147話
──早朝の騎士団ライム支部──
「ゴードン支部長! これは明らかに商業ギルドが誤魔化した証拠ですよ」
陽の光が未だに眠りについたまま、薄闇の空の下で騎士団ライム支部に男性騎士の声が響く。
「ゴードン支部長。確かに有り得ない速さの処理だと、我々も思います。むしろ、時間をかければ、違法性を証明することが難しくなるでしょう」
「その通りです! 朝日と同時に商業ギルドに向かい、クラクラムの奴を捕え、商業ギルドが金額を偽り分配したと馬鹿な住民に晒すべきかと!」
騎士団の会議室に急遽集められた上級騎士達は各々の考えを口にしてはゴードンを煽るように捲し立てていく。
本来冷静に考えることができたならば、こんな無意味な話し合いなどにはならなかっただろう。
しかし、ここで商業ギルドがいい加減な解読をしたと勘違いさせる流れが既に会議室に生まれていた。
騎士団へと返された書類とは別に金額が書き記されたメモの束があり、束のすべてに赤い丸印がされ、赤色のインクにより数字が書かれていたからだ。
商業ギルドを使う者ならば、この意味を即座に理解する。会計に関わる職の者ならば、すぐに気づくだろう、その書き方が示すのは、差し引く金額を意味している。
だからこそ、返却された書類を確認するより先に、手柄を焦った一部の部下は、数字の意味を理解してしまった部下は上官に報告してしまった。
しかし、それこそが最大のミスであり、彼ら騎士団の人間はホタルと呼ばれた日本生まれの日本育ちが、赤ペンで返金額を鐚一文、間違わずに書き記していた事実を知らなかった。
ただ、その事実に気づくものはいなかった。それだけ、この世界では赤文字が持つ意味そのものが強かったからに他ならない。
ゴードンは僅かな時間を使い思考した。
どうするべきだろうかと、現状を考えれば、就任したばかりである事実を除いたとしても、騎士団の立場はかなり悪い方向に舵がきられている。
騎士団とは本来は街で地位と立場を有し、必要ならば、力で住民や時には冒険者を押さえ込む立場である。
しかし、ゴードンと新騎士団となった者達は、未だにライムの街からただの厄介者としか見られていない。
そして、度重なる冒険者ギルドとの衝突と依頼の失敗が繰り返された騎士団には、既に依頼やトラブルなどの助けを求める者はいなくなっていた。
ゴードンは一度目を瞑り、小さく呟く。
「しかし、本部からの指示を仰がねば……これ以上は……」
そんな弱気な発言に突然会議室の扉が開かれる。
「報告します! 冒険者ギルドを見張っていた兵士から、急ぎの報せがありました! 冒険者ギルド内で何かのトラブルが起きたようで、ギルドマスターのダイル・オーレンが苦しみ出し、他の冒険者も同様に苦しみ出したと、毒物が持ち込まれたようです!」
報告に来た騎士の言葉に会議室に集まったゴードン以外の全員が沸き立つ。
「これは好機じゃないのですか! ゴードン支部長!」
「そうですぞ! ゴードン支部長! 冒険者ギルドの馬鹿共には散々、煮え湯を飲まされてきたのだ! 今こそ、動かねば騎士団の誇りが失われるぞ!」
報告に来た騎士もそれを煽るように声を上げる。
「騎士団の誇りは、ゴードン支部長にあり! 騎士団の誇りを今こそ!」
既に、冷静な判断ができるタイミングは消えていた。
そうして、ゴードンは覚悟を決めた。いや、決めさせられたのだ。
ゴードンと会議室に集まった上位の騎士達を見て、1人の騎士がバレないように微笑むと頭を深く下げ、会議室から退室するとそのまま、騎士団から姿を消した。
騎士団から姿を消した騎士は、すぐに鎧を脱ぎ捨てると、その足で商業ギルドへと向かった。
「失礼致します。マダム、騎士団が動きます」
「テルテルボーイの予想より早いわね……」
「はい。遅かれ早かれ動くと判断しましたので、それと予想外の出来事があり、利用させていただきました」
マダムピンキーに報告する男は、淡々と冒険者ギルドの現状を語っていく。
「何をしてるのかしらねぇ……ダイルちゃんが、毒にやられるなんて、想像出来ないわねぇ……」
「はい、何かしらの食中毒なのかは、確認が出来ませんが……報告では、真っ赤な紐のような食べ物を冒険者ギルドにいた冒険者が全員、口にしたようです……死人が出たとの報告はなかったので腐った食材を口にした可能性が一番濃厚かと……」
「本当に仕方ないわねぇ……冒険者ギルドに解毒ポーションを届けてあげて、ただ、普通に向かうとバレるから、しっかりと変装するのよ」
それからマダムピンキーの指示により、冒険者に変装した商業ギルドの職員達が解毒ポーションを魔物の皮で作られた水筒に入れ、冒険者ギルドへと運んでいった。
「さて、アタシもしっかりと出迎える準備をしないとよねぇ? 最高にクールで情熱的な、インパクトゥをご馳走様してあげるわぁ……哀れねぇ、騎士団はこのままだと、ライムの街から消されちゃうかもしれないわねぇ……まぁ、消せるなら、綺麗に掃除しちゃいたいのが本音なんだけどねぇ……」
マダムピンキーは、すぐに早朝の商業ギルドで働く職員達に指示を出す。
「さぁ! 今から忙しくなるわよぅ! 椀飯振る舞いも椀飯振る舞い! 普段出さない、とびっきりの熱々を用意するのよぅ!」
指示を聞いた職員達は、確認をすることなく、キーボックスから、複数の色違いの鍵を取り出すと、決められた手順を守るように僅かな迷いもなく、不自然に壁に作られた鍵穴に鍵を差し込んでいく。
バラバラの順番で差し込まれた鍵がすべて回されると、壁が二手に分かれ、扉のように開かれていく。
綺麗に並べられた大筒に職員達が、順番に魔法陣が書かれた紙を貼り付けていくと、大筒に真っ赤な線が浮かび上がる。
マダムピンキーは、楽しそうに笑みを浮かべた。
「すぐに、騎士団に嫌がらせをされた商人を呼んであげなさい。こんな仕返しのチャンスなんて、中々ないものぅ〜、派手にやるなら、人数が必要だものねぇ」
しばらくして、騎士団が知らない状況で商業ギルドに戦力というには不似合いな商人達が集まって行くのだった。
そんなライムの街での動きは、騎士団に知られることはなかった。
騎士団は、新たな戦力として送り込まれた新兵達を総動員し、商業ギルドと冒険者ギルドに対して、騎士団の全戦力を二手に分けて進軍さながらの行動が開始される。
騎士団は気づいていなかった。
冒険者ギルドで起こったダイル・オーレンの体調不良が、クラリスの作ったナポリタンが原因であり、既に商業ギルドが送った解毒ポーションにより、冒険者達が回復している事実を……
そして、何より……騎士団が動いている事実を商業ギルドにより冒険者ギルドに知らされているのだから。
騎士団が冒険者ギルドを包囲すると、その更に外側で待ち構えていたダイルがニヤリと笑う。
「朝から口直しだなぁ〜! やっちまえぇぇぇぇ!」
騎士団は噛み付く相手を間違えたのだ。これが仮にサンセル指揮の実力者ばかりの騎士団だったなら、結果は引き分けに持ち込めただろう。
しかし、新人混じりの新騎士団に、冒険者ギルドの殺戮者……もとい、ギルドマスターのダイル・オーレンと対等に戦える者などいなかった。
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




