19話
スライム料理で休憩を取り、更に馭者さん達とモモの気分的な体調不良が復活するのを待って、俺達は移動を開始する。
揺られる馬車の荷台で明らかに落ち込むアルムさんと、俺を親の仇かってくらいに睨んでくるモモ。
「モモ、いい加減に機嫌直せって?」
「先輩は分からないんッスよ……スライムのねっとり感の先に広がる草、草、草なんッスよ!」
モモの発言に申し訳なさそうな表情のアルムさんが返事をする。
「本当にすまなかった……皆に野菜を使わせたから、私は野草と塩くらいしか使えなかったのだ……参加しないという選択肢を選ばずに挑んだ私を笑って蔑んでくれて構わない」
どんだけショック受けてんだよ……はぁ。
「アルムさん。俺が審査側に回らなかっただけの話だから、そんなに気にしないでくれよ。なにより理由があるなら仕方ないさ」
それから数時間、こんな感じの2人と同じ馬車に揺られることになり、流石の俺も参り始めてきた頃、先頭の馬車が停止したのか、順に馬車の足が止まっていく。
前方を見てもなんで停車したのかが分からず、俺が質問しようとすると、アルムさんが立ち上がる。
「何事だ? モモ殿、ホタル殿。すまないが先頭で何があったか確認してくる。悪いが馭者の貴方も動かずに指示を待ってくれ」
慌てて先頭に駆けていくアルムさんを見送るとモモが不機嫌そうに口を開いた。
「先輩はアルムさんに気を使いすぎッスよ。モモが苦しんでても心配しないし、モモは先輩からしたらお払い箱ッスか! 昔の女扱いッスか!」
「落ち着けって、心配もしてるし、お払い箱なんかにしねぇよ……何をカリカリしてるんだよ?」
「カリカリなんかしてないッスよ! ふん!」
本当にどうしたってんだ?
気まずい空気が流れる中、アルムさんが戻ってくる。
「ホタル殿、モモ殿、すまない。先頭を確認してきたのだが、先にこの道を通っていた商人の馬車が荷崩れを起こしてしまったらしい」
「え、それって大変なんじゃないか?」
「まぁ、そうなのだがなぁ……」
やけに歯切れの悪い言い方だなぁ? しかも煮え切らない表情だな?
「アルムさん? なんかあるのか」
「ふむ、商人にもアッラノーマ殿のような良心的な商人ならいいのだが、今回はあまりなぁ……」
「アルムさんにしちゃあ、珍しいな。でもよ? 馬車が動かないと話にならないんだろう? なら、手伝って終わらせる方がいいだろう」
俺はすぐに立ち上がり、馬車から飛び降りる。
「先輩待つッスよ! モモも行くッスぅぅぅ!」
「あ、待て2人とも……あぁ……」
俺は先頭側に向かって走り、後ろからはモモが睨みながらついてきている。
あんな鬼みたいな顔で怒るなら待ってりゃいいのに……本当に女心ってやつは分かんねぇな。
「先輩! 今、絶対にくだらない事を考えたッスよね! モモにはお見通しッスよ!」
ガルルって声が聞こえる気がするんだが……
そんなモモの視線を背中に感じつつ、俺とモモは先頭の馬車へと辿り着く。
4台でも間隔を取って走らせてたから、少し距離があったな。
モモは大丈夫そうだな? そんで商人の馬車ってのはどうなってるんだ?
先頭の馬車に乗っていた兵士連中は、既に馬車へと戻ってるらしいな。
商人の馬車はそのまま放置されていた。
放置というか、兵士連中は我関せずって感じか?
商人の馬車では、フードを頭から被った小柄な少年が必死に積荷を拾い、馬車へと積み直していて、その傍で偉そうな男が木箱に座っている。
「おいアンタ。なんでガキにだけ働かせてんだ? 休憩中なのか?」
俺が声を掛けると面倒くさそうに男が立ち上がる。
「気安く話し掛けないで貰えるかな。貧乏が移ると叶わん。しかも、“毛死病”とは、人として既に失っている欠陥品とは、まったく……」
俺に向けて、両手を軽く広げ左右に動かす仕草に眉間にシワが寄る。しかし、後ろからモモが怒鳴り声を上げる。
「先輩は単なるハゲッスよ! あと先輩は貧乏になりたくて貧乏じゃなくて、金銭感覚が馬鹿なだけッス!」
俺は、なんで背後からディスられてるんだ?
……いや、そうじゃないな。
「いいから質問に応えろよ商人。なんでガキだけを働かせてんだ?」
「はぁ、これだから貧乏人は、“奴隷”の存在も知らぬ田舎者は本当に嫌になる」
いちいち癇に障る野郎だな……悩まずにぶっ飛ばしてやろうか?
俺が拳を作ろうとしたその時、背後から慌てた様子のアルムさんが走ってきた。
「待て、待つんだ。ホタル殿!」
アルムさんの声で俺は頭に上り始めていた血が落ち着きを取り戻す。
「はぁはぁ、ホタル殿……手を出してはダメだぞ! 商人に手を出せば、各地の街での出入りが難しくなるぞ!」
そこまで言われて、俺は一瞬悩んだ。
「因みに商人さんよ? アンタに手を出したら、幾ら払わされるんだ?」
俺の質問に苛立ちながら睨みつけてくる商人に対して、笑みを浮かべてやる。
「き、キサマ……はは、これだから貧乏人は! いいだろう! キサマのような貧乏人では払えない額だとだけ教えてやろう!」
「そうかよ?」
チッ、これで銀貨数枚なら、全力でぶっ飛ばしてやったのによ!
「なら、商人さんよう? あの奴隷のガキは幾らで売ってんだ? まさか、アンタより高いなんてオチは無いよな? これだけ威張って奴隷と自分の価値が一緒なら笑っちまうがな、なぁモモ?」
「え、なんでいきなり、モモに話を振るんッスか! でも確かに、自分と子供の奴隷の価値が変わらないなら、モモは恥ずかしくて生きていけないッスね」
真っ赤になりながら、俺とモモを睨みつける商人。
そして、俺とモモが更に数回、同じ内容を話し続ける(煽り続ける)とやっと求めていた答えが返ってきた。
「言わせておけばァァァッ! 奴隷など、銀貨1枚程度の価値しかないわ! このオレを殴れば金貨100枚でも安いくらいだ! 分かったか、貧乏人がぁぁぁ!」
「よし! 金貨1枚で買った。釣りは要らねぇ! モモ、金貨を出してくれ!」
困惑する周囲を無視しながら、モモから手渡された金貨を握り締めると、俺は満面の笑みで商人の顔面に向けて、ヘッドショットの勢いで投げつける。
「ふぎゃあぁぁぁ!」
「よしゃ。ストライクッ! 選手交代だぜ。バッター商人さんよう」
俺は奴隷の少年に、ニッコリと笑みを向けて親指をグッと立てる。
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