24話
「なぁ、支部長さんよう? 騎士団の支部まではまだ歩くのか?」
俺は馬車から降ろされ、ご丁寧に騎士団に睨まれながら、支部長の後ろを歩かされている。
モモと奴隷のガキ……いや、奴隷君はアルムさんが面倒を見てくれている。
ついでに言えば、不幸な馭者さん達も門の裏手で馬車の確認をされてる真っ最中だ。
「本当に君は怖いもの知らずな態度を取るのだね。他の者なら今頃、怯えるか……抵抗するかの二択だろうに」
「悪いことをした覚えがないからな? 早い話が火の粉を祓っただけの正当防衛だからな」
「よく分からない言葉だな。あれだけ暴れ、ガストンを完膚なきまでに叩きのめして、防衛だと? それが事実なら防衛こそ最強の攻撃ではないか」
「支部長さん。難しい話はやめてくれ、俺もそこまで他人に説明出来る頭はないからな」
そんな返事に支部長は軽く笑みを作った。
「硬いな。君は面白い人材だね。大男君、どうかね? 今、君が騎士団に対して取引をすれば、悪いようにはしないと約束できるんだがな? 騎士団ライム支部に到着してからではこんな提案はできないのでな」
「なんでだ? こんな街の中で取引を持ち掛けてるんだから、どこでも変わらないだろうが?」
「ふふ、騎士団とは、嘘偽りを嫌う。即ち、騎士団ライム支部の中に入れば、すべての嘘による取引が出来なくなるように魔法文字が土地に刻まれているのだよ。わかったかね? 大男君。取引する気になったかね?」
「あのよう? 支部長さん、そう言うセリフって、まずは騎士団側がしっかり支払いを終わらせてから始めるもんじゃないのか?」
俺の返事が予想外だったのか、支部長は不思議そうに目を細めた。
なんだ、あの顔だと何にも聞いてないのか……モモに聞かないと支払い額がわかんねぇってのに、面倒くせぇ……はぁ。
「少なくとも、あれだ、ゴル金貨で数枚分の飲み食いをしてるんだ? 最初にその精算を頼む。捕まって全部なし崩しなんてのは、許さねぇからな」
正直、日本で同じことを言ったら、一発アウトなんだろうなぁ。
まぁ、だからって日本だろうが異世界だろうが、言いたいことは我慢しねぇ!
「さぁ、まずはしっかりと金額を確かめてもらってからの話し合いだ。むしろ、ライム支部って所なら支払いも逃げられないわけだろう?」
「……何が言いたいのかね?」
「つまり、交渉とか取引は到着してからやろうって話だな。あと……ワインとかブランデーは仕入れ価格じゃなく、販売価格になるから覚悟しといてくれよ」
そう告げると同時に立派な建物の前に俺は立っていた。
今まで見てきた街並みは、商店や雑貨屋などだったが、目の前にある建物は明らかに違って見えた。
そう、でけぇ! 洋館って言うやつか! 日本なら髪の毛をクルクルにして「おほほほほ!」みたいな笑い方をするお嬢様が出てきそうなサイズだ。
まぁ、丁寧に『騎士団ライム支部』って書いてあるから遠慮はいらないよな。
「ほんじゃ、お邪魔しますっと」
「待たないか! さっきの話がまだ!」
支部長が俺を止めようとしたが、中で話せばいいからな。しっかりと足を踏み入れる。
足を踏み入れた瞬間だった。嫌に大量の視線を全身に向けられるような感覚が突風でも吹き抜けたように俺を通り過ぎた気がした。
「なんだよ、今の感覚……」
本能だったのか、俺は手を縛られたままの状態で足を前に出し、身構えていた。
そんな俺に建物の中にいた騎士団の奴らが慌てた様子で集まり出していく。
当然ながら、身構えた俺を敵として認識してることはすぐに理解できた。
ただ、すぐに支部長が後ろからやってくると、集まった騎士団の奴らは、頭だけ下げて戻っていく。
「本当に君という存在には驚かされる事ばかりだ。本来ならば、初めて騎士団に入る者の大半が意識を失う程の威圧感を受けるはずなんだがね」
「それも、魔法文字ってやつの仕業なのか?」
「まぁ、そんなところだ」
その後は取り調べ室のような部屋に通される。
古い映画のワンシーンに出てきそうな煉瓦造りの室内は圧迫感があり、誤認逮捕でも認めるやつが出るだろうな?
時代が時代なら、完全にアウトだろうな。
「すまないな。この部屋くらいしかすぐに使える部屋を用意できないことを謝罪しよう」
「いや、むしろ、俺の人生で一度は見てみたい部屋ランキングに入ってるから問題ない!」
因みに、入りたい部屋ランキングの1位は『アイコン・オブ・ザ・シーズ』って豪華客船の船長室だな。ロマンしかないよなぁ。
「随分と余裕がありすぎるようだね。君という男は本当に興味が枯れない存在だよ。さて、本題に入るかね?」
こうして、騎士団の取り調べ室で話し合いが開始された。
最初にアルムさんとの出会い。怪我人の手当てに飲食の量と日数、話せる範囲の簡単な内容を伝えた。
そこからドルミールに入ってからの説明で、旅立つ際にドルミールの商人の爺さんから手紙を預かっていたことを思い出して、ポケットから取り出す。
「それは、何かね?」
「さぁな、爺さんから手紙を預かっただけだからな」
その後、手紙を返すという約束をしっかり交わしてから、支部長が内容に目を通していく。
「おい……誰か、このドルミールの商人“アッラノーマ”なる人物を知っている商人を探してきてくれ、あと馬車に積まれている酒は丁重に扱うようにいいね! あと君は街で一番の酒の目利きも呼んできてくれるかね……早急にだよ!」
支部長の表情が絶望に染まった。俺はドルミールで爺さんから渡された商業ギルドへの手紙を見せただけなんだがな?
内容は俺も読んでないから知らないが、支部長が慌てるような内容だったのか?
「随分と慌ただしいが、何かマズい内容だったのか?」
「君は本当に内容を知らないのかね?」
「知らないな? いや、商業ギルドに見せろって話だったから、こんな状況じゃなかったら開けないし、普通は開けらんねぇだろ?」
頭を抱えた支部長は、深い溜め息を吐いてから俺を見て口を開いた。
「君の運んできた酒の1瓶、1瓶についての価値と最低支払い額がこと細に書かれているんだよ。しかも買った際の金額や本来の価値まで、そのすべてだよ……」
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