152話
正直、頭が痛くなる程、酷い試作ばかりだったが、俺がすべての屋台をやるなんて無理な話だ。何より騎士団がやらないと意味がねぇんだ。マジに気合い入れねぇとな。
ただ、何人かはミスがありながらも、基本を守って確実に上達しているのも事実だ。
その筆頭は、たこ焼きを必死に焼いてるゴードンだ。
「ホタル殿、まさか、オクトパー(タコの魔物)をこんな形で調理するなんて驚いた。ただ、やはり中まで火が通り過ぎてしまうのが、残念だ」
俺からしたら、十分美味いんだがな……鉢巻姿のゴードンを見てると騎士よりも、たこ焼き屋をしてる方が似合うように感じちまうな。
結局、その日は大量の失敗作が山積みになったが、不思議と騎士団の連中はそれを色々な表情で噛み締めていた。
実際に食べているから、噛み締めるは変な言葉のチョイスかもしれねぇが、それでも楽しそうに見えるからやはり不思議だ。
「こんな言い方は変に感じるだろうが……いい顔だと思わないか、ホタル殿」
不意にゴードンが喋りかけてきた。その額には未だに鉢巻が巻かれている。
「だな、ってか、今更だが……ホタル殿ってやめてくれよ。アンタは支部長なんだろうが? お互い普通に話す方が気楽だろ?」
「しかしなぁ……いや、そう言ってくれるなら……ホタル……さん。感謝する」
「ホタルでいい。それより、たこ焼きは何とかものになりそうか?」
「たこ焼きに関しては問題ない! ダメな騎士なりに誇りがある! この誇りに誓おう! たこ焼きは絶対に成功させるとな!」
騎士の誇りを誓った……たこ焼きって、いや、覚悟は大切だよな、うん!
その日から、連日のように屋台の猛特訓が開始される。
当然、向き不向きがあり、焼くのが苦手なヤツには、トッピングなどの作業を教えていくことになる。
ただ、面白いのは、こちらの世界は使い捨ての容器って概念がないせいで、器がバナナの葉っぱみたいな物を四角い形に折って使うことだ。
店舗にある紙皿を使おうかとも思ったが、郷に入っては郷に従えって言うからな。
それにマダムピンキーに頼んでこちら側の世界の麦を大量に仕入れてもらったし、石臼は既にあるって話だから、ふるいにかけてやれば、ぼちぼちの小麦粉になるだろうしな。
ついでに、ライムの街にある調理師ギルドにも、ソースを作る依頼をしてある。俺が提供してるソースは確かに美味いが……使えるのと作れるは違う、俺が死んだら終わるような食文化はマジに無意味だから。
焦らずに色々とやるしかねぇが、悪くねぇんだよな。
忙しなく日々が流れ、祭り前から屋台が次々に作られていく。
広いライムの街で、折りたたみ式の屋台が並ぶ姿は圧巻だ。
「流石だな。商業ギルドがマジになると、作り方を教えるだけでこんな形にできるんだからな」
そんな俺の言葉に豪快な返事が返される。
「ダハハ! 当たり前だ! ドワーフの名工、ガンジ・スカイ・シップが力を貸してやったんだ! いい加減な仕事なんざ出来るかってんだ!」
「親方、落ち着いてくれよ。組長、ごめんな。親方も珍しい骨組みを作れてテンションが上がってるんだよ」
ガンジの発言にグライがてんやわんやしてるが、それだけの仕事をたった2人でやり遂げてくれたんだから、誇るべきだと俺も思う。
大通りは既に祭りの為に提灯のようなカバーをつけた光の魔導具が紐に吊るされていて、祭り当日は街全体が灯りを消して、提灯型の魔導具で照らされることになる。
ぼちぼち生きてきた人生で、祭りの準備なんて初めてだが、街全体がやる気になっているからこそ、これだけ上手くいくんだろうな。
街の色がゆっくりと祭りに染まる光景を見ながら、煙草に火をつける。
1人で広場のベンチに腰掛け、露店で売っていたチャイに似た甘辛い紅茶を飲み、煙草の煙を体内に染み込ませてから、吐き出していく。
「ふぅ……なんか、疲れたなぁ……」
そんな言葉が自然と出てきてしまうくらいには、疲れていたのを自分で感じた。
しかし、そんな静かな時間もあっという間に終わりを迎える。
何故かと言えば、ベンチから見える位置で、カツラを被り、エプロン姿の状態で熱々の鉄板と共に串を高速で動かして、たこ焼きを焼きまくるゴードン。
その横の屋台では、未だにお好み焼きを上手くひっくり返せない様子の変装した騎士が頑張っている。
「ホタルの頭〜! やっぱり上手くひっくり返せないですよ!」
「ったく、気合いでひっくり返せ! ヘラを“ガッ!”と入れて、“グワッ!”とやるんだよ!」
「だから、その説明だと分からないんですよ!」
ゴードンはただ頷きながら、変装した騎士の横で完璧なたこ焼きを作り上げていく。
「はあ、じゃあねぇな。貸してみろ! いいか、生地の焼き加減を見極めて、タイミングを測る! 早すぎたら、崩れるし、遅いと黒くなる、だから……ガッ! からの、グワッ! ってやるんだよ!」
完璧なタイミングで、お好み焼きをひっくり返し、油を流してカリカリにしていく。
ソースの香ばしい匂いが鉄板から煙をあげさせると、風が広場全体にお好み焼きが焼けたのだと告げる。
当然、ライムの街にお好み焼きなんて存在しない。ただ、焼きそばをカイトが広めているため、ソースの香りを知る人々がゆっくりと集まり出す。
ゴードンのたこ焼きと俺が手伝ったお好み焼きは、試食として、振る舞われていき、広場から始まった騒ぎが次第に他の住民を集め、賑わいを作り出す。
そんな光景に凹んでしまった騎士を見て、俺は背中を叩く。
「シケたツラしてんなって! これが今、お前が作ってるお好み焼きの魅力だ! その作り方をお前が習って、ほぼ完成しかけてんだ! 男なら、しっかり決めてやれ!」
「は、はい! ホタルの頭! 頑張ります!」
気合いを入れ直した変装した騎士が鉄板を見つめ、お好み焼きを焼いていく。
肉を焼き、生地を流し、形を確かめながら、ヘラを滑らせる。
素晴らしい手際で、お好み焼きの片面がしっかり焼けたタイミングで騎士がお好み焼きをひっくり返す。
宙を舞うお好み焼きが鉄板に落下するとしっかりと割れた。
「あぁ! やっぱり、できないですよ〜」
情けない声を出した騎士に傍で見ていた子供達がキラキラした視線で声をあげた。
「ガンバレ〜!」
「お兄ちゃん、もう少し!」
「頑張って〜!」
俺はクスッと笑った。
「だ、そうだぞ! ほら、失敗しても整えれば、食べれんだ! 味は間違いなく、うめぇんだ! 気合い入れて、焼いてやれ!」
そこからは、失敗と成功の繰り返しになるが、1枚、焼く度にギャラリーが増えていき、お好み焼き屋台は子供達に囲まれ、たこ焼き屋台には、大人達が並び出していた。
祭りを前に広場は一気に賑わい、明るい空気が広がっていく。
ただ、俺はいつから、こいつらの頭になったんだか?
まぁ、それでも騎士団はしっかりと形になってきてるし、何よりも諦めないのは評価しかねぇ!
俺も、ドレイクからアボカドたっぷりのタコス屋台を頼まれてたな、しっかりと騎士に教えて、最高のタコスとケパブを食わせてやりたてぇしな。
祭りまで、あと少しだからこそ、改めて気合い入れねぇとな。
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