23話
ガストンとの喧嘩を終わらせて馬車に戻ると支部長に声を掛けられる。
「おい、君には色々と聞かないとならないというのに、何故……エプロンを着けている?」
何言ってんだ……こいつ?
「夕飯の支度をするのにエプロンを着けるのは当たり前だろ?」
「ホタル殿ぉぉぉぉ! サンセル支部長殿になんて口の聞き方をしているんだぁぁぁ!」
慌てて絶叫するアルムさんに支部長が軽く手を動かして止めに入る。
「構わないさ、ただ……このまま話を聞くのは些か良くないからね。当然、夕食も話し合いの後にしてもらうつもりだ。だから、エプロンを外してもらえるかい?」
やんわりとした口調だが、目が笑ってないな? いるんだよなぁ……インテリヤクザみたいな性格のおっさんって、しゃぁねぇな。
「はぁ、支部長さん、一つ言っとくが俺はタイマン張って話を終わらせたつもりなんだが、まだ問題があるのか?」
「喧嘩……だったか、その件について、君を咎めるような真似はしないと約束しようじゃないか。大男君」
含みのある言い方だな……マジに面倒くさい話になる流れだな。
支部長の発言からすぐに門側から20人程の武装した兵士達がやってくる。
周囲がざわめき出すが一切動きを止めることなく俺達がいる馬車まで歩いてくる。
馬車までやってきた途端、先頭の騎士が支部長に頭を下げると、次々に頭を下げていく。
前言撤回だな……こりゃインテリヤクザじゃなくて、組長じゃねぇか。
「サンセル支部長。いきなりの独断行動はお止め下さい。こんな少数の護衛のみで何を考えているのですか!」
最初に頭を下げたイケメン眼鏡がいきなり、支部長に説教を始める。
本当に騎士団ってやつの力関係はよく分かんねぇな?
「キサマが今回、サンセル支部長が出向いた理由か? “毛死病”とは不憫だが、何をやらかしたんだ?」
「おい……俺は!」
「先輩の頭は、ハゲッス! 病気扱いは許さないッスよ!」
「違ぇ! ベリーショートだ!」
俺とモモが話してる横からイケメン眼鏡が喋り出す。
「サンセル支部長……この芸人達は何をしたのですか?」
「いや、エレガ。彼らは芸人ではないよ。むしろ、私が独断で動いたのも有り得ない報告を耳にしたからだからな」
「有り得ない話ですか? 内容は知りませんが……サンセル支部長が自ら動く必要があったのですか?」
「真面目な話だよ。エレガ副長、君は純粋な殴り合いでガストン警備兵長を倒せるかね?」
「ガストン警備兵長をですか? やつは2mを超える巨漢ですよ? そこの大男でも無理でしょうな?」
いちいち、癇に障るやつだな……
イケメン眼鏡の返事を聞いて、支部長は厳しい表情を向けてから、視線を俺に向ける。
「この大男君は、ガストン警備兵長と素手の“喧嘩”をして、軽々と打ち勝ったと言われたら、エレガ副長ならどうするかね?」
「有り得ない話ですが、確かに自身の目で事実確認をしたくはなりますが……見れば、アルム討伐部隊長とその部隊もいる現状です。その大男と小さなお子様が2人、正直いてもいなくても関係ない話かと?」
次の瞬間、俺は初めてモモの【身体強化】を目の当たりにした。
バゴォーンッッ!
それは一瞬で、俺が止めに入る余地すらなかった。
「モモは小さくないッス! なんなんッスか……この数日で……小さい小さいって!」
一撃をイケメン眼鏡の鎧に向けて放ったモモを引っ張り、脇に座らせる。
「はぁ……なぁモモ、俺は過保護かもしれないがな、お前がもし倒れたら、大学病院も総合病院もない世界で助けられる自信がねぇ。頼むから、無茶はやめてくれ」
「先輩……モモは小さいッスか……」
「あ、いや……モモ、お前は大きい。間違いないから安心しろ!」
「そうッスよね……モモは小さくないッスよね」
モモが落ち着くまでの間に、直撃を食らったイケメン眼鏡の周りは兵士達で大騒ぎだった。
当然、その怒りはモモへと向けられるが……それはつまり、俺の大切な従業員っていう名の家族に武器を向けるってことになる。
「怖ぇなぁ? 武器を手にした男連中が睨んでるんだからなぁ! ただ、やり合うなら魂賭けろよ。平和主義者の俺でも敵になったやつに優しさは微塵もねぇからな」
俺の言葉に兵士達はしっかりと目を血走らせて抜刀する。
俺はそんな兵士達に向かって歯を剥き出しに笑った瞬間、アルムさんが声をあげる。
「加勢する! 総員全力で掛かれ! 手を抜けば、怪我じゃ済まないぞ!」
まぁ、騎士団の所属ならそうなるよな……
「いいな! 恩がある以上、我々はホタル殿とモモ殿の安全を最優先に保護する。絶対にホタル殿と騎士団をぶつけてはならないぞ!」
「「おおぉぉッッ!」」
俺を囲むように広がる兵士連中の背中、武器は持たず、盾のみを装備した20人の姿に俺は呆気に取られた。
そんな現状でイケメン眼鏡側の兵士が怒りをぶつけてくる。
「アルム討伐部隊長! わかってんのか! こいつは立派な団規違反だぞ!」
「構わねぇ! サンセル支部長の前で違反者を捕らえろ!」
両者が睨み合う中、支部長が動く。
「止まらんかッ! 誰の許可を得て、抜刀をしているか! 討伐部隊! お前達の行動がことを更に厄介にすると分からぬか!」
殺伐とした空気が一瞬で吹き飛ぶと、騒ぎを聞いて集まり出した野次馬に支部長が視線を向けていく。
「何か用かね? 諸君が見世物だと思ったのなら構わないが……話し合いでもするかね?」
支部長の声に野次馬達は、首を振ると散っていく。
「さて……大男君とその関係者諸君には、残念だが、騎士団に足を運んでもらわねばならないようだ。抵抗なく来てもらえると助かるのだがね?」
俺が座らせてから横になっているモモと困った表情を浮かべる奴隷のガキに視線を向ける。
「俺は抵抗しない。だから、モモ達とアルムさんと他の連中に手荒なことをしないと約束してくれないか?」
「よかろう。騎士団ライム支部、支部長サンセルがこの場で約束しよう。それに助けられたのはどうやら、私達の側らしいからな」
俺は支部長の言葉に首を傾げる。
「分からないかね? アルム討伐部隊長が団規違反を犯してまで止めたかったのは、騎士団ではなく大男君、君の暴走だろうからな」
「俺の?」
「正直いえば、ガストン警備兵長は強さだけで生きてきた男だからな。騎士団でも腕だけなら本物だったんだがね……」
そうして、俺達の為だけに夜の門が開かれる。
俺達は参考人扱いで首都『ライム』に入ることになった。
罪人扱いなら暴れてやったが……参考人なら従うしかないな。
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