26話
俺のカツ丼という言葉にモモが速攻で反応すると、その後に俺は別の理由で驚かされた。
「了解ッス。カツ丼ッスね!」
「……りょ、りょうかい……しました」
お、奴隷君が喋った!
「お前。喋れたのか! 喋れないのかと心配したけど、一安心だな」
俺が笑うと奴隷君は身体をビクッと震わせてから、コクコクと慌てて動かして意思表示をする。
「先輩! 顔面凶器でツルツルヘッドなんッスから怖がらせたら可哀想ッスよ?」
「誰がツルツルだ! しっかり生えてるベリーショートだっての! それよりも名前だ。名前は、なんてんだ?」
俺の質問に再度困った表情を浮かべながら、奴隷君は返事をした。
「“オイ”“ノロマ”“役立たず”“ウスノロ”……これ名前……」
名前じゃねぇじゃんか……
俺は一旦、その場から移動しようと動き出す。
すぐに動きに気づいたのか支部長達が傍にやってくる。
「どうしたのかね?」
「少しな……色々なルールや事情、やり方があるのは理解してるが……ガキの名前を暴言で掻き消す輩を許せるほど、俺は人間出来てねぇんだ!」
本当にどの世界でも当たり前に弱い立場の奴らは虐げられる。搾り取られて利用されてゴミ扱いだと? 笑ってよくあるなんてセリフも聞き飽きたってのによ。
「どいてくれ支部長さん。あの奴隷君をこき使ってた商人に話があるんだ」
「今の君を見て、冷静に話し合いができるようには見えないのだがね?」
だぁ……力づくで通るのはあれだよな……
「先輩! 何してるんッスかぁぁぁッ!」
突然の裏ももへのローキックをくらい、俺はしゃがみ込んだ。
「ッテェ、モモ! 何すんだ!」
「先輩はおバカなんッスか! 正義の味方気取りの周りが見えない迷惑系なんッスか! 奴隷君が怯えてるのが分からない! 独裁者系ブラック企業でも目指すんッスか!」
なんで、こんなにキレてんだよ。
「いいッスか、先輩! あのクソ馬鹿な最低商人野郎は、騎士団がしっかり処分するッス! 先輩の役目はカツ丼を作って奴隷君に“美味い”を届ける事なんッスよ! リピートアフターミー! 作るぜカツ丼なんッス!」
「お、おう、作るぜカツ丼……」
「声が小さいッス! しっかり声を出すッス!」
そうして、何故か俺は「作るぜカツ丼」を20回くらい叫ばされた。
支部長もアルムさんも奴隷君もドン引きな表情の中、モモは満面の笑みを浮かべてやがる。どっちが独裁者系ブラックか分からねぇよな。
ただ、俺が馬鹿な考えをした時に止めてくれるモモに感謝しかねぇ!
俺は自分の両頬を全力で叩く。
その場に“バン”と響く音、俺自身に気合いを入れ直す。
「うしゃ!」
気持ちをリセットして、俺はすぐに米を大量に炊き始め、ガス釜に火を入れる。
そこから豚肉を仕込み、カツを揚げていく。
モモ達は玉ねぎの皮剥きを終わらせてカットに入ってるな。
大量のカツを揚げるには時間が掛かる為、テンポよく、小麦粉、卵、パン粉を付けては揚げていく。
一気に厨房から揚げ物の香りが広がり、そのまま『リセットカンパニー』製の換気扇がすべてをかき消していく。
いや、マジに優秀かよ! 逆にドン引きレベルだな。
そうして、米が炊けるまでの間、カツを揚げ続けてからコンロに小さなフライパンを並べて玉ねぎと調味料を入れて火をつける。
本来なら一つ一つ作るが、大量のカツ丼を作るなら、少しズルをしないとな。
「モモ、順にそっちに回すから、ステーキ用の木台を用意してくれ」
指示を出してから、次々に煮えたフライパンの中にカットしたカツを入れて卵を流し込み蓋をする。
「1〜3、蒸らしを頼んだ」
「任せていいッスよ! あと、モモはできる女ッスから、しっかりご飯の盛り方を奴隷君に教えたッスからね」
そいつは助かるな。なら、遠慮なく回してくか!
次々に同じ作業が繰り返され、蒸らされたカツはご飯の入った丼に移されて蓋をされていく。
単純に見たら、カツ丼屋に怒られそうな作り方だが、専門店には専門店の、俺には俺の作り方があるって話だな。
ガシャン!
「あ、あぁ……」
「大丈夫ッスか!」
「おい、大丈夫か?」
俺とモモが食器の割れる音がしたと同時に確認すると丼代わりに使ったサラダボールがいくつか割れて床に散乱していた。
「あ、あぁ……ごめんなさい。ごめんなさい!」
必死に謝る奴隷君の姿があった。
「謝るな! 怪我はないか? 指とか切ってたらすぐに洗わねぇとだからな。モモ、悪いが奴隷君に傷がないかしっかり見てやってくれ」
俺の指示にモモが頷くが、奴隷君は慌てて片付けようとしゃがみ込む。
「モモ、悪ぃ……厨房の火を消してきてくれ」
「え、わ、わかったッス?」
モモに火を消させてる間に、俺は奴隷君を脇に抱える。
「よいしょっと……」
「あ、捨てないで……なんでもする……罰も受けるだから……ごめんなさい……ごめんなさい」
一同が突き刺すような視線を向けてきやがるな。
客席側まで歩き、席に奴隷君を座らせる。
それでも土下座をしようとする奴隷君には、逆に驚いた。
「いいから座れ? お前、飯はいつ食べた」
俺の質問に奴隷君は言い淀んだ。まぁ、それが答えだな。
「ウチの店の名前はカフェレストラン『Gold Rush キンザン』って言ってな。働いたやつには“まかない”っていって、飯が食べれるんだ。しかも、スゴいのは、まかない3食にドリンク付きだからな」
説明を聞いても、困った表情の奴隷君にとりあえずカツ丼を食べさせる事に決めた。
「ほら、食え! 腹が空いてたら働けないし、料理を落とされたら、食材が無駄になるからな。そうならない為にしっかり食べろ!」
「え、あの……」
「ガキが遠慮すんな。まだまだ成長期なら尚更食べて、デカくなれ! それも立派な仕事だからな。モモ、悪ぃ……一緒にまかないを食べてやってくれ、1人の飯は寂しいからな」
「モモもッスか! って、それ先輩が昔、モモのママに言われてた言葉じゃないッスか……パクリはよくないッスよ?」
「パクってねぇ! いいから先に飯食って、手伝いに戻ってこい。あと、火傷しないように食べろよ! 急ぐと喉を火傷するから飲み物も用意しろよ!」
「わかってるッスよ。先輩は過保護すぎてママもびっくりレベルッスよ」
とにかく、2人のご飯を優先して、俺は大量のカツ丼を仕上げていく。
久しぶりに厨房が数による戦場に突入した瞬間だった。
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