31話
俺の姿に気づいたドレイクは慌てて、服を手に取り、身体を隠していく。
「先輩! 何してるんッスか! 早く出ていくッスよ!」
「あぁ、それよりモモ! 奴隷商の奴はどこだ!」
「何言ってるんッスか! 先輩が蹴破った扉の下敷きッスよ!」
「え?」
俺は勢いよく踏み込んだ扉の下に視線を向ける。
扉と床に挟まれて目を回した奴隷商は確かにそこにいた。
「いや、大声が……」
「ドレイクの傷とあと、とにかく早く出るッス!」
「おぅ、ただ、ドレイクが服を脱ぐなら、男の俺の方が良くないか?」
「いいから、早く先輩は部屋から出るッスよォォォォ!」
モモの踏み込みに、咄嗟に両手でガードしたが、フェイントからのカポエラ式のソバット(パラフーゾ)を右頬に食らって俺は部屋から吹き飛ばされる。
いや、マジに理不尽すぎんだろうがぁぁぁ!
そうして、騒ぎを聞いた兵士連中が奴隷商の手当てと、扉部分をベッドシーツで被っていく。
介抱されている奴隷商が俺に向かって話し掛けてくる。
「うぅ、本当に酷いじゃないですかぁ、わたくし、何か恨まれる真似をしましたかねぇ。あたたた……」
「なんか、悪ぃ……ただ、何がなんだか、俺にも分からねぇ……モモのやつ、全力でフライングソバットを食らわせやがって……一般人なら死んでるぞ……ったく」
「おやおや……まぁ、女心ですねぇ。モモ様からすれば、貴方様に妹分の身体を見せるのを躊躇われたのでしょうな……痛々しい傷が刻まれていましたからなぁ」
奴隷商のおっさん、頭を強く打ちすぎたんだな。ドレイクを女と勘違いしてるみたいだな、悪いことしちまったな……
「まぁ、わたくしも、最初から女性職員を同行させなかった落ち度がありますからねぇ。一応の確認ですが、治療師を呼ばれますかねぇ? 奴隷解放の書類自体は前の所有者からの“虐待あり”と書きますので問題はありませんが」
「問題しかねぇだろ……」
徐ろにポケットに手を伸ばして煙草を取り出すと火をつける。
「ふぅ……なあ、奴隷商さんよう、ドレイクの傷ってやつは、その回復屋を呼べば何とかなるのか?」
「奴隷商さんって……わたくし、自己紹介をしたのですが……そうですねぇ。傷そのものはキレイに治せるかと……それこそ、お連れ様と同じくらいには、美しい状態の肌になるでしょうねぇ」
お連れ様って……モモか? モモが聞いたらドレイクと一緒の性別にされたって、キレてまた蹴りが飛んできそうだな……むしろ、モモはもう少し女らしくならないとダメだよな。
「どうかされましたか? やはり、治療師はやめになさりますか? 金額が金額なので、わたくしもあまりお勧めはしませんが」
「いや、悪ぃ……回復屋を呼んでくれ、話は来てからなるだろうがな?」
「それでしたら、すぐに手配しましょう。ただ……場所を変えましょう……流石にこれ以上は騎士団側に迷惑になりますからねぇ」
「いや、それがまだこの街に来たばかりで行く宛てがなくてな」
「でしたら、わたくしの商館にお越しください。馬車を待たせてあるので移動は問題ありませんからねぇ。サンセル支部長に伝えて参りますので、お待ちください」
話があっさり纏まったのか、俺達は騎士団からすんなりと移動することが出来た。
最後に支部長から言われたのは意外な言葉だった。
「色々と悪かったね、大男君。君が善い人物で助かったと、正直に言えば私はホッとしているのだよ。お陰で大切な部下達を奴隷として、手放さずに済んだのだからね」
「あれはマジだったのかよ……アンタ以外に怖い人なんだな?」
「大男君にだけは言われたくないな。ツケだと言いながら、アレだけの品物を正当な金額で飲み食いさせる大男君の方が余程、恐ろしいと私は感じたからねぇ」
鋭く痛い視線を浴びながら、俺達は騎士団から奴隷商の商館へと移動する。
見送りにアルムさん達が出てきてくれて、挨拶を済ませることもできたから、やり残した事もないだろう。
そうして馬車は奴隷商の商館に到着する。
「先輩……なんか、すごい大きいッスよ……」
「そりゃ、奴隷商らしいからな。小さかったら大変だろ?」
「……先輩、まさか……モモを奴隷にする気じゃないッスよね!」
何故か、無い胸を両手でガードするモモに俺は小さく溜め息を吐いた。
「俺がお前を奴隷にするわけないだろうが、バカ言ってないで入るぞ?」
「先輩のバカ! 意気地無しの甲斐性なし! モモが誰かに取られて泣いても知らないッスからね!」
「その時は……いや、やめよう……」
モモと相手が喧嘩した際には、助けてやらないとな……相手が一般人なら間違いなく息の根を止められちまうからな……
「ふん! 先輩は素直じゃないからよくないッス……でも、やめて欲しいなら、モモは優しいからやめてあげるッスよ。ふふふっ」
なんでモモのやつは勝ち誇ってんだ。
そんなやり取りをしていると、奴隷商から声を掛けられる。
「さぁ、中へどうぞ。わたくしの商館には、多くの奴隷を用意してありまして──」
なんか、スゲェ説明してくれてるが正直、興味ない話だから、スルーだな。
「──と言った具合に、ホタル様が望む際には、最高の女奴隷を用意することが可能になっております!」
「それくらいにしとけって、モモがマジに殺気を放ってるから、マジにやめた方がいいぞ?」
とりあえず、奴隷商に何かあるとややこしくなりそうなので、モモと奴隷商の2人を止めておく。
「ドレイク? お前を今から解放するが、その前に傷をキレイにしてもらう。怖くないか?」
「……マスター? キレイにするなら、水を掛けてくれたら大丈夫です。冷たくても熱くても我慢できます」
「……いや、大丈夫だ。ドレイク……ゆっくりでいいんだ。よしよし」
俺は小さなドレイクの頭を優しく、それでいてしっかりとガシガシする。
商館の広間に通されると、複数の使用人達が一斉に奴隷商に頭を下げていく。
「おかえりなさいませ。リオ・タミン様。いらっしゃいませ。お客様」
そんな広間で頭を下げていない全身白ローブで顔を隠した怪しい人物が1人いる。
そいつは軽い足取りで俺達の前に歩いてくると、手を前に出してきた。
「リオ・タミンさんですね。治療師ギルドから派遣されて来ました。すぐに治療に入りますので部屋に案内をお願いします」
声からして若い女だとわかったが、あまりに怪しすぎるだろ。
「急ぎの依頼に応じて頂き感謝致します」
「これが仕事ですので、それに傷ついた存在を癒すことが我々治療師ギルドの信念でもありますからね」
そんな白服女の視線が俺に向けられる。
「考えるに貴方が奴隷さん達の主ですか?」
「達じゃねぇんだ。奴隷なんて持つ気はサラサラねぇよ。ただ、ドレイクの治療とモ《・》モ《・》の治療を頼みたい。対象が2人になるが大丈夫か?」
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