい! って素直に言えないから、なんともなぁ。
「とにかく……それは勘違いから生まれたデマだ。まぁ、パスタについてはまた今度な……」
ドレイクとモモにパイ生地にフォークで穴を開けてもらい、その後にパスタとソースを入れていく。
「ほら、お前ら! 好きなだけチーズをぶち込んでいいぞ!」
そうして、山盛りのチーズが投入されていき、最後に生地で蓋をしてオーブンに入れる。
「あとは焼けるまで待てば完成だ」
ただ、『ティンバッロ』が出来るまで時間が掛かるので、その間にウォークインにしまってある魔物肉を片付けないとな。
「とりあえず、一番多いウルフ肉を厚切りステーキにでもするか? いや、メインがあるわけだからなぁ……」
「先輩! あれッスよ! イタリアといえば……ティラミスッスよ!」
「肉の話なんだがな……」
「マスター、テラムスって何?」
「いや、ティラミスな……あぁ、わかった! 予定変更だ! ただ、モモとドレイクはサラダ作りだからな」
2人にサラダを任せて、俺は即席ティラミスの作成とティンバッロの確認をしながら、動きづけていく。
「先輩〜サラダに海老を入れていいッスか?」
「あぁ? 俺は構わないが、ドレイクは海老食えるのか?」
「それなら……らいじょうぶッスゥ……今もモモが……ゴクン……しっかり、見てるッスから。ねぇドレイク?」
「……ふぁいひゅうぶ。ますたぁ……」
絶対食べてるな……まぁ、腹が空いたらつまみ食いか……しゃあねぇな。
「お前ら、食べ過ぎんなよ」
2人からの返事が返されると俺は不思議と笑みを浮かべていた。
そうして、即席ティラミス作りを再開する。
時間的に余裕がないから急がないとな。
ビスケットと生クリーム……クリームチーズっと、本当にこういう時は、『リセットカンパニー』のまさかのリセットシステムに感謝しかねぇんだよな……
まずは、濃いめのコーヒー(80cc)を耐熱容器に用意してから、別のボールに生クリームと砂糖、卵黄を入れて、泡立て器をぶちかます。
混ぜ合わせたら、クリームチーズを小分けにして入れていかないとな。
「マスター? 手伝う?」
「ドレイク、つまみ食いは美味かったか?」
困った表情を浮かべながらも、ドレイクは、小さくコクリと頷いた。
「なら、このチーズをちぎって入れてくれるか?」
「うん。ちぎり入れる!」
しっかり混ぜて、準備できたな。
「モモぉぉ! そろそろ、こい……」
「ふぁい……先輩、どうしたんッスか!」
はぁ……口にマヨネーズって、ずっとつまみ食いしてたのか?
「仕方ねぇなぁ。まぁいいか。2人には今から、ビスケットをコーヒーにつけて、器に敷き詰めてくれ」
言われた通りに、2人はビスケットをコーヒーにつけて容器に並べる。
次にチーズクリームを流し層を繰り返し重ねていく。
「できたの、マスター?」
「まだだ。急速冷凍で30分は冷やさないとな」
「モモがタイマーをセットするッス!」
時間的に考えれば、『ティンバッロ』と『ティラミス』は、ほぼ同時にできあがるだろうから、これで一安心だな。
「2人とも、お疲れ様だな。先に飲み物でも飲んでてくれ」
「わかったッス。ドレイク、行くッスよ!」
「うん。モモ姉、ドレイクもいく!」
2人揃って、仲良いな……まるで姉妹だな。
煙草を吸いながら、タイマーが鳴るのを待つ。
その後、モモとドレイクは口をソースまみれにしていく。
「先輩。もう食べられないッス……パスタのパイは……イタリア、最強ッスか……」
「マスター、いっぱい……」
「お前らなぁ……明日食べたらいいだろうに、こりゃ、ティラミスはお預けだな?」
「待つッス……先輩、デザートは別腹ッス」
「え、えっと……べつばらします」
こうして、うちの2人は別腹といいながら、ティラミスを平らげた。
俺はまだ余裕あるから、いいが別腹ってやつは便利だなぁ?
さて、明日の為に仕込みをしてかねぇとな。明日の夜はカツ丼祭りだからな! 気合い入れねぇとな。
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