30話
朝になり目を覚ます。
あれだけ、駄々を捏ねてたモモはしっかりと、境界線を室内に引いてから寝やがった……別々の部屋で良かったんじゃないか?
「マスター……おはようございます。お水を貰ってきました」
俺より先に起きてたのか? むしろ、ちゃんと寝たのかが気になるんだがな。
「あ、あぁ、悪いな。あのよう? お前の名前ってやつは、ないのか? あのバカ商人が呼んでたやつ以外でだぞ?」
「名前ですか? 奴隷君って呼ばれて嬉しいです……この名前はもらえないんですか……ダメなら、その別の呼び名を貰えたら嬉しいです……」
声が今にも消えちまいそうじゃねぇか……
「奴隷君ってのは、あまりな……好きな名前にしていいんだぞ?」
「……」
「はぁ……わかった。ならせめて、そうだな……奴隷君、ドレイくん……ドレイク! そうだ! お前は今日からドレイクだ。カッコイイし、ドラゴンだからな、自由と力の象徴だ! 大きい男になるなら、間違いないな!」
「ドレイク、ドレイク……は、はい。頑張って、大きな男の人になれるように頑張ります」
これで名前の問題は解決だな。ヒヤヒヤしたが、これで問題が一つ解決だ。
モモが起きてから、奴隷君の名前をドレイクに改名させた事実を伝える。
「えぇ! 先輩、モモが寝てる間にそんな大切な話を決めたんッスか!」
「まぁ、そうなるな? いい名前だろ!」
「モモなら、もっとカッコイイ名前にしたッスよ!」
「ん? 例えばどんな名前だよ?」
「最強のジョン・ジョーンズ──」
「待て、確かに強いが……ダメだからな! お前の場合、名前に見合った強さを求めるだろうが!」
俺も知る世界最強の1人だが、そんな人物の名前をもらったら、プレッシャーで潰れちまうだろうが!
「とにかく、ドレイクに決定だ。ドレイク、構わないか?」
「あ、はい。マスター……頑張ります」
やっぱり、ドレイクには、ドレイクって名前がいいだろう。世界最強じゃなくても、自由に生きて欲しいって願いくらい名前にくれてやらないとな。
俺達を呼びに兵士がやってくると、支部長の部屋に案内される。
朝からバタバタと動き回る兵士連中を見ると寝起きの俺達は本当に呑気だと自覚するな。
支部長室に入ると支部長、イケメン眼鏡、知らないおっさんが待ち構えていた。
「寝心地は大丈夫だったかね。大男君?」
「ああ、むしろ助かったよ。支部長さん」
「貴様! またサンセル支部長に向かってそんな口の聞き方を!」
イケメン眼鏡が朝から元気だが、何故かモモがニヤニヤしながら一歩前に出ると静かになった。
まぁ、モモの一撃はマジに痛ぇからな……【身体強化】もされてたみたいだし、イケメン眼鏡の奴、よく生きてたな?
「すまないね。エレガ副長……話の最中だよ? これ以上、長引かせるような真似は慎んでもらえるかね」
イケメン眼鏡が頭を下げてから支部長の話は続いていく。
どうやら、部屋にいる知らないおっさんが、奴隷商の人間らしい。
すぐに前に出てくると俺達に挨拶をしてきた。
「お初にお目にかかります。わたくしはリオ・タミンと申します。奴隷商として、『ライム』にて商館を開いております」
満面の笑みで、奴隷商って……人身売買をしてる奴が騎士団に来ていいのかよ……
「おやおや? いけませんねぇ? わたくしは、人の悪意や嫌悪をすぐに見抜いてしまいます……挨拶の仕方が気に入りませんでしたでしょうか、作法が違う国の方に不快感を与えたなら申し訳ありません」
謝ってるのか、煽られてるのか分からねぇ……なんなんだよ。このおっさん……
「いや、なんていうか……俺とモモは奴隷ってやつが身近にいない場所から来たから、悪いな」
「左様でしたか! それは大変失礼致しました。わたくし、失礼な言葉選びを深くお詫び致します」
「いや、いいんだ。それより話は支部長さんから聞いてると思うが、ドレイクの奴隷登録と同時に解放を頼めるんだよな?」
俺の質問に奴隷商は、満面の笑みで質問を返してきた。
「質問に質問を返すのは、不本意なのですが? 本当によろしいので? 奴隷登録は安く済みますが、解放には多額の資金、つまりは保証金が掛かりますが?」
そう質問する奴隷商に支部長が口を開いた。
「その話なら、騎士団が保証金を払うことで解決している。リオ・タミン殿、早くやってくれるかね?」
「まあまあ、慌てても仕方ない話なのですがねぇ? 分かりました。では、奴隷をこちらへ、別室で身体の状態……つまり虐待や虐げられた痕跡がないか確かめますので」
ドレイクに向かって微笑む奴隷商。
ただ、ドレイクが俺のズボンにしがみつくと、奴隷商はキョトンっとした表情を浮かべた。
「おやおや、わたくし……怖いですかねぇ?」
そう口にする奴隷商は、痩せ型のインテリアヤクザみたいな見た目だから、怖いより怪しいなんだよな?
ただ、ドレイクが不安がってる姿を見ると2人きりにするのはダメだよな。
「なら、俺も──」
「モモが一緒に行くッスよ。ドレイクはモモの後輩ッスからね! 先輩、もしも、モモが叫んだら絶対に助けにくるんっスよ!」
「わあったよ。ドレイクを頼むぞ。モモ!」
「任せるッス。」
「わたくし、怖がられたままでショックなのですがねぇ。まぁまぁ、気持ちの切り替えは商人の基本ですからねぇ、では、あちらへ」
支部長が用意した部屋へと3人が入っていく。
その間に、俺は支部長から引き渡した賞金首達について、説明をされた。
裏で後暗い商売をしていたようで、商業ギルドからも直接話をしてお礼をしたいと伝えられ、俺は苦笑いを浮かべる。
「俺はただ、この街で商売できたらそれでいいだけなんだがな? まぁ、どっちにしても商業ギルドには行かないとだから、その時に話を聞かせてもらうとするよ」
そんな支部長との会話をしていると突然「ありえないッスゥゥゥゥッ!」という、モモの絶叫にも似た声が聞こえてくる。
「何事だ! モモォォォォッ! ドレイクゥゥゥッ!」
2人が奴隷商と入っていった部屋の扉を全力で蹴破り、俺は中に入る。
「せ、先輩……」
俺の視界に入ってきたのは室内にいる2人の姿だった。ただ、奴隷商の姿はない。
モモが震えた手で指さした先には全身傷だらけの姿で立っているドレイクの姿があり、俺は目を疑った。
「奴隷商のやつはどこだ!」
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