37話
商業ギルドに現れたアルムさんが慌てて喋り出そうとすると、マダムピンキーが間に割って入り、両手をクロスさせてバツ印をアルムさんに向ける。
「ノンノンNOッ! 今のテルテルボーイ&プリティーちゃんズは、商業ギルドの大切な仲間、即ち! このクラクラム・ドピンキーのファミリーッ! 依頼なくして、仕事に非ァ〜ず! お分かりガール?」
「あぁ、商業ギルドマスター殿……大変失礼した。騎士団から正式な依頼を頼みたいのだ……依頼を頼めるだろうか」
「依頼内容と報酬……あとは誰に依頼したいか……すべてをしっかり書くのよぅ! ついでに、指名依頼なら、情熱的なメッセージッ! それがないと気持ちが伝わらないわぁ!」
「情熱的……待ってくれ、いきなり言われても心の準備がだな……ホ、ホタル殿……なんと書いたらいいんだ」
いや、俺に聞かれてもなぁ……
「とりあえず、アルムさん。依頼内容と報酬だけは聞かせてくれるか?」
「依頼内容は調理依頼なんだが……」
「ちょっと待つのよぅ! ストッピィィング! へい、ガール? アナタはおバカさんなのかしらァ! テルテルボーイは商業ギルドに所属なの! 料理の依頼じゃ、日割り分しかテルテルボーイの報酬にならないじゃない! げっそり衝撃的なナンセェェンス!」
本当にマダムピンキーは元気だよな……ただ、こればっかりはダムだな。
「待ってくれよ。マダムピンキー、アンタの優しさはわかるが、受ける受けないは俺が決める案件だろ?」
「うぅーん……ガッテム! テルテルボーイ! 甘すぎヤバすぎ、デンジャラス!」
「はぁ、とりあえず、内容と報酬はいくらになるんだアルムさん?」
「そうだな。内容として、料理の大量注文になる……つまり、カツ丼を頼みたい!」
ん? なんでカツ丼なんだ?
「そう不思議そうな表情をしないでくれ、実をいえば……サンセル支部長とエレガ副長の会話から、カツサンドのみを食べた団員に話が伝わってしまってな……」
いやいや、騎士団がなにカツ丼に左右されてんだよ! カツサンドで十分だろうが!
「はぁ……つまり、依頼内容はカツ丼だな。何人前だ?」
「受けてくれるのか! ホタル殿!」
「待ちなさいって言ってんのよぅ! テルテルボーイ!」
「そうッス! その話は待ったッスよ! 先輩!」
マダムピンキーとモモが俺に詰め寄り、色々と怒られた。
「先輩……まさか、普通の値段で売る気じゃないッスよね? いくらにする気なんッスか!」
「そうよぅ! プリティーちゃんが言う通り、食材も調理もテルテルボーイがやるなら、特別料金が基本よぅ! 吹っ掛け上等! 騎士団の依頼なら搾り取りなさァ〜い!」
そうして、面倒な話し合いになり、最終的にアルムさんから、カツ丼1人前を大銅貨2枚で100食の依頼になった。
「モモ、大銅貨っていくらだっけか?」
「え? 先輩、大銅貨は1枚で1000円ッスから、カツ丼一杯2000円ッスね。都内で出すような値段ッスよ」
悪い笑みだな。ドレイクが真似しないか心配だな。
「ってことは? カツ丼だけで20万かよ……騎士団の飯ってのは、贅沢だよな」
「何言ってるんッスか……先輩、カツ丼を届けるよりもいいアイデアがモモにあるッス」
モモがまた悪い顔になってやがる。何を考えてるんだか?
「とにかく、モモに任せるッス! アルムさん! 話があるッスよ」
それから数分の話し合いでアルムさんが「一度確認させてくれ! 依頼の数は間違いなくそれで頼む」と言って走り去ってしまった。
「モモ、お前……アルムさんに何を言ったんだ?」
「せっかく土地を買ったんッスから、あの場所に食べに来るなら、別料金でワインを大銅貨5枚、つまり半額で1人一本限定で販売するって言ったッス!」
日本で2000円くらいでも売ってるのに……これじゃ俺の店がぼったくりじゃねぇか……
色々と話し合ったが、最後にはモモに言いきられた。
「いいッスか! モモ達は、この街で生きるって決めたんなら価値はこの街に合わせるのが基本なんッス!」
「言いたいことは分かるが……それはなぁ」
「先輩は嫌かもしれないッスけど、モモとドレイクを養うなら、先輩がしっかりするしかないんッスよ!」
「だな、養うって決めたんだから、男に二言はねぇ! やるなら腹を括るしかないからな」
その後、アルムさんが戻ってくるとサンセル支部長とエレガ副長の許可が降りたと言われる。
時間を確認して、明日の夜に食べに来てもらうことに決まった。
さすがにいきなり、今から来られても、また米が無くなる未来しか見えないからな。
マダムピンキーとブルーベリーの2人組に挨拶を済ませてから、俺達は買った土地に向かって歩いていく。
「先輩。良かったッスね。これでお店がちゃんとオープンできるッスね」
「そうだな。ただ、オープンと同時に入った注文がカツ丼100人前だからな……カフェレストランより、丼屋の方が向いてたか?」
「マスター……マスターのカツ丼は美味しい……よ、だから大丈夫」
「ドレイク。ありがとうな。とりあえず、夕食も作らないとだな」
俺達はそんな会話をしながら、街外れへと歩いていく。
大通りを抜けて、居住区を超えた辺りで、ドレイクが限界を迎えたので背中におぶる。
「先輩はそうしてると人攫いよりは、パパって感じに見えるッスよ。いい感じッスね」
「まぁ、ドレイクには親が必要になる。それなら俺が少しは頑張らないとな……」
「素晴らしい心掛けッスね。なら、ママにはモモがなってあげるッスよ。先輩1人だと、むしろ心配ッスからね」
いや、それは……
「そんな事を聞かれたらカナミンに俺が100回は吊るされちまうな……」
「何を今更言ってるんッスか? 既に無断外泊なら8日目ッスよ。責任を取らない方がママは怒るッスよ」
ヤバい会話が続いたが、俺達は無事に目的の土地に戻ってきた。
しかし、俺とモモは目の前に広がる光景に驚愕して目を疑った。
「先輩……あれって、土地に付いてた宿屋ッスよね?」
「なんで、あんな……とにかく行くぞ。モモッ!」
俺達は宿屋まで一気に駆け出した。
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