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16話

 モモは諦めたような視線を俺に向けた。


「なら、何にも言わないッス……先輩の預かった金貨ッスから、ただ……ウチなら、絶対にその金貨を全部交換なんてしないッスよ……普通に考えてみて欲しいッスよ、先輩」


「何を怒ってんだ?」


「先輩は、この4日間でワインだけでどれだけの本数が消費されたか知ってるんッスか?」


「え、いや、どれくらいって言われてもなぁ、あれだけの人数だからな?」


「先輩は店を出し入れする度に全部綺麗になるから、知らないかもしれないッスけど、1食で1人あたり、ワインだけで10本ッス……アル中もびっくりする本数を毎食、1人1人が開けてるんッスよ!」


 モモの発言に耳を疑った。ワインって、1本750mlだよな。つまり1人辺り、7.5Lも飲んでんのかよ……


「アイツらの肝臓かんぞう膵臓すいぞうが心配になるなぁ」


「そっちじゃないッスよ! どんだけらあんぽんたんなんッスか! 本来の金額よりも多く収入があるはずなのに、それを上回るペースで飲み食いされてる事実の話なんッスよ!」


「わかったから、落ち着けって……モモの言いたいことは理解した!」


「その顔はしてないッス!」


 その先のやり取りだが、モモから“金の市場価値”がなんちゃらと、“銀と銅の価値”をうんたらかんたらと話された。

 最後には「先輩のスキルは交換に対する変換率がおかしいんッス」と言われてしまった。


 正直、俺のスキルがおかしいっていうより、いきなり使えるようになったスキルの存在が一番おかしいと思うんだがな。


 ただ、それを今、モモに言うとややこしくなりそうなので黙っておくことに決めた。


 とにかく、珍しくモモから全力でお叱りをもらう形になり、俺は爺さんから預かった前金の金貨を半分に分ける。


「わかったよ。ほら、半分はモモが持っててくれ、俺はこの半分を使ってワインを用意するからよ」


「ワインだけじゃ済まないと思うッスよ……まぁ、知らないッスけど」


 モモが小さく何かを呟いてたが、とりあえず爺さんに渡すワインを用意しないとな。


 俺は店内に入るとスキル【店舗受取】を発動させる。


「え、ま、待てって! うわぁぁぁ!」


 ドンガラガッシャーンッ!


 突然現れた数種類の酒が雪崩のように押し寄せ、俺は勢いのまま下敷きにされる。外から店内に入ってきたモモが呟く。


「だから、本気なんッスかって聞いたんッスよ……先輩、消費量と使われた金額がまったく合わないって言ったじゃないッスか……」


「いいから、ボトルを退かしてくれ……」


「先輩……たまには、下から上を見上げることも大切だと思わないッスか? それに“分かった分かった詐欺”をする先輩には、今からしっかりとモモが! 教えてあげるッス!」


 楽しそうに笑いやがって! ダメだ。下手に動いたらボトルが割れちまう……だぁ、畜生……


 その体勢のまま、俺はモモの考えと実際の考え方のズレについて聞かされる。


「先輩、見てください。これは日本で使ってた500円玉ッス。それで、こっちが金貨になるッス」


挿絵(By みてみん)


「見てわかると思うッスけど、サイズが全然違うんッスよ」


「そんなん、少しデカいだけだろ? それにこの大量のワインの山は今は関係ないだろうが……」


「はぁ……先輩、大ありなんッスよ……先輩は筋肉ばっかりつけてるから分からないかもッスけど、500円玉は基本、7gくらいしかないんッスよ」


 いや、知らねぇって! 普通に生きてて500円玉をグラムで測ろうなんて思わねぇだろ!


「モモ、マジに分からねぇって、それがなんなんだ?」


「先輩、モモ達が飛ばされた日、金の価格がいくらかって知ってるッスか?」


「金が高いのは知ってるが、そいつは5万円分の金貨だろうが? 5枚だから25万だ。こんな馬鹿みたいな本数のワインになる方がどうかしてるだろう!」


「だから、先輩は分かってないんッスよ。先輩のスキルって多分ッスけど、モモ達が異世界に連れてこられた日の日本の市場価値で金とか銀を判断して交換するスキルなんッスよ」


 市場価値って言われても、金なんて買ったことないからな。ただ、一つだけ分かるのはモモがマジに怒ってる事実だな。笑顔なのに目がマジに笑ってねぇ。


 それから、1時間ほど、俺はモモの説明を聞かされる。

 すべての話を聞き終わり、モモが酒を仕分けしながらケースに入れていき、俺は人生初の酒瓶の山から解放される。


「酷い目にあった……ワイン10本あればよかっただけの話がなんでこうなるんだよ」


「何が酷いなんッスか! 先輩がもう少し料理以外にも気を配ってくれてたら、モモだってこんな話はしないッスよ!」


「わかったから、もう勘弁してくれ」


 片付けを済ませると俺はモモから酒の種類と本数を告げられる。


 仕入れ値の安いワインだけで100本を超え、更に展示用に見栄を張って仕入れた筈のウィスキーやブランデーまでモモが仕分けした酒の中に入っている事実に言葉を失った。


「なんで、ヤマサキ(有名ウィスキー)とカミュ(有名ブランデー)にヘネシー(有名ブランデー)まであるんだよ! ショーケースの中に飾ってただろ!」


「先輩が無駄に揃えた酒なんて、初日から開けまくりッスよ。毎回補充される度に飲まれてたッス。ワインが目立ってて、気づいてなかったみたいッスけど」


 俺はモモから告げられた真実に再度、愕然とした。


 その後、爺さんにワインを10本届けてから、仮眠室で寝ていたアルムさんを起こして、しっかりと話し合うことにした。


「ゆ、許してくれ……ホタル殿……は、話せばわかるはずだ! 頼むから、そんな怖い顔で近寄らないでくれ!」


「世の中には、手を出したらダメなもんが幾つかあります。その中には、俺の煙草を取ることや、無銭飲食なんかがあります。それよりもダメなのは、人のショーケースを勝手に開けて酒を飲むことなんですよ!」


「ぎゃああああ!」


 しっかりと、アルムさんの額にデコピンを食らわしてから、ブランデーやウィスキーの代金も支払いに書き込むことになり、その額……日本円で4日間で700万を超えている事実に俺は頭を悩ませることになった。


 本当にダメダメ騎士団じゃねぇか。

お読みいただきありがとうございます!

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☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。

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