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15話

 アルムさんを仮眠室に寝かした後で俺とモモは爺さんの実務室で話し合いを再開した。


「若いの、最初から小言を言うのは好きじゃないが、あんな娘っ子を傍に置いておけば身を滅ぼすぞ?」


 娘っ子って、アルムさんだよな? 別に傍に置いてるつもりはないんだがな。


「違うッス! 先輩が傍に置いてるのは、このモモだけッス! アルムさんは突然現れただけで、先輩とは、まったく関係ないッス!」


 いきなり身を乗り出したモモに爺さんも軽く驚いてるじゃんかよ。


「まぁ、爺さん。確かにアルムさんとは数日前に会ったばかりで詳しい話もしてないんだ。心配だけは有り難くもらっとくがな」


「ふむ、なら良いが。とりあえずは話を戻そう、いきなり悪かったな」


 爺さんは軽く謝罪をすると、そこからは本題についての交渉が開始される。


 内容はワインの販売についてと、猿公えてこうの肉についてだった。


 最初にワインの値段交渉になり、爺さんはワイン1本を金貨3枚で買いたいと言い出し、俺は頭を悩ませている。


「なんじゃ、ワイン1本に金貨3枚で不服か?」


 逆なんだよ! なんで、このワインがそんなに高く買われるのかが、まったくわからねぇんだよ!


「なぁ、爺さん? 俺としては……」


「待つッス! おじいちゃんも先輩もお互いの考えを理解しないと絶対に上手くいかないッス! モモはずっと先輩といるから知ってるんッス!」


 お、モモが俺の気持ちを察しやがった!


「つまりッス! 金貨1枚で契約するッス! 1本、金貨1枚、ただし、おじいちゃんは、支払いに銀貨と銅貨を混ぜたらダメッスよ」


「おい、モモ!」

「娘っ子、そいつは安すぎるだろ?」


 ん? 金貨1枚でも安いだと……


「はぁ、先輩? 諦めるッスよ。モモ達が納得する為には妥協と理解が必要不可欠なんッスから、これ以上安くなんてできない最低ラインッスよ」


「なんで、娘っ子も若いのも、価値のある品を安売りしたがるんだ? まったく、理解できねぇなぁ」


「おじいちゃんは、逆に安く買えたら喜ぶ場面ッスよ! ただし! おじいちゃんは絶対に最低でも10本からしか頼めないのがルールッス!」


「なんでだよ!」


 モモのドヤ顔に俺が叫ぶと、モモが真っ直ぐに俺を指差す。


「いいッスか、先輩! 正直者はハゲになる……じゃなくて、バカを見るんッス! なにより最低本数が決まってれば、赤字にはならないんッスよ!」


 ドーンッ! という効果音と色とりどりのスモークが俺の脳内で再生される。


 衝撃を受けた俺にモモが不適切に笑みを浮かべる。


「はぁ、爺さん悪いな。うちのがいきなり、失礼な物言いをした。申し訳ない」


「だぁ待て待て! 若いからって、すぐに突っ走るな。別にワシは怒っとらんし、むしろ、娘っ子の言葉にも否定する気はねぇからな」


 あっさりと爺さんも認めたな……まぁ、その方が俺も気楽に話せるから、ある意味モモには感謝だな。


 そこから、最終調整に入り、俺は爺さんがワインを買いに来た場合は、最低10本からの取り引きに決まった。


 俺はワイン1本に対して銀貨5枚でいいと思った為、その方向で話を進めようとしたが、モモと爺さんから何故か反論された。


「ワインなら銀貨5枚でいいだろ?」

「良くないッス!」

「そうだぞ、若いの? 銀貨で5枚だと、むしろ信頼が薄くなるだろうが?」


 そんな反論の結果、最初にモモが提示した金貨1枚が落とし所になった。


 そこから、俺は猿公の肉を柔らかくする為の仕込みを爺さんに教える事にした。


「なんだそりゃ? 漬ける前の注意に、つけた後の処理……ワシじゃ、全部覚えきれんぞ……」


「やっぱり、メモに書き出してやろうか?」


「いや、形に残すのは大切だがな……こういうのは、形に残すと後々厄介なことになるからな」


 そこにまた、モモが口を挟む。


「なら、先輩が夜に話した宿屋のおっちゃんを呼んで、全部覚えさせたらいいッスよ。やる気あり過ぎるおっちゃんだったッスからね」


「それだ! 爺さん。あの宿屋のおっさんなら間違いなく、覚えるぞ!」


 そこから話が宿屋に持ち込まれ、主人のおっさんが呼び出されることになる。

 顔を青ざめさせたおっさんを見て、申し訳ない感情に苛まれたが、まぁ、しゃあないよな。


 話はとんとん拍子に進み、爺さんとおっさんの間にも、他言無用の契約書が交わされていく。


 爺さんが俺に向かって親指をグッと立てる。


「よし! 全部話がまとまったな。若いの、今から正式な契約書を作成する! 名前を教えろ!」


「……そういやぁ、今更だが、爺さんの名前を俺もちゃんと聞いてなかったな? 改めて、佐乃村さのむら ほたるだ」


「ガハハ! 確かに今更だな! ワシはアッラノーマ・ウェールスだ! 長い付き合いになるように願うぞ」


「あぁ、宜しく頼むよ。アッラノーマさん」

「今更だって、若いの、お前はワシを爺さん呼びして構わん。ワシもお前さんを“若いの”と呼ぶ方が楽だからな」


 その後、俺は爺さんから、前金という形でワイン10本分の金貨10枚を渡された。前金なんてのは、本来は嫌いだが、小声でモモからは苦言を呈された。


「いいッスか先輩……今の先輩の店『Gold Rushキンザン』に、渡せる程のワインの本数はないッス……だから、前金がないと、契約違反で全身の毛をむしられて身包みを剥がされちゃうッス」


 何度も毛をネタに弄るモモには色々言いたいが、事実を突きつけられて、俺も受け取ったというわけだ。


 金貨10枚、日本円で50万という金額の重みに俺は手を震わせた。


 そうして、俺とモモはすぐにドルミールの街から防壁の外側を進み人気のない場所を見つけるとすぐに【店舗収納】をオフにする。


 姿を現した店に入ろうとする俺にモモが大声を出す。


「待つッス。先輩、よく考えてほしいッス……その金貨が何を意味してるか分かってるんッスか? 本気で全部を酒に変えるつもりなんッスか? なんで金貨限定にしたのか、本当に分からないんッスか」


 俺はモモの発言の意味を理解しきれなかった。


「モモ……悪ぃ、意味が分からねぇ……」

「だから……先輩は、本気なんッスか、それ全部を酒に変える気なんッスか……それだけの金貨があれば!」


 そこまで言われて俺は、その後に続くモモの言葉に愕然とした。

お読みいただきありがとうございます!

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