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38話

 俺達の姿に気づいたのか、そいつらは慌てて向かってきた。


「モモ、ドレイクを頼む! あいつら、なんで街中にいやがるんだ!」


「わかったッス! モモは大人しくしてるッス……だから、絶対に近づけないでくださいね先輩!」


 ありえねぇだろうが! 街の中にスライムなんて聞いてねぇぞ!


「フンりゃァァッ!」


 地面に転がる石を全力でぶん投げる。

 スライムのコアが石に弾かれて粉々になる度に地面にはオーシャンブルーのゼリーが舞散っていく。


 ただ、遅い……距離もあるし、何より見通しが良すぎて、シューティングゲームの第一ステージみたいにしか見えねぇ。


 15匹のスライムをあっさりと倒した俺はすぐに【店舗収納】をオフにして、空いた土地に店を出す。


「モモ! ドレイクを連れて早く中に入るぞ!」


 モモとドレイクを両脇に抱えて全力で走る。


 敵であるスライムは完全に始末したが、理由が分からないし、他にもいるかもしれないと考えたら、完全にヤバい土地を掴まされたかもしれないな。


「はぁはぁ……焦ったな……」


 とりあえずの一服を開始するとモモが大声をあげる。


「煙草をぷかぷかしてる場合じゃないッスよ! クーリングオフッス! 絶対に詐欺じゃないッスか! 安い、ヤバい、危ういは、ダメ物件ッスよ!」


「とにかく落ち着けって……あのスライムどもは間違いなく、あの宿屋側から出てきてたわけだしな。ただ、あんな奴らが夜にウロウロしてたら寝れるもんも寝れねぇからな……」


「まさか……先輩! 行く気なんッスか! 明日には騎士団が来るんッスから、明日退治してもらえばいいじゃないッスか!」


「その騎士団が、明日は客として来るんだ。安全、安心、危険回避……客に戦わせるなんてダメだろうが?」


「馬鹿なんッスか! あれはモンスターなんッスよ! 街の不良じゃないんッスよ!」


「見てくるだけだ。もしヤバい時はすぐに戻ってくるから、大丈夫だって」

「うぅ、先輩が戻って来なかったら! モモは未亡人でドレイクはパパを失っちゃうんッスからね。絶対に戻ってくるんッスよ……」


「おう。いきなりモモを未亡人にしたら、マジにカナミンに地獄まで追われそうだからな。じゃ、用意したら行ってくるとするかな」


 俺は一服後に、厨房に向かうと手を洗い、パスタを鍋で茹でていく。


 同時進行で、ひき肉、ニンニク、人参、玉ねぎ、キノコを薄切りにして炒める。

 すべての具材に火が通ったのを確認してから具材をミキサーに移して、調味料として、塩、コショウ、オイスターソースなどを入れて最後にトマト缶を加えてスイッチを入れる。


 そうして、出来たソースをフライパンに移して再加熱していく。

 パスタが茹で上がり、湯切りまで済ませてから皿に移す。


「モモ、ドレイクが起きたら、フライパンのソースにパスタを戻して温めてやってくれ。任せたぞ」


「はぁ……何をしてるかと思ったら……本当に先輩は、先輩ッスね? 正直、ドン引きッスよ」


「褒め言葉として、貰っとくぞ。そんじゃ、行ってくる」


 俺はエプロンを外し、口にバンダナを巻き、宿屋側へと向かう。


 スライムの姿は外にない。ただ、宿屋の中はどうなってるかだよな。


 宿屋の入口から扉を開いて中に入る。ただ、ずっと使ってなかったわりに綺麗で逆に驚いた。


「何もいないのか?」


 とにかく、一階にある部屋や食事スペース、倉庫などを調べていく。


 そうして、一階の確認が終わり、二階の宿屋側の部屋も確かめるが、何もいない。

 ただ、二階の部屋のすべてに俺は違和感を感じていた。


「確か、前の持ち主は夜逃げしたんだよな……夜逃げするやつが、全室のシーツと枕カバーを交換してたってのか?」


 余程の綺麗好きだったのか?


 そんな俺は宿屋の裏に井戸がある事実に気づき、外に出る。


 スライムがいるとしたら、井戸ってのは定番だよな?


 周囲を警戒して井戸を確認するが、普通の井戸だった。

 滑車を下ろせば、水の音が返ってくる。


 スライムの姿は何処にもなかった。


「本当にどうなってんだ?」


 そんな時、宿屋の中から僅かな光が零れたのが見えた。


 慌てて光が見えた位置に駆け込む。


「大浴場? 随分と金を掛けてたみたいだな……さて、何が光ったんだ」


 俺は大浴場の中を確かめるように歩いていく。ただ、他の部屋などと違って小窓なんかはない。


 夕暮れの光も届かない暗闇の中で、光るものを見つけて拾い上げる。


 見慣れたその紙には『リセットカンパニー』と書かれており、裏には細かい文字が確認できた。


 すぐに大浴場から移動して、夕暮れの光を使い文字を読んでいく。


『今回はリセットカンパニーをご利用いただきありがとうございます。依頼主の『天使』様からメッセージがございます。


 この度は、新たな店舗を手に入れた事を祝しまして、リセットカンパニー様に店舗クリーニングと設備設置を依頼しました。オマケとして、新たにユニークスキル【従業員教育】をプレゼントします。使い方は裏面を見てください。アナタの天使より』


 ふざけた手紙だな……


 更に最初は気づかなかったが宿屋のカウンターには『リセットカンパニー』からの内容証明が置いてあった。


 ・風呂の清掃。

 ・客室クリーン。

 ・ベッドメーキング。

 ・スライムによる外壁清掃。(スライムは使用後に差し上げます。ご自由にお使いください)


 追加設備一覧。

 ・自動風呂沸かし機能“追い焚きタイマー付き”

 ・リセットクリーン機能

 ・永久外壁塗装


 最後に「仕事はきっちり、アフターゼロを掲げる。クレームや対応はおこないません」あなたの『リセットカンパニー』と書かれていた。


「またこのパターンかよ! ありがてぇよ! 風呂とか、ただな……外壁塗装にスライムを街に持ち込むなっての!」


 最後に俺は新たなスキルを確かめる。


 【従業員教育】についてメモを見直す。


 【従業員教育】──従業員の身体的な能力を使用者を基準として随時強化する。知識などは学ばないとならない。


「つまり、ドレイクとモモの2人が力仕事もできるようになるってことか? どっちにしても危ないから、保留だな……」


 とにかく、スライムは一時的なものだった事実に安堵した。


 その後、一服がてらに宿屋を試しに一度【店舗収納】に入れてみることにした。


 無事に収納ができたので、取り出してみる。


「おいおい……ライトがついてるじゃねぇか!」


 俺は宿屋の中を再度確かめることになり、1つわかったのは、室内は日本のホテルみたいな造りに一瞬で変化している事実だった。


 宿屋としては、使えねぇな……はぁ。

お読みいただきありがとうございます!

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☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。

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