20話
俺の笑みにアタフタする奴隷のガキにゆっくりと歩いていく。
「待ちな。そのガキは大切な商人の商品だからな。大人しく止まんな!」
商人の馬車の裏側に居たのか、柄の悪い連中が姿を現す。
ケツ持ちってか? 昭和の歌舞伎町かよ……
とりあえず、サングラス越しに視線を向ける。
いい感じに鍛えてるな? 街の喧嘩自慢を思い出すなぁ。
「先輩、なんで笑ってるんッスか! 明らかにヤバいッスよ! よく見るッス、手に斧とか剣とか持ってるんッスよ!」
モモが慌てると柄の悪い連中はニヤニヤと笑い出す。
「そうだぜ。お嬢ちゃんは賢いなぁ。見たら分かるやなぁ? デカいハゲ野郎も、分かったら大人しくしてろやぁ!」
はぁ……一気に田舎のぼったくりバーみたいな雰囲気になりやがったな。
「おい? 俺はベリーショートだッ! 1日に何回、人の頭をディスってんだ……ゴラァ!」
「テメェ! こっちが大人しくしてれば……いい度胸じゃねぇか、あぁッ!」
怒気を強めた大声の威嚇かよ……上等じゃねぇか、馬鹿野郎!
俺のアドレナリンが出血大サービスになろうとした瞬間、アルムさんが大声で叫ぶ。
「あぁぁぁぁッ! 思い出したぞ! ホタル殿。こいつらは賞金首だ! 窃盗と恐喝で騎士団にも前に手配書が回ってきていたはずだ!」
アルムさんの言葉に柄の悪い連中……長いな、チンピラでいいか?
チンピラ達が慌て出すが、その中にいた、明らかにモヒカンジャイアントが斧を地面に叩きつける。
「だからなんだってんだッ! 手配書だぁ? 未だに捕まってねぇんだから、わかるだろうが! たかが女騎士に、デカブツ、チビガキだけで何が出来るってんだ!」
「待つッス。先輩、あいつ、あいつ! モモをチビガキって言ったッス!」
「あ、おう……モモは大丈夫だ。しっかり成長したから、だから落ち着けって……なぁ?」
あ、ダメだな……こりゃ、完全にブチ切れてやがる。めんどくせぇ……
「なに話してんだァァ! なんなら、女騎士とチビガキを置いて謝るなら見逃してやんぞハゲ野郎!」
俺の我慢が限界に達する前にモモが動き出す。
「誰が……チビガキだってんッスかァァァッ!」
綺麗な溝落への一撃がモヒカンジャイアントに決まると、そのまま足を後ろに引いてからの金的への蹴りが決まる。
見ている俺の方が縮み上がる勢いの一撃に、モヒカンジャイアントが泡を吹いてその場に倒れ込む。
「モモは、はぁはぁ……ちゃんと成長してるッス! チビでも、ガキでもないッス!」
モモの動きを見てアルムさんが驚きを顕わにする。
「すごいじゃないか! モモ殿があんなに強いなんて私は驚いたぞ! ん、ホタル殿?」
「モモは本来は国体レベルの格闘馬鹿なんだよ。ただ……手術後はあんなに動いたら、即ドクターストップだ……ったく」
興奮するモモを後ろから掴み、引き寄せる。
「落ち着け、興奮するとまたぶっ倒れるぞ?」
「はぁはぁ……モモは、モモは……」
「分かったから、休んで息をしっかり吸い込んどけ、ったく。臓器に無理させんな。死んじまうぞ?」
「死なないッスよ。モモが死んだら……はぁはぁ、誰が先輩の隣に居るか心配で成仏できないッスから……ね」
はぁ、俺より長生きさせてやらねぇとな、困ったやつだよ、まったく……さて!
「悪ぃが、俺の大切な従業員を怒らせたんだ……手加減なしのデスマッチくらい覚悟しろよ。三下ッ!」
俺の声に睨み返してくるが、つまり……やるって意味だよな?
一歩前に踏み出そうとした時、アルムさんが俺の腕を掴み、俺の動きを止める。
まさか、止める気なのか? 今の俺はモモの件もあるから止まる気なんざねぇんだがなぁ……
「なんだ、アルムさん? 止める気なら俺は──」
「早まるな。ホタル殿……モモ殿のことも考えれば、気持ちは分かる」
俺とアルムさんの会話を聞いたからなのか、チンピラの1人がいきなり大声で笑い出して近づいてくる。
「アハハ! 今更、ビビってんじゃねぇよう? 大丈夫だぜぇ。騎士のネエちゃんもチビガ──ガぐぁガハッ!」
言わせねぇよッ!
アルムさんに押さえられた手と反対側の手をしっかりと握り固めて、ただぶん殴る。
「ホタル殿!」
「止めてくれんな! 今の俺は頗る機嫌がよくねぇ! 内側から煮込み料理になっちまいそうなくらい、腸が煮えくり返ってんだからなぁ!」
「話を……あぁぁぁもう! 総員ッ敵に対して攻撃用意ッ! 敵は指名手配の賞金首である! 生け捕りにせねば、タダ働きになるぞ。心して掛かれぇぇッ!」
俺の横でアルムさんが声を出すと、先頭の馬車から武装した兵士連中が慌てて得物を手に集まりだし、更にツノ笛の音が天高く鳴り響く。
チンピラ達も状況が分からずに慌てており、俺はその場で大声を張り上げ、宣言を口に出す。
「こいつらを全員捕まえたら、ショーケースの酒を出してやる! 1人でも逃がしたら、一滴も飲まさねぇ! 酒が飲みたいやつは、全力でこいつらを捕まえろぉぉぉぉッ!」
兵士連中がざわめき出す。次の瞬間には目の色を変えた兵士連中から雄叫びのような叫び声が巻き起こる。
「まじか、ホタルのダンナが褒美をくれるってよぅッ!」
「聞いたか! あの酒が賞品だ! ソイツらを逃がすなよ!」
「あたりめぇだろ! 1人でも逃がしたら賞品がパァだからな!」
やる気を出した兵士連中が、ツノ笛の音と共に集まり、俺から酒が貰えると目の色を豹変させる。
チンピラ達が何かを喚いていたが、逃げようとするやつから、縄に石をつけた投げ縄みたいなやつを投げつけて捕えていく様子には流石に驚かされた。
「フッフッフッ……驚いたか、ホタル殿! 我らは任務の都合上、“狩猟用装備”の扱いも完璧なのだよ!」
あの投げ縄みたいなやつの名前か? とにかく、誰も逃がしてない事実に驚かされた。
「初めて、まともな騎士団なんだって見直したぞ」
「なぁ! ホ、ホタル殿! 我らをずっとなんだと思ってたんだ!」
「ん? 酒好きで、ツケのやばい連中くらいの感覚だな……まぁ、悪い連中とは思ってないから安心しろって?」
その後は、商人も含めチンピラを全員捕まえた兵士連中に、ショーケースの中から数本の酒を選び、渡すことになる。
「ダンナ! 1人1本じゃないんッですかい!」
「こんな本数じゃ、1人、1杯で終わっちまいますよ!」
なんで、こいつら……こんなに図々しいんだかなぁ……
「はぁ……奴隷のガキの解放もしてやりたいから、目的の街に着いたら、1人1杯出してやる! だから、騒ぐなって……」
「先輩……だから、ハゲ貧乏になるんッスよ……」
「モモ、今は寝てろ……ったく」
そうして、俺達の馬車に捕えたチンピラと商人、勢いで助けた奴隷のガキが加わることになった。
チンピラも「酒を出せ」とか言ってこねぇよな。言ってきたら、とりあえず拳骨でも食らわすかな……
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