25話
支部長の指示が飛ばされた取り調べ室は賑やかだった。すぐに商人と商業ギルドの関係者が呼ばれて、手紙を確認していく。
最初はやる気の感じられない怠そうな表情を浮かべた商人のニイちゃんと商業ギルドのネエちゃんだったが、手紙を読んだ辺りからは大興奮で話がよく分からないんだよな。
当然、俺は当事者だが、ちんぷんかんぷんなまま話が進んでいく光景に嫌気がさしてくる。
なんで、飯もまだなのにこんな事になるかなぁ……
「なぁ? 支部長さん。カツ丼とかは、出ないのか? 定番だろ!」
我慢の限界を迎えて口にした言葉に何故かその場から「?」が浮かんでいる。
「あ、いや、あれだ……なんか食べ物は貰えないのか? 俺もアンタらも夕食前だろ?」
ただ、俺の発言に返事をしたのは支部長ではなく、呼ばれた商人と商業ギルドの関係者だった。
「いきなりすまないが、アナタは不思議な技法で料理を進化させると手紙に記されているんですが、それは本当ですか?」
そう聞いてきたのは、商業ギルドの関係者のネエちゃんだった。
返事をする前に一言だけ言いたいが、露出が激しいんだよ。
なんで腹出しスタイルのミニスカなんだよ! 商業ギルドは水商売のネエちゃんもいるのか……
「返事をする前に、なんか羽織れよ……流石に目のやり場に困るぞ。ネエちゃん」
俺からの言葉に慌てて、ネエちゃんが自分の服装を上から下まで確かめて赤面していく。
だよな……最初から無理やり呼ばれた雰囲気が凄かったもんな。
俺の手元には、騎士団ライム支部に連れてこられる前に外したエプロンしかないが、とりあえず渡すか?
「ほら、ヘソとスカートくらいは隠せるだろうから、巻きな。女の子がそんな格好で野郎ばっかりの中にいたら、全員参っちまうからな」
「あ、ありがとうございます……」
俺の肩幅に合わせたエプロンは、ネエちゃんからしたらドレスみたいになっている。後ろも隠れて完璧だな!
「話し中に失礼。私は商人のブルーだ! さっきの発言に耳慣れない“カツドン”という言葉が気になってね。それは野菜かね? 果実かね? はたまた料理なのか、教えてもらえないかね!」
「待ってください。ブルーさん。今は商業ギルドから派遣されたアタシが話をしているんです。話の最中に割り込むのはどうかと!」
「言ってくれるねぇ……ベリー君。君の態度が悪いと商業ギルドにクレームを出したいくらいだよ」
なんで、俺の目の前で、ブルー、ベリーが火花散らしてんだ? 名前だけなら間違いなく完璧だろうに?
「だぁ! 人の目の前で喧嘩すんなって、悪い支部長さん。勝手だが厨房を貸してくれ! あと、数分でいいから人気のない広い場所に案内してくれないか?」
俺の発言に周囲の兵士連中が慌てるが、俺は真っ直ぐに支部長に目線を合わせる。
「その行為になんの意味があるのかね? 我々からすれば、君が逃げる為の発言とも取れるのだがね?」
「支部長さん。アンタが言ったんだぜ? この場所では嘘がつけないってな。なら疑う余地ないだろ? あと、俺は逃げないし、条件を飲むなら1日分の請求を負ける。それならメリットもあるだろ?」
流石に無理か? やけに沈黙が長いな……
「……わかった。あくまでも今の大男君は、参考人扱いだからね。ただし、1人にはできない。それは了承してもらえるね?」
「話がわかるのは、いい上司の条件らしいからな。アンタはいい人だな」
「無理やり連れてこられた君に言われると皮肉にしか聞こえないな。ならば、私も同行しよう。いざという時にガストンを力でねじ伏せた君を押さえられるのは私だけだろうからね」
そこから、支部長、ブルー&ベリー、数人の兵士達と共に俺は騎士団ライム支部の裏手にある訓練場に案内された。
広いな、周囲には高い壁、外から訓練場が見えない作りになってるみたいだな。
4か所あるすべての出入口を塞ぐように同行した兵士連中が移動して逃亡を防止するように身構えているのが見て取れた。
俺は少し呆気に取られたが、【店舗収納】をオフにする前にその場の全員に大声で声を掛ける。
「今から見ることは、他言無用で頼む! もしも、誰かに喋ったら、割り引く約束の1日分の請求額を個人で払って貰うからな!」
半ば強制に近い後出しジャンケンみたいなやり方だが、ここまで来て反対する様子はない。
むしろ、支部長は頷いて兵士連中に目配せしてるから安心だな。
問題は……ブルーベリーの2人だな……こいつら、金額を払えばいいのかってワクワクした顔してやがる……
「おい、ブルーベリー? もし他言したら、一生お前達の関係者とは取引しないからな?」
一瞬でお預けを食らった犬猫みたいになったな……顔芸みたいで、嫌いじゃねぇ。ってか、やっぱり仲良しだろアイツら?
よくよく考えたら、モモとアルムさん達以外に見せるのは初めてだな?
俺は【店舗収納】をオフにする。
周囲からの驚きの声は、アルムさん達から散々聞いたから、慣れたな。
素早く店内に入り、必要な素材を用意する中で、俺は気づいた。
「ん? 厨房借りる必要なくないか?」
そう考えた俺は支部長達を店内に呼び、料理をする許可を貰う為の交渉を開始する。
交渉は上手くいった。アルムさん達が飲んだワインを味見させる事になったが、まぁ……テイスティングみたいなもんだと割り切ろう。
「はぁ、モモがいたら作業が早いんだがな……」
そんな呟きに対して、返事が返される。
「人質として、モモが来てあげたッスよ!」
いや、タイミング良すぎるだろう?
モモの横には奴隷君とアルムさんの姿もあり、アルムさんは申し訳なさそうに呟いた。
「すまない。ホタル殿……モモ殿を連れてくるようにサンセル支部長殿から言われてな。許してくれ」
「いや、むしろ助かるって話だ。モモ、悪ぃが玉ねぎを1カゴ分、向いてくれ。カットはやるからよ」
「任せるッス! あと先輩! 奴隷君にも働いてもらうッスよ! 正式に先輩の奴隷君になったみたいッスからね」
「あぁ、どういう事だ?」
どうやら、俺が金貨1枚で奴隷君を正式に買った事実が認められたらしい。人の売り買いとか……一気に犯罪者気分なんだが。
「よく分かんねぇけど、なら2人で皮剥きを頼む! 今からカツ丼を作るぞ!」
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