146話
次の日、ライムの街は普段と違う朝を迎えていた。
朝市に向かって歩いていた俺は、ありえない光景を目の当たりにした。
普段、買い物客と商店で賑わう大通りを騎士団が隊列を組み歩いていく。
ただの騎士団の見回りなら、いやでも目に入るが、今回は別物だった。
「なんだい……あの人数、嫌だねぇ」
「見るんじゃないよ、また場所代なんて言われたらたまらないからね」
そんな店からの声が聞こえてくる。
ただ、それを大袈裟だなんて思わない。騎士団の数は大通りを埋めつくしていて、数十人どころの騒ぎじゃなかった。
軽く見ても、100人単位の隊列が複数に分かれ、一糸乱れぬ行進で真っ直ぐに商業ギルドを目指していた。
「おいおい……マジかよ」
俺が思ってた以上の最悪な展開じゃねぇか!
手に握っていた紙袋をその場に置き、俺は駆け出していた。
大通りの横に伸びる路地を駆け抜けた先、騎士団の進む先で遊ぶガキ達が視界に入る。
ただ、騎士団に止まる気配はない。誰も動かねぇか……いや、動けねぇのか!
隊列を組んだ騎士団を前に動ける奴なんて、そうそういないってか!
悩むなんて、馬鹿なことを考える時間はねぇ!
大通りに向けて飛び出し、ガキ達の前に出る。
先頭を進む騎士の馬が俺に驚いたのか暴れ出す。
「うわ、貴様! 騎士団の職務を妨害するとは、この馬鹿を捕らえよ!」
ガキが怯えていたので、とりあえず、人混み側に移動させる。
「何が騎士団だ、馬鹿野郎! 目の前にガキがいたら止まるのが常識だろうが! まさか、常識を母ちゃんの腹ん中に忘れてきたってワケじゃねぇよな?」
単純な煽り文句を口にする。これで怒るようなら、ガキへの怒りも俺に向けられるだろうからな。
案の定、怒りで真っ赤になった騎士が俺を捕らえるように指示を出してやがる。
「上等だ! ガキは国の宝だって事実も忘れた馬鹿は、騎士団だからって関係ねぇ! 無事に進めるなんて思うなよ!」
とりあえず、死んだかもしれねぇな! もし、生きてても、治療師ギルドまでもつか? ったく、我ながら損な性格だって思う他ねぇな!
既に話し合いのチャンスなんて、捨てちまったからな!
馬に跨った騎士が指示を出した瞬間、抜刀した騎士達が駆け出して来る。
周囲で見ていた人々が巻き込まれないように逃げ出し、俺は一瞬で取り囲まれていく。
振り下ろされた剣を回避した途端に、背中側から刃が襲ってくる。
「この大男、なんなんだ、くそっ! 硬い!」
「何かのスキルだ! 剣が効かないだと、ふざけやがって!」
【身体強化】をしているのがもうバレたか、思った以上に冷静かよ!
剣からランスに武器が変えられ、俺の腹部に目掛けて、勢いよく突き出される。
一撃、一撃は耐えられるが、ランスを掴んだ直後、次のランスが突き出され、次第にジリ貧になっている。
「もう一押しだ! 数で押し切れ! 騎士団に逆らう者が、この先どうなるかを──街に住む者に刻みつけよぉぉぉぉ!」
最低な行為を正当化するように語りやがって!
全身に広げた【身体強化】を研ぎ澄まし、身体に密着させるイメージを頭に固める。
ランスと剣が一斉に襲いかかり、剣の切っ先を【身体強化】した拳で掴み、突き出されるランスは、掴んだ剣を握ったままの騎士を叩きつけて回避する。
「ハァハァ……いい加減、1人相手に格好悪りいな、オイ! 料理人の俺を未だに倒せねぇんだ! 騎士なんかやめて、客に転職したらどうだ!」
騎士団から鋭い視線が向けられる。
「ふざけやがって! 騎士をバカにするとどうなるか、教えてやるからな!」
そんな声に、俺は笑う膝に気合いを入れながら、笑みを浮かべてやった!
俺の笑みに対して、ヘルムから見える無数の視線は殺気だろう、俺を捕える気なんてないだろうし、生かしておく気もないんだろうな。
本気の殺気が悪意と共に混ざり、眼前に銃口を向けられるようなねっとりとした死を感じされる感覚に包まれる。
「純粋な悪意ってか……畜生……朝市に来ただけだってのによう……」
騎士団の武器がすべてランスへと変えられ、馬に乗った騎士が号令を掛ける。
ここまでかよ……笑えねぇ……幕引きだな。
「何を! 諦めてるんッスかァァァァァッ!」
俺に迫っていた騎士団の真横からモモがゴーレムに跨ったまま突っ込んできた。
モモの跨っているゴーレムは、ミノタウロスって牛男の身体に牛の胴体? がくっついた不思議な形をしていた。
「先輩! 先輩は、朝ご飯後の買い出しから戻らないで何を! いじめれられてるんッスかァ!」
「はは、いじめって、確かに酷い光景だけどな、それよりその牛人間ゴーレムはなんなんだ?」
「牛は頭だけッスよ! 馬の身体に、ミノタウロスを合わせた、自信作! ミノケン君1号ッス!」
馬の身体だったのか……いや、牛の身体にしか見えねぇんだが……
「それよりも先輩、皆、先輩が帰らなくて激おこッスよ。爆発寸前ッスからねぇ!」
モモがそう口にすると、人混みを掻き分けて、エスが苦虫を噛み潰したような表情で姿を現し、その後ろから、ソマリとポメラ、狼族とドレイク、カイト達も来てるのがわかった。
「主様ァァァ! 敵は滅殺! 滅殺! 滅殺!」
「エスに賛成だぞ! ボク達は怒り爆発なんだぞ!」
「そうだぞ! オイラが全員、ぶっ潰してやるぞ!」
そんな大通りに響く俺の家族の声に対して、別方向から野太いながらに、低く怒りを具現化したような声が響く。
「おう、ホタルよぅ! 無事かァ! 騒ぎを聞いてから、来たから遅れたが生きてるよなぁ! 生きてねぇと、オレの腹が煮えくり返った後なのに、口直しができねぇからなぁ!」
その声はダイルだった。
「いいかァ! ホタルが死んだら、クラリスのナポリタンが本物になっちまうぞ! ホタルは必ず助けろ! いいな、テメェらァァァ! ホタルが死んだら、クラリスのナポリタンを食わされると思えやァァァ!」
「「「オオォォォォッ!」」」
聞けば聞くほど、ヒデェ理由だな、てか……ダイルの後ろにいるクラリスさんの表情がやべぇな……
その状況に騎士団は慌て出すが、更に正面からも大勢の人影が進んできた。
「あら、激しいわねぇ! でも、アタシの大切な商業ギルドのメンバーであるテルテルボーイをこんなズタボロにしたんだから、しっかりとお礼をしないのは、まさに──ナンセンスゥゥゥ! 激しい怒りのインパクトゥゥゥゥ! 大盤振る舞いでご馳走様してあげるわよォッ!」
マダムピンキーを先頭に、ベリーさんやブルーが大筒を肩に乗せて構えをとっているのがわかる。
いや、流石に考えすぎか……あれって、石火矢か!
マダムピンキーがニヤリと笑みを浮かべると、指輪がつけられた派手な指を真っ直ぐに騎士団へと向ける。
「さぁ、魔力充填! 商業ギルドの新商品のお披露目よぅ!」
マダムピンキーの号令に、石火矢に似た大筒が輝き、火炎弾が勢いよく発射されていく。
火炎弾が発射されたと同時に、マダムピンキーが指をパチッと鳴らすと指輪が輝き出し、半透明の緑色の防壁が騎士団と住民の間を綺麗に区切っていく。
「逃がさないわよゥ! アタシってば、今はかなり怒ってるんだもの!」
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