148話
ライムの大通りに放たれた無数の炎が眩い輝きと共に、俺達の横を駆け抜け、騎士団の奴らに炸裂した。
驚く俺にモモから声が掛けられる。
「先輩、早く下がるッス! 巻き込まれたら丸ハゲバーベキューになっちゃうッスよ!」
「ハゲてねぇ! ベリー──」
「次の砲撃よぅ! テルテルボーイ! どきなさ〜い!」
マダムピンキーがノリノリで砲撃指示を出すと、ブルー達、商人が第二射を発射する。
砲撃に慌てた騎士団が、焦りながら後退しようとするが、100人を超える部隊がマダムピンキーにより外部と遮蔽された今の状況から逃げられるはずがなかった。
薄緑色の防壁を必死に騎士が攻撃するが、剣が弾かれる度に騎士同士が互いを傷つけてしまう。
「やりやがったな! くそ、痛てぇ……」
「早く下がれ! 前進してくるなぁ! 早く下がれ!」
醜い声が叫ばれる中で、マダムピンキーの横に立っていた男が、拡声器のような魔導具を使い声を出す。
「──全部隊! 前進! 相手の声に惑わされるなぁ! 誇りを胸に突き進め! 前進開始ィィィッ!」
あの声、さっきの馬に乗ってた騎士団の野郎と同じ声じゃねぇか……
俺がそんなことを考えている間に、後方にいる騎士団が勢いよく前進する。
その後は、騎士団が商業ギルドと冒険者ギルドにより、無惨に潰されていく。
物理的に殴り飛ばされる者、商業ギルドの新商品で死なない程度にこんがりにされている者。
ただ、その光景を見守っていたライムの住民からは歓声が上がった。
結果的に俺達も向かってくる騎士団を幾らか、ぶっ飛ばしていた。
それ以上にキレたモモとエス、ソマリとポメラを止めるのが本当に大変だった。
動けない騎士に対して、【身体強化】したまま、殴り続けるモモ。
逃げる騎士に対して、影から黒い手を伸ばし、息の根を止めようとするエス。
必死に逃げ回る騎士を戦斧と戦鎚を手に追い掛け回すソマリとポメラ。
マジに悪党にしか見えねぇな。
「マスター、あれ大丈夫?」
「組長……オレが言うのもあれなんだけどさ、ヤバイよな?」
「パラも戦いたいけど、やめとく……」
「だよな……セス、行く勇気あるか?」
「いや、グライが行くなら止めないよ……」
俺の横で、ドレイクとカイト達がそんな会話をしていた。
ただ、俺はあることに気づいて、その場を離れるとカイト達に伝えて駆け出した。
俺が向かった先は騎士団の支部だ。
よく見たら、あのゴードンのクソ野郎がいねぇ! つまり、まだ終わってねぇって話だよな!
しかし、この場には嫌って程鼻が利く奴らばかりらしい。
「おぅ! ホタルぅ? 助けにきたオレ達を無視してダッシュってどうしたんだ〜? 正直、楽しそうな匂いがぷんぷんじゃねぇか!」
「ギルマス、発言が下品……頭の中まで腐ったなら、私が作ったナポリタン(?)を詰め込んで差し上げましょうか?」
「要らねぇよ! クラリス! あれはナポリタンじゃねぇ! なんで口に入れた途端に苦しくて痛くて、全身から魂が抜けそうになるんだよ! マジに死ぬからな、おい!」
「チッ……少しはマシな性格になれば良かったのですが残念です」
右側を追走するダイルとクラリスさんの会話に苦笑いが止まらねぇ……
「まったく、嫌ねぇ? 女が作った料理は黙って笑顔で食べなさいよぅ? 男の器は海より深く、魂は天よりも広くないと格好悪いわよぅ、ダイルちゃん?」
「マスターピンキー、それは無理ですよ。ダイル様はどう見てもその様なタイプの人間には見えません。それよりも、ホタルさん? なぜ走ってるんですか?」
左側を走っているのは、マダムピンキーとベリーさんで、クラリスさんが用意した材料を知ってる俺からすれば、どちらからも責められるダイルに同情しかねぇ。
「俺が走ってる理由は、騎士団にまだぶっ飛ばしてやらないとダメな奴がいるからだ! こんな馬鹿な真似を指示したゴードンの奴を全力でぶっ飛ばす」
「あのホタルさん。2回も“ぶっ飛ばす”と言われましたが、2発では優しすぎるかと、冒険者ギルドに任せていただければ、正しく罰を用意いたしますが?」
「それは商業ギルドが請け負います。このベリーに任せて頂きたいです。冒険者ギルドでは、やり過ぎてしまいますからね」
左右でギルドのやべぇ女代表みたいな2人が言い合いをしているが、今は無視させてもらった。
走りながら、本題をマダムピンキーとダイルに語っていく。
「俺はゴードンの他に話さないとならない奴がいるんだ。だから4人には騎士団支部で邪魔してくる奴を何とかしてくれると助かる!」
「なんだよぅ? オレ達に露払いをしろってかぁ?」
「ふふ、たまにはいいじゃなぁ〜い! テルテルボーイのわがままを聞いてあげるのも、素敵だと思うものねぇ!」
1人あれだが、ヤロウ3人が自然と笑った。
騒がしくなった大通りとは真逆に位置するライム騎士団支部の門には、最低限の騎士が立っていたが、当然、今回は容赦なく拳で挨拶を済ませる。
門に関しては、予想外にクラリスさんが一歩前に出て、扉に手を当てる。
「無駄に大きいだけのモノを大層に見せるのは、殿方の愚かな習慣なのでしょうか……私はそんな殿方の考えを粉々にするのが、とても快感なのですがね……ふふ……」
クラリスさんの手が軽く押し込まれた瞬間、扉が一瞬で凍り付き、無数の亀裂が刻まれると木っ端微塵に砕け散る。
色々と何かが縮み上がった気がするが、考えずに支部内に走っていく。
激しい音が鳴り響いたせいか、留守番を任された騎士達が抜刀して駆け出してくる。
騎士を見たダイルが雄叫びを上げる!
「暴れてやんぞ! ホタルぅ、報酬はナポリタンを山盛りだからなァ!」
ダイルとクラリスさんが右側に駆け出し、騎士達をぶっ飛ばす。
マダムピンキーとベリーさんは反対側に動き出していく。
俺は悩まずに以前、ゴードンをぶっ飛ばした支部長室へと向かう。
案の定、ゴードンは支部長室でテーブルに肘をつき、両手を重ねて俯いていた。
「よう? また会ったな。ゴードン新支部長さんよう?」
「また貴様か……いや、わかっていたさ……何故か、途中までは、上手くいっていたのになぁ……なんでこんな事になったのかねぇ……」
思った以上に冷静な表情を浮かべて、返事をされた。
「冷静だな? もっと焦ってるかと思ったがな」
「いや、焦っていたさ、ただ……先程、騎士団本部から、指示があっただけの話だ……」
「指示?」
「隠しても仕方ない話さ、ライム支部の支部長の任を解かれた。ただ……1人、支部長が死んでも、騎士団の信用は戻らないとはっきり言われた。最後の本部からの指示は、騎士団支部長として、投降すること……あとは、その後に住民に謝罪してすべての罪を背負うことだ」
ヒデェ指示だな。トカゲの尻尾切りもびっくりじゃねぇか。
「そんな簡単に命を捨てんのか? ゴードン、アンタはもっと野心家だと思ってたがな?」
「流石に、本部から切られたんだ。野心家もクソもないさ、むしろ……何にしがみついて、手を汚してきたのかと笑いたくなるさ……」
「そうか、なら、歯を食いしばれよ。こんだけ関わって、この場に乗り込んじまったからな、ケジメは俺がつけてやるよ」
ゴードンは静かに立ち上がると、鎧を外して、俺の前に歩いてくる。
「頼む……色々と悪かったな」
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