153話
祭り当日、ライムの街は朝から人々が動き回っている。
祭りまでの間、事前準備の段階で既にくじ引きが行われている。
このくじ引きは、食品を扱う屋台専用にしてある。簡単な話が、好き勝手に屋台を出されると管理が難しいし、誰の屋台が揉め事を起こしたかが分からないからだ。
当然、報告があれば、このくじ引きにより指定された場所に関しては、屋台同士で話し合って交換する事もできるようにしてあるので、それもくじの魅力だろう。
とにかく、朝から大勢の屋台をやりたいと登録した料理人や露店の店主、騎士団の奴ら、どいつもこいつも今日の祭りの為に頑張って準備をしてきたやつばかりだ。
ただ、マタギ衆だけは屋台をやらずに、警備に半数の人員を使い、もう半分で無料の“魔汁”つまり、魔物の肉を使った“けんちん汁”みたいな汁物を振る舞うらしい。
サンセルのオッサンが「騎士団が迷惑をかけたなら、我々にも少なからず、責任があるのだよ!」とか、言い出した結果、祭り会場の大通り入口に大量の魔汁の入った鍋を何個も並べてる。
そんな俺も今回は、個人的に屋台を出す予定だ。
全員が基本の屋台の中で、祭りを楽しむ刺激をぶち込むのが楽しみだ。
前もって、自分用の屋台を用意しておいたので、【店舗収納】から屋台を展開する。
少しズルくなるが、それでも今回は前準備が大切だったから、参加する奴らには悪いが許してくれるだろう。
店から持ち出してきたガチのコンロの上に中身がたっぷり入った寸胴鍋をセットして火をつける。
大きめの木ベラで寸胴鍋の中身を混ぜ、しっかりと琥珀色のスープに火を入れていく。
わかるヤツにはわかるだろうが、この世界には存在しないだろうな。
別のコンロでたっぷりの水を沸かしていき、必要なトッピングを並べ、味の基本になる“かえし(タレ)”を取り出す。
ガラガラボーンの背骨を試しに買ってスープの出汁にした時は驚いた。
このガラガラボーンがどんな生き物なのか分からないが、骨を煮てみると豚骨の臭みを消した状態のスープに極上の鶏白湯スープを混ぜたような味で、これを飲んだ瞬間、間違いなくラーメンにしたいと思っちまった。
結果、祭りの準備をしながら、日本の知識を全力でぶつけ、かえし(タレ)を何とか形にすることができたのは御の字だ。
そこからは、俺も屋台に参加したので、うちの連中が祭りをどう楽しんでるかはわからん! ただ、祭りなんだから、楽しんでくれたらそれでいい。
早速、俺は屋台でラーメンを作っていく。因みに屋台の横には小さいながらに食事スペースとして、長テーブルと椅子を置いてある。
流石に立ち食いラーメンは、あれだからな……
立ち食いと言えば、立ち食い蕎麦で食べたコロッケ蕎麦が懐かしいな……あれは、立ち食い蕎麦で食べるとなんであんなに美味いんだかな?
そうして、屋台を開始するとすぐに客が来た。
記念すべき最初の客は、元騎士のアルムさん達だった。
「ホタル殿! このアルム・ニアンキ! 度重なる誘惑と欲望の広がる世界を耐え抜き、やっと辿り着きましたぞ!」
そう口にするアルムさんは、片手に串焼きの入った袋をしっかりと握り、反対の手には唐揚げ棒の食べ掛けを持っている。
「いや、完全に欲望に負けてるじゃねぇか……ったく、ただ、元気みたいで良かったよ」
「当たり前だ! 元騎士であるこの私は元気です!」
アルムさんの背後には、元魔物討伐部隊の面々が屋台を見て、不思議そうな表情を浮かべる。
やっぱり、ラーメンってのが気になるんだろうな、知らない未知の味を味わった時の感想で、新たな客を呼んでくれると助かるんだがな。
「ホタルのダンナ! 酒はないんですかい!」
「ホタルさんの屋台だから、酒があると期待してたのにぃぃぃぃ!」
前言撤回だ! 酒飲みのコイツらにラーメンはまだ早い!
「酒なら、あの先の広場に売ってる。酒を楽しんでから、また来いよ。その方が美味いだろうからな」
俺の言葉に困った表情が見え隠れするが、半数は酒が売られている広場に向かった。
ただ、アルムさんを含めた半数がラーメンを食べたいとその場に残っている。
「おぉ! ホタル殿! パスタですか、しかし、太すぎるように見えるのだが……」
俺が茹でてるのは、俺が作った極太麺だ。うどんくらいの太さがあるから、茹で時間は多少掛かる。
だが、今回のガラガラボーンから作った濃厚スープは試作段階から味が強い為、細麺だと負けちまうんだよな。
「この太さがいいんだよ! まぁ、見てなって!」
素人がラーメンなんて、無理だって思うし、俺が傍から聞いても無謀だと思う。そんな常識をぶっ壊す異世界食材に出会えた俺はついてたんだろうがな!
ガラガラボーンのスープとかえし(タレ)を合わせ、店から持ってきたハンドブレンダーを使い、その強力な回転力で“強制乳化”させる。
そうして、出来上がったスープに極太麺を合わせ、特製チャーシューと味玉、ネギに紅生姜をトッピングする。
「へい、おまち! 熱いから気をつけて食べてくれ」
使い捨ての器に盛られた1杯を出していく。郷に入っては郷に従えって思ってたが、流石にバナナの葉っぱが器だと、ラーメンは無理だったので許して欲しい。
「ホ、ホタル殿! 美味い、美味すぎるぞ! ガラガラボーンのスープなのはわかるが……あの濃すぎるスープをこんなに、まろやかにするなんて!」
「アルム隊長……オレ、オレ……こんな美味いスープ、初めて飲んだよぅぅぅ」
「わかる、わかるぜ! アルム隊長を信じて、酒を後回しにして良かったなぁぁぁ!」
いや、ラーメンで大の大人が号泣しやがった……
「お、落ち着けって! なんで泣くんだよ!」
そんな質問を口にすると、騎士団の騎士とマタギ衆の見廻り組が、俺の屋台の前で立ち止まる。
「ホタルさん? なんか凄いですが、トラブルですか?」
「アルムさん? なんでホタル殿の屋台で他のメンバーが泣いてるんですか……」
立ち止まった見廻り組も状況が分からないといった様子で、変な注目を浴びてしまった。
その流れで、見廻り組にも味見と称して、プチラーメンを出してやると凄い勢いで悔しがられた。
「見廻りでなければ、腹いっぱい食べたいです!」
そんな騎士の言葉にマタギ衆の側も頷く。
「わかる! こんな美味い料理があるなんて、今まで濃いだけで無理やりパンをつけて食べていた人生が悔やまれるって話だよな」
聞いてて、俺はガラガラボーンの認識が違う事実を実感した。
こちらの世界には、煮込んで骨の髄から味を引き出すって考えはないらしい。更に言えば、ガラガラボーンと薬味や野菜を煮込むなんて考えもない。
だからこそ、ただの濃いスープだけを飲んでいたらしい。
ラーメンがって、感動じゃないのは、多少……言いたいことはあるが、それでも違う形で感動させられた事実は、料理人冥利に尽きるって話だ。
ラーメンのスープを味わう見廻り組を見て、俺は笑ってやる。
「なら、見廻りが終わったら酒を飲んでから、また来いよ。酒を飲んだ後のラーメンは更に沁みるからよ」
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