154話
祭りは全体で3日間開かれる。残念ながら、俺の屋台は最初の1日限定なので、しっかりと『本日限り』と日本語とこちらの世界の文字で書いてある。
そのせいか、“ガラボンラーメン”は、予想よりも興味をもってもらえた。
ただ、このままだと……スープも麺も品切れになっちまうかもしれねぇ……
「屋台を1回【店舗収納】で戻して、【店舗受取】を発動させるか……」
そんな小さな呟きも並んでいる客の賑わいに掻き消されていく。
屋台の中は温度が上がり、ガラガラボーンのスープが熱風になり、行列からは香りに誘われてなのか、腹の虫が鳴り出す者までいる。
こんな状態で、屋台を閉めたら……いや、ダメだな……ったく、1人で頑張ろうって考えが甘かったか、やっちまったなぁ。
俺の周囲にある屋台にも多少は人が並んでいるが、それでも3人ほどで上手く屋台を回しているな。
そんな俺の屋台の後ろから、声を掛けられる。
「先輩! かなり困ってるみたいじゃないッスか? なんなら、この可愛い後輩であり、先輩の唯一無二の理解者であるモモが手伝ってあげるッス!」
すごく上から目線で現れたモモ、その背後には長テーブルを持ったミノケン君1号の姿があった。
「先輩のやりたいことは、理解してるッスよ。だから、少しモモとミノケン君が屋台を面倒見ててあげるッスから、屋台を畳んでいいッスよ。少し前のテーブルでラーメンを作っててください!」
そうして、モモとミノケン君は屋台の前に長テーブルを置くと、俺の屋台を覆うように天幕を掛けていく。
言われるままに寸胴鍋を長テーブルに置いて、並んでいる客の前でラーメンを次々に作ると、俺の屋台は完全に白い天幕で覆われていた。
「モモとミノケン君がラーメンを配ってる間にすぐに先輩は補充をしてくるッス。今ある分しかないんッスから、急ぐッスよ」
「できる後輩に感謝だな! すぐだから、待ってろ!」
屋台を即座に【店舗収納】で消して、【店舗受取】を発動させ、すぐに屋台の天幕を外す。
補充が済んだ屋台で、俺はモモとミノケン君を加えて屋台を再開する。
当然ながら行列は更に伸びていく。男性客が多めになるかと思っていたが……女性や子供まで並び出していたのを確認して待ち時間を考えると祭りを楽しんでもらう時間が無くなっちまうな……
そんな中、隣の屋台で焼き串を担当していた騎士が俺に声を掛けてきた。
「ホタルの頭! こっちの屋台も使いましょう! ウチら3人もトッピングなんかなら、手伝えるんで!」
そうして、横にあった騎士の焼き串屋台の半分がラーメンのトッピングスペースと受け渡しスペースに変化する。
当然、焼き串も販売するが、客の1人がいきなり──
「あの焼き串の肉をラーメンに載せられるかい?」
そんな質問をしてきた。客の言葉に俺が焼き串屋台に視線を向けると、屋台の騎士は満面の笑みで「可能です!」と返事をした。
麺の管理、茹でから湯切りまで、ミノケン君が担当し、スープを俺とモモが担当する。
トッピング役の騎士達がぎこちないながらも、できる範囲で綺麗に具材を載せていく。
そうしていると、行列の横からトタトタとドレイクとパラが駆けてきた。
「マスター! なにしてるの、お祭りだよ?」
「ドレイク、組長はお祭りで働いてるのよ。偉いのよ!」
そんな会話に俺は笑ってしまったが、騎士側のトッピングが少なくなっているのを見たドレイクが屋台に入ってきて、後ろにあるストックから補充し出すのを見て驚いた。
「マスター、ドレイクもやるね……だから、後でお祭り……いける?」
「なら、パラも手伝ってあげる。組長とスライム飴食べるんだもんね」
俺の返事は必要ないな……決定事項らしいから、屋台は早めに店じまいだな。
そんな事を考えていると、隣の騎士が俺に向かって大声で頭を下げてくる。
「頭! ウチらがラーメンを作るんで、今から教えてください!」
「そうです! この数日、屋台の為に騎士団に足を運んで教えてくださった頭とモモの姐さんには、感謝しかありません! だから、やらせてください!」
いきなりやらせろって、言われてもなぁ……
「先輩? 先輩には、モモの作ったミノケン君1号が居るんッスよ!」
「フンガアァァ!」とミノケン君もやる気満々と言いたそうにガシッとマッスルポーズを取る。
「だから、先輩は、しっかりと数時間でラーメンの基本である『さ・し・す・せ・そ!』を教えてやるッス」
「いや、ラーメンに“さしすせそ”なんてねぇよ!」
「えぇ! ママは言ってたッスよ!」
・さ──最低限、麺は火を通す!
・し──仕込みは命、死んでもやれ!
・す──スープは、奪ってでもものにしろ!
・せ──先手必勝、湯切り100回!
・そ──壮大なロマンは、ラーメンにあり!
「つまり、ママはモモに間違った知識を教えたんッスかぁ……」
色々と言いたいが、モモの母ちゃん、カナミンだからな……うん、考えるのはやめよう。
そこからは、俺が指示を出す側になり、作り手に回った騎士達がなぜか気合いの入ったラーメン屋の従業員みたいになってやがる。
逆に祭りで本気のラーメン屋になりだした俺の屋台は、更に行列が増していく。
美味いラーメンが食べれると聞いて並ぶ客を見ていると、列に並ぶアルムさん達を見つけた。
忙しい中で知り合いを見ると不思議な気持ちになるのは、日本にいた頃から変わらないんだよな……
昔なら、無理やり手伝えってバイト代を出して、笑いながら即席バイトを作った事もあったな……
今考えたら、本当にありえないんだが……有り得る!
俺はニヤリと笑う。
「先輩、顔が悪い顔ッスよ……悪人面になっても、お客さんは離れないッスよ」
「だろうな! だから、やる事は一つなんだがな」
俺はアルムさん達に向けて、わざとらしく声を出す。
「忙しいなぁ! あぁ、店の酒を報酬にしても助けてほしい忙しさだなァ!」
「先輩……なんッスか、その嘘くさい演技……忙しいからって、頭が茹でダコッスか?」
「まあ、見てろって……すぐに人が集まるからよ」
並んでいた列から、8人くらいが飛び出し、俺の元に走ってくる。
「ホタルのダンナ! 酒が報酬なら、手伝いやすよ!」
「ダンナ、人が悪いですぜ! オイラ達はダンナが大変なら手伝いますぜ!」
「ホタル殿! このアルム・ニアンキもホタル殿の為に、一肌も二肌も脱いでみせるぞ!」
アルムさんが、すぐに騎士側の屋台に置かれていたエプロンを身につけて、屋台に参加するとマタギ衆の奴らもそれに続く。
時刻がながれ、朝から始まった屋台が夕暮れの空に照らされる。
そこまでの間に、朝から合わせて3回の食材補充をすることになったが、更に夜に向けて追加で2回分の【店舗受取】を発動させる。
これだけあれば、俺が屋台から離れても問題ないだろうからな。
「おい、言われた通りに麺もスープも補充したけどよ? 本当にいいのか?」
俺はアルムさんやマタギ衆、隣の屋台の騎士達に質問する。
「当たり前じゃないですか! 頭! あとは任せてください!」
「そうだぞ。ホタル殿! マタギ衆も騎士団もこの一杯に全力を出しているからな! 安心してくれ!」
俺は全員に感謝してから、モモ、ドレイク、パラを連れて夜の祭りに繰り出した。
因みに、ミノケン君は湯切り職人として、屋台に残された。マジに申し訳ないがミノケン君、頼りになるな。
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