145話
騎士団は形ばかりの謝罪をして、回収した商人からの場所代を書き記した書類をマダムピンキーに手渡した。
しかし、中身は文字が読めない書類ばかりであり、マダムピンキーは激昂したが、騎士団からの返事は──
「我々は書類も貸し出しました。場所代も請求しません。あと、こちらが回収した金額を軽く書き記したものになります。詳しくは書類に記してありますので」
結局、それ以上は平行線だったらしい。
しかも、回収した金額をすべて混ぜた状態で騎士団は返金したため、書類をすべて翻訳しない限り、商業ギルドでは正しい金額が把握できない状況になっていた。
ただ、この事実には、別の問題が存在しているとマダムピンキーは真剣な面持ちで俺に語った。
「もし、このままだと、商業ギルドはライムだけでなく、他の街でも信用を失う結果になるわねぇ……」
「いや、マジに意味がわかんねぇっての……なんの話なんだ?」
マダムピンキーは再度頭を抱えてから、俺に教えてくれた。
「もしも、返金額を正しく返せない形になれば、それは商業ギルドが金額を誤魔化したってことになるのよ。金銭に商品、商業ギルドで扱うものは少なからず金が絡むのよ」
「つまり、正しい金額が返金できねぇとヤバいって話だよな?」
話を理解してから、今の状況を考えて頭の中で纏めてみる。
騎士団の書類ってことは、事務方の仕事なんだよな……いるじゃねぇか! 最高に事務方の騎士団関係者!
「カイト悪いんだが、アナンのやつを呼んで来てくれるか?」
「え、いいけどさ、組長……モモ姐達になんて説明する気だよ?」
「なんか言われたら、一緒に連れてきてくれ。とりあえず頼む。カイトにしか頼めねぇからな」
カイトが駆け出して30分もしないうちに、アナンを引っ張り戻ってきた。
「ホタルさん、いきなりどうしたんだい……急に来てくれって言われても、僕にもマタギの留守番って仕事があるんだよ!」
多少プンスカと怒るアナンに謝りつつ、俺は騎士団から預かったと説明された書類を1枚手に取り、アナンに手渡す。
「え? あ、騎士団の暗号文字じゃないか! なんでこんなものがあるのさ!」
アナンの反応に商業ギルドの職員達が希望を見つけたように嬉しそうな笑みを浮かべる。
そんな中、1枚の書類がテーブルから床に落ちる。
ん? なんだ。
俺は落下した書類を拾うと、軽く視線を向ける。そこにはしっかりとブルー商会と書かれていた。
読めるように書いてあるじゃねぇか……1件でもまともに返してやれば、商人達の騒ぎもマシになるだろうに……しゃぁねぇな。
「なぁ、マダムピンキー? ブルーの商会に、この紙に書いてある金額だけでもすぐに返してやれねぇか? そうしたら騒ぎもマシになるんじゃねぇか?」
俺の言葉に、マダムピンキーが渋い表情を浮かべる。
「はぁ……テルテルボーイ? 適当に選んだ書類をブルー商会のものだなんて、言わないで欲しいわぁ……それに今翻訳ができる人間は貴方が連れてきたボクッ子ガールだけなんだから、焦らさないで……」
「いや、書いてあるだろうが! なんなら、ブルーのやつを呼んでこいって、間違いなくブルー商会って書いてあるんだからよ!」
適当呼ばわりは、マダムピンキーでも許せねぇ!
考えたくないが、マジにピンハネする気じゃねぇよな……
俺の発言に困った表情を浮かべながらも、マダムピンキーがブルーを呼んでくれた。
突然呼ばれたブルーは、気まずそうに首を傾げる。
そこから俺は別の書類にも目を通して、ブルー商会と書かれた書類を片っ端から一纏めにする。
「何してるんですか! 勝手に触らないで……あぁ、似た文字の書類を分けたのに……」
商業ギルドの職員がグダグダ言ってるが、“商会”しかあってねぇから、無視だ!
「おい、ブルー! 今から金額を読み上げてやる。その前にマダムピンキーに全部の金額を伝えろ! 間違うと損するし偽ればすぐにわかるからな!」
それからブルーに1枚、1枚、記入された金額を伝えてやる。
「すごいわぁ……伝えられた金額がそのままじゃない……テルテルボーイ……貴方ったら、別大陸の文字が読めるなんてぇぇぇぇッ! エクセレントゥゥゥゥゥッ!」
そんなマダムピンキーとブルーの反応を見て、翻訳作業をしていたアナンも混ざってきた。
「驚いたよ。ホタルさんって、見た目と違って、僕と同じくらい知識があるよね。西大陸文字をそんなにサラサラ読むなんてさ、もしかして、西大陸の出身だったりするの?」
「アナン、俺は……まぁいい、とにかく西大陸文字がよく分からないが、俺のスキルに文字を翻訳するのがあった気がする……ずっと忘れてたがな」
商業ギルドの職員達からも何故か「救世主だ!」「残業から解放されるぞ!」などと涙ながらに喜ばれた。
いや、むしろ、商業ギルドがピンハネしようとしてたのを暴かれて慌てる所だろうが!
「マダムピンキー! 見損なったぜ! なんで、ピンハネなんかしようとしたんだ!」
俺の言葉にマダムピンキーは、首を傾げる。
「テルテルボーイ? ピンハネってなによ? それも西大陸の言葉なのかしらぁ? って、そうじゃないわぁ! すぐに全部の書類をテルテルボーイとボクッ子ガールに翻訳してもらった部分から、文面を纏めるのよぅ!」
俺の言葉を無視して、マダムピンキーの指示で書類が一気に俺の前に集められていく。
それからすぐにわかったのは、やはり俺は西大陸の言葉を【異世界言語理解】により、自動翻訳していた。
そこから、巻き込まれたアナンから、散々文句を言われながら3時間程の時間を掛けて翻訳作業を終了させる。
「あぁぁぁ! テルテルボーイ&ボクッ子ガール! 素敵よぅ! 輝く汗も、光る頭部も、すべてがまさに……衝撃的なインパクトゥゥゥゥゥゥッ!」
ハイテンションになったマダムピンキーは、フロア側に待たせていた商人達に満面の笑みとマッスルポーズを見せつけながら、口を開く。
「この場にいる全員に朗報よぅ! テルテルボーイとボクッ子ガールが正しい金額を導き出してくれたわぁ! 最初に渡した金額に足りない分を今から支払わせて貰うわぁ! 今すぐに並びなさ〜い!」
それから更に数時間の拘束をうけて、俺は解放された。
俺を待っていたカイトに謝罪してから、店に帰ることになった。
帰り際、マダムピンキーと商業ギルドの職員一同から、本気の感謝をされた。
因みにこの時点で、騎士団から預かった書類は商業ギルドの職員というか、マダムピンキーの情報収集部隊がしっかりと返還したらしい。
騎士団の奴らが、嫌がらせで作った書類だから、気にするだけ無駄だろうが、詐欺師みたいな真似をするやつは、大概次にまた何かを仕掛けてくるので、予想できる範囲で、マダムピンキーにアドバイスだけはしておいた。
早い話が、イチャモンをつけて、勢いで押し切ってくる可能性があるからだ。
今の新騎士団の奴らからみれば、読めないはずの文字を商業ギルドが解読したなんて微塵も考えないだろうからな。
なんなら、大規模な入場料の増額や、商人への嫌がらせ、それらを考えても十中八九、別大陸に繋がりがある商人をターゲットにしてるように感じるからな。
空を見上げてから、煙草に火をつける。
「ふぅ……騒がしい日になったなぁ……」
「それは僕のセリフだよ! いきなり呼ばれて何時間も監禁されて、無理やり……僕は帰りたいって言ったのにさ! それでも強行するんだから、本当に疲れたよ」
「人聞きが悪りぃ言い方すんなって、とにかく、アナンもカイトもありがとうな」
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