149話
ゴードンは抵抗しなかった。だからこそ、俺はただの拳を全力で腹に叩き込んだ。
無駄に鍛えられたゴードンの肉体、それはしっかりと鍛え、騎士として生きていた男の体だった。
アナンのことがなければ……色々と無駄に考えるとダメだとわかってる。
ゴードンがその場に倒れ、俺は徐ろにテーブルに置かれた四角い箱を手に取る。
前と同じ通信用の箱をとりあえず握って、指に違和感を感じた位置を調べて起動させる。
『……何故、通信をつないだのかね? ゴードン君……まさか、今更命が惜しくなったのかね?』
「あ、あぁ! 初めまして! って話だよなぁ! ゴードン君って呼んでたアンタに話があるんだが、話せるか?」
『……ふ、ふふふ、あははははは! 実に面白い、面白いぞ! ふぅ、失礼したねぇ……初めまして、知らない者同士が何を話すというのかね?』
「簡単な話さ、ライムの街では、騎士団の信頼が無くなった。新しい支部長が来てもそれは変わらねぇ! アンタからしても、いちいち街の1つで時間を割かれたくないよな?」
『時間か……確かに、だからと言って、初めて話す君に何ができると言うのかね?』
声色が強くなるのを感じる。ただ、その先に僅かな興味が見え隠れするのを同時に感じる。
「だから、俺がゴードンと一緒に謝ってやる!」
『謝る? ゴードン君には、既に謝罪するように命じてあるはずだが、ゴードン君が拒んだのかね?』
「いや、むしろ、ただの謝罪とその先に信用を回復する時間、騎士団からしたら、金を使っても今すぐに蟠りくらい無くしたいと思わねぇか?」
『君の話は、回りくどくて、困る……ただ、確かに、時間はゴル金貨を幾ら積もうが買えないのも事実だ』
「騎士団が謝罪するのは、理解してんだ! 謝罪した騎士団を許すように話をする! だから、謝罪が通ったら、騎士団の支部長はゴードン! ついでに祭りを開く金を出してくれ!」
『……聞き間違いかね? 何故、そんな話になるのかね?』
「今更、新しい支部長を移動させるよりも、ゴードンに謝罪させて、働かせる方が街なんかだと、分かりやすいんだよ! あと、祭りは騒いで酒を飲んでバカになるのが、和解の始まりだからだ!」
『実に豪胆、実に無謀、実に無知……だが、仮にそれで騎士団の信用を買いなおせるなら、安い買い物と言える……対価は?』
「騎士団の信用回復! 形がねぇから、むしろ、投資だ! ただ、もう一回言うがライムに新しい支部長が来ても何も変わらねぇ! それに俺はゴードンのバカなら、まだ許されるって感じるんだよ」
『……君の話は、本当に愚かだ、だが、投資と言い切る君に賭けるのは悪くない判断やもしれない。ゴードン君の件は保留としよう……君の名前を教えてくれるかね? 投資相手を知らないのは面白くないからね』
「俺はホタルって呼ばれてるしがない料理人だ。アンタの名前は聞かねぇ。投資者には感謝と結果だけを残すのが基本だからな!」
『……実に正しい判断だ……知らないことと、知ろうとしないことは似て非なるもの……結果が出せる保証もないのに投資とは、驚かされるがね』
「意外とお喋りな投資者で助かるぜ」
『君の中では、確定らしいね。ゴードン君を今すぐに起こしてくれるかな。当然、起こせないと話にならないんだがね』
つまり、ゴードンを無理やり起こさないと投資はしねぇって話か……
「少し待ってくれ」
『時間は有限だ……急いでくれたまえ』
散々話して、時間は有限か……ゴードンの奴を普通に殴っといて正解だな。
マジックバッグに入れてある2リットルのペットボトルを取り出し、顔面に掛けていく。
本来ならバケツで水を掛けた方が早いが仕方ねぇ。
突然顔面に水を掛けられたゴードンが慌てて起きて、周囲を見渡す。
「おい、ゴードンが起きたぞ?」
『仕事が早いのは高得点だと言っておこう……ゴードン君、話が変わった。君はそのままライムの支部長を続けろ。その男の考え通りに流れれば、こちらとしては問題ない、理解したかね?』
それから、ゴードンは項垂れながらもしっかりと受け応えをしていく。
最後に箱から俺に向けて声が掛けられる。
『話はついた。ホタルと言ったな……料理人ならば、与えられたチャンスと食材で満足させる結果に仕上げてくれたまえ……事実と結果のみがすべてを語るのだ、ホタル君……悲しい結果にならないことを願っておこう』
時間と金は何とかできたが結果を出せと、釘を刺されることになった。
「まぁ、話はついたな!」
「未だに信じられん……」とゴードンが呟くが、今から忙しくなるから、とりあえず、騎士団で暴れている4人と合流する。
ゴードンの姿を見て、問答無用で殴りかかったクラリスさんをダイルと俺で何とか止め、その後に俺は深く頭を下げることになる。
「商業ギルドと冒険者ギルドに頼みがある! ゴードンの馬鹿にチャンスをやってくれねぇか! こいつは多分いい奴じゃねぇし、野心家野郎だ! それでも一度でいい! 頼む」
俺が頭を下げると、ゴードンが額を床に擦り付けて懇願した。
「かぁ……つまらねぇ終わり方しやがって! なら、ゴードンよぅ? 冒険者ギルドが協力するなら、条件があるんだが、聞いてくれるよなぁ〜!」
「あら、奇遇ねぇ? アタシ達、商業ギルドも騎士団には、すこ〜しお願いがあるのよねぇ! さぁ、頭を上げてくれるかしらぁ〜お話をしましょう」
頭を上げたゴードンを見るマダムピンキーとダイル、誰よりも悪どい顔を浮かべた2人の姿に俺はどちらが悪党なのか分からなくなりそうだった。
最初、ダイルは門を通過する冒険者の通行料を無料にしろと言い出した。
ただ、それを止めたのは、マダムピンキーとクラリスさんだった。
理由は冒険者を名乗れば、誰でも通れる状況は危険すぎるというもので、クラリスさんが「ナポリタン(?)が足りませんでしたか?」と首を傾げた瞬間に、ダイルが黙った。
マダムピンキー側は、騎士団が定めた通行料を一律元に戻すことと、金額を下げるといった内容だった。
渋るかと思っていたが、ゴードンはあっさりと条件を認めた。
「冒険者ギルド側の話は無理だが、代わりに交代制を導入して、確認などはさせてもらうが、門の開閉を夜中でも冒険者と商人ならば可能にするという形でどうだろうか?」
常識的な提案に俺は驚かされた。
改めて考えれば、野心家だとしても、頭を使わなければ騎士団の上層に食い込むことは出来ないだろう、つまり、ゴードンは俺より頭がいいらしい。
話が終わった後に、騎士団ライム支部は兵力の縮小を決めた。
ゴードンはそれにより、必要経費を削り、商業ギルドに対して慰謝料を支払うことになった。
そして、もう一つ、予想外の形で別問題を解決する事実が騎士団に隠されていた。
ゴードンの副官として配置された男が裏で、偽冒険者を操り、冒険者ギルドと騎士団をぶつけて、内部から支部長の座を狙っていたようだ。
30人近いチンピラ達が偽冒険者として、副官の指示で動いてた事実には正直、驚いたし、ダイルの奴も苛立ちを爆発させてたが、クラリスさんからの十数回の物理的な停止で静かになった。
因みに馬に跨って、商業ギルドに攻撃をしようとしていた馬鹿な騎士がそいつだと分かり、何発か殴っとくべきだと心底後悔した。
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