32話
俺の発言に奴隷商だけでなく、モモと回復屋の女も驚いているのが反応でわかった。
「こちらとしては、支払いをして頂ければ問題ないですが、今現在、1人分の治療費しか騎士団から受け取っていませんが、お支払いは可能ですか?」
「それなら問題ない。治療費はいくらだ?」
「治療費については、一律でゴル金貨1枚となります。『ライム』に居住している場合は分割払いも可能ですが?」
「俺達は来たばかりだ。だから、現金一括で頼む」
話を進めているとモモが怒りながら俺に怒鳴り声を浴びせる。
「待つッスゥゥゥッ! モモは治療なんて必要ないッス! 何を治療する気なんッスか!」
俺はモモと視線が合う位置まで屈む。
無言で屈んだからか、モモが驚いているが、静かになったこのタイミングを逃す気はない。
「モモ。お前とは長い付き合いだ。それこそ、前の職場、つまりお前がバイト先にくる前からだからな」
「なんで、そんな昔の話を始めようとするんッスか!」
「まぁ、聞けっての? 俺はモモの母ちゃん……つまり“カナミン”から飯を食わせて貰った頃からの付き合いだ。だから、お前の事故についても知ってる」
「うるさいッスよ! それは今関係ないじゃないッスか!」
「頼む。モモ……俺からしたら、モモは大切な家族なんだ。ひと握りの確率でも、お前の後遺症が消えるなら、俺は全部の可能性に賭けたいんだ!」
俺はそう口にして頭を下げる。
「あの……盛り上がっているみたいですが、治療師ギルドは暇ではないので、早く決めていただけますか? 2人なら2人まとめての方がこちらとしても楽なので……」
回復屋……マジに空気読まねぇな。
それから、すぐにモモは納得してくれた。
ドレイクとモモは奴隷商の用意した部屋に移動して、数分で戻ってきた。
「無事にお嬢様方の治療は終わりました。ドレイクちゃんは、記憶に中から一部の辛い記憶と、全身の傷に対しての治療魔法を掛けた。ただ、一部のみ、本人の希望で残す形で終了。モモちゃんに関しても体内の動きを調整しましたので、治療は完了です」
「モモもドレイクも無事なんだな。ありがとうな。ただ、回復屋さんよう? 記憶をいじるとか、ドレイクの一部ってのは?」
「本人から、貴方の頭の紋様と同じように傷を残して欲しいと頼まれましたので、肩の方に残してあります。奴隷ではないとの発言もありましたので意志を尊重させていただきました。記憶は前の主から受けた暴力に関する部分になります。なので多少は幼くなるかもしれません」
本来なら、問題ありまくりな気がするんだが……
俺がドレイクの方を向くと、何故か嬉しそうにドレイクが肩を見せてくる。
「何してるッスか! ドレイク、ダメッスよ。無闇やたらに服から肌を見せたら危ないッスよ」
「なんで? マスターにしっかり身体を見せないと……見てもらったら、傷ないのがわかるから」
「あはは! そうだな。なら、今度風呂に入った時にしっかり確認するかな」
「うん。マスターと入る」
そんなやり取りをしていたんだが、何故か、奴隷商からも、回復屋からも、唖然とした視線を向けられ、モモに関しては、俺に目掛けて、全力ダッシュで飛んできている。
「先輩ッ! 馬鹿なんッスかァァァァッ!」
ノーガードからの飛び膝蹴りだった。
視界がブラックアウトしてから、目を覚ますと、奴隷商が気づいて俺に水で濡らしたタオルを渡してきた。
「大丈夫ですか? 素晴らしく綺麗な攻撃でしたから、わたくしはびっくり致しましたよ。いやはや、長生きはするものですねぇ。奴隷商館の中で暴れられるなど、田舎だけの笑い話や軽い冗談かと思っていましたからねぇ」
「あぁ、なんか騒がせて悪ぃな。モモのヤツ、元気になった途端に暴れやがって」
「理由は違うと思いますがねぇ。それはそうと治療師ギルドから来られたあの方には、モモ様がゴル金貨を渡して帰られました。既にドレイク様の奴隷登録と奴隷解放も済んでいますのでご安心ください」
話を聞く限り、俺は思ったより長く気絶してたらしい。本当に身体が頑丈で助かったぜ。
「それと……ホタル様はもしかして気づいてらっしゃらないかと思いまして……一応お伝えしておきますが……」
俺は奴隷商……いや、リオからの言葉に耳を疑った。
「はぁ! ドレイクが女の子だァァ!」
「はぁ……やはりですか、何となくそんな気はしていましたが……まぁ、わたくしも最初は分かりませんでしたからねぇ。栄養失調に加えて、身なり、子供ながらの身長、声、すべてがどちらとも取れましたからねぇ」
「いや、おかしいだろ! だってドレイクは一度も奴隷君って呼ばれて否定しなかったんだぞ?」
「それなのですが……本人からは──“女の子だって言われたことなかった”と言われましたからねぇ……まったく、前の主人はどのような生活をさせていたのか、不憫でなりませんねぇ」
「はぁ、取り乱した、悪ぃな。ただ、ドレイクはドレイクだからな。驚いたけど、その事実は変わらないわけだから、問題ないさ」
「そうですね。ホタル様は良き主……おっと、失言でしたね。良き家族ですね。ドレイク様もホタル様とモモ様とずっと暮らすことを望んでおられますからねぇ……その証拠に首輪を外すことを拒否されました」
「え、なんでだよ! ならドレイクは奴隷のままなのか!」
「いえ、正式に奴隷からは解放されてます。本人の強い意思というやつですねぇ。長く奴隷を扱うと不思議とある話ですからね。繋がりを大切にしたいのでしょうねぇ」
ずっとか……もし、俺とモモが日本に帰る手段が見つかったり、無理矢理って形で日本に帰されたら……ドレイクは……
「どうされましたか? 悩まれた表情を浮かべて?」
「いや、むしろ悩むより、腹を括る為に頭を整理しただけだ。そうだ。回復屋の場所だけ教えてくれないか?」
「はい? まだ痛むのですかな」
「違うな。場合によっては、死ぬ程ぶっ飛ばされるかもしれないからな」
「へ?」
俺はモモに伝えないと駄目だと決心した。最悪の場合は、モモだけでも日本に帰してやるつもりだが、ドレイクと知り合っちまったんだから、見捨てるなんてできねぇ。
だから、俺はこの異世界ってやつで暮らす! モモには呆れられるだろうがな。
「先輩……歯を食いしばるッスよ!」
話しを切り出した途端にこうなった。まぁ……覚悟はしてたがな……
モモの目の前に胡座をかいて座り、目を瞑ってから、歯を食いしばる。
ベチ。
そんな軽い音が頭部から鳴る。
「先輩、モモは先輩と居るって決めてるッスからね。それにモモが居なくなったらお店のインフラは壊滅なんッスからね? むしろ、先輩はモモとドレイクを可愛がってしっかり養うッス。いいッスね!」
モモからそう言われて、呆気に取られたが、モモとその後ろにいるドレイクが返事を待っている。
「だな。俺の家族はお前達だからな。これからも頼むって話だな」
改めて、俺とモモは日本を諦める選択をした。モモからすれば、家族がいる日本を諦めるのは辛い選択だと思う。だから、モモとドレイクの2人を泣かせないように気合い入れないとな。
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