34話
商業ギルドに到着した俺達を待っていたのは、聞き慣れた声だった。
「ギルドマスター! ブルーさんが邪魔をしたせいで有能にして絶対的利益を生み出す新人が街から旅立ったかもしれないんですよ!」
「心外ですね。心外と侵害、正しく! 濡れ衣ですよ! いつこのブルーが、新人である彼が街を出たがるような真似をしたと言うんですがねぇ!」
「新たな商売と利益ばかり考えて個人で話をしようとする身勝手商人のブルーさんに嫌気がさしたのではないですか?」
「いやいや、色仕掛けの露出狂と間違われたベリーさんが原因じゃないんですかねぇ!」
外まで聞こえてくるキャンキャンした言い合い……日を改めるか……
「何してるんッスか? 中から元気な声がするんッスから入るッスよ」
忘れてた。モモはあんまり言い合いとか気にするタイプじゃなかったな。
カラン……と、商業ギルドの扉に付けられた鈴の音が鳴る。
開いた扉から俺が中に入ると正面に座っていた受付の姉ちゃんが引き攣った笑みを浮かべる。
「またかよ……本当に……」
「先輩……こんな雰囲気だと一回は言ってみたいセリフとかありますよね! 先輩はなんかないッスか!」
「あぁ、言ってみたいセリフだぁ? いや、ないな……むしろ、モモは何を言いてぇんだよ?」
「決まってるじゃないッスか……先輩、やりやしょう……中にいるヤツらは全員捕まえて、逆らうなら始末してやりやしょう。金も命も均しく平等に奪ってやりましょう」
「いや、どこの国のギャングだよ……あんまりそんな事言ってると誤解されるからな」
「わかってるッスよ。軽い冗談じゃないッスか」
「全員動くな! 動いたら、マスターとモモ姉が皆、始末する! 金も命も! みんな奪うよ!」
ん! 何言ってんだ、ドレイク!
「待てって!」
俺が慌ててドレイクの口を塞いだ瞬間、武器を構えた商業ギルドの職員達が周囲を取り囲んでいた。
流石に笑えねぇぞ。
「悪ぃ、ウチのが変なことを言ったが悪気はないんだ。すまない」
とりあえず、謝罪から入るが許してくれる気はないらしい。まぁ、当然だよな。
銀行の中で「銀行強盗だ! 金を出さねぇと始末しちまうぞ」って言ってから、冗談でしたなんて、日本でも許されねぇからな。
「冗談とは、愚かな言い訳だな? とにかく誰か! 騎士団を呼んでこい! ギルドマスター達が会議してる間に片付けんぞ!」
「はぁ……モモ、ドレイク、頼むから、マジに頼むから絶対に手を出すなよ? もし手を出したら──」
そこまで言い掛けて、商業ギルド側の人間がドレイクに舌打ちをした。
「おい? 今、お前……ドレイクに舌打ちしたよな? ウチの人間に舌打ちって上等きったよなぁ? なぁ!」
そこからは反省しかない。ブルーベリーの2人が騒ぎを聞きつけて、裏から飛び出して来るまでの間に被害者多数の惨状を作り出してしまった。
それからすぐに騎士団の奴らがやってきて、俺の顔を見るなり、溜め息を吐いた。本当にすまん。
騎士団に商業ギルドの人間が色々と話してるな。
「聞いてくれ! いきなり入ってきて命を奪うとか、始末するだの言ってきたんだぞ!」
「そうだ、最初は和解を申し込んできて、いきなりキレだして! 早く捕まえてくれよ」
ひでぇ言われようだな。ただ、何一つ間違ってねぇから、否定できねぇ。
騎士団の方は、宥めて説明してくれてるみたいだが、商業ギルドで色々とやるのは無理そうだな……拠点は別の街にするしかないか。
不安そうに怯え泣きそうなドレイクと、絶望一色で体育座りしながら、魂が抜け出しそうなモモ。
2人を俺はしっかりと抱き締める。
「大丈夫だから、何とかなるから気にすんなって、ほら元気だせって」
俺がそう口にすると、背後から足音が近づいてくる。
「なんとも派手な登場を決めたみたいじゃないかぁ? ブルーちゃんとベリーちゃんから聞いてた以上に、そう……スンバラシイィィィィ! インパクトゥゥゥ! キラキラに眩しいじゃないの!」
振り向くと堅苦しい服装にしっかりと化粧をしたおっさん……いや、オカマさん? が楽しそうに微笑んでいた。
「いや、インパクトなら、アンタが優勝だろ……」
「あら、しっかりと相手を立てられる発言、ま・さ・に! 衝撃的な新人ねぇ! いいわ。アタシ、『マダムピンキー』が、この揉め事は丸呑みにしてあげちゃう!」
マジに誰だよ……
俺はとりあえず、ブルーベリーの2人に視線を向ける。
何故か安堵の表情を浮かべてるのも、意味わかんねぇよ……
「色々と悪いわねぇ? アタシはこの商業ギルドのマスターをしているの。名前は『クラクラム・ドピンキー』よ。貴方と同じく、鍛えた肉体こそ、美しいと考える存在なのよ。よろしくねぇ」
なんで、ウィンクした? 何より、情報量がやべぇ、ギルドマスターなのか、ドピンキーで全部持ってかれたぞ。
「言葉が出ないみたいね? テルテルボーイ。いいわ、素晴らしい……そう、衝撃的なインパクトゥ! すべての人に愛を振り撒きたいのよぅ、ステキに明日がパラダイスゥゥゥ!」
俺が固まる中、ドレイクが何故か“パチパチ”と拍手をしているので、とりあえず止めさせた。
「アタシばっかり喋るのは、フェアじゃないわねぇ。とりあえず、勘違いから、ぶっ飛ばした事実までは、金貨orボディ! どっちで払うか決めなさい。テルテルボーイ!」
「金貨で払う! 謝罪もさせてもらう!」
「悩まないなんて、ステキねぇ。ただ、商人としては、働いて返す選択肢を選ぶ場面もあるわぁぁよ! それだけは忘れたらダメよ。わかるわねぇ?」
「とにかく、仲裁に感謝する。あと、ドレイク! モモ! 2人もしっかり謝るんだ! 誰がじゃなく、俺達3人がやらかしたからな」
それから、俺は頭を下げる。2人も素直に従った。
「モモが悪ふざけをしすぎたッス……ごめんなさいッス」
「えっと、お金と命を取ろうとして、ごめんなさい……もう、取りません」
俺が困った表情になると、商業ギルドマスターは笑い出した。
「いいわねぇ。テルテルボーイも、プリティな2人も、合格だわぁ! まさに、衝撃的なインパクトゥ! アタシのことは、今日から“ママン”or“マダムピンキー”のどちらかで呼ぶのよぅ!」
とりあえず、俺達はマダムピンキーに気にいられたらしい。
本当に俺達がいるのは、商業ギルドなのかと疑いたくなるが、質問する勇気は流石にねぇ……
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