144話
冒険者ギルドのダイル。
商業ギルドのマダムピンキー。
新騎士団。
早い話が、今現在、ライムの街はかなり殺伐としてるらしい。
正直、単なる料理人の俺からしたら別世界の話みたいにしか思えないんだよな。
次の日、マダムピンキーは商人達との約束を果たすように騎士団へと出向いたと、街が賑わっていた。
朝市は安全を考えて、避けることにして、昼から買い出しを行っていたが、周囲からはマダムピンキーを心配する声と騎士団への苛立ちがひっきりなしに聞こえてきていた。
1人で大通りを歩いて色々と店を見ていく。
普段なら、誰かしら付いて来そうなもんだが、今回は仕方ないな。
理由としては、ソマリとポメラは病み上がりなのでお留守番をしている。見張りはエスとパラ、更に狼族のみんなだ。
モモはドレイクとゴーレム造りをしているので、パスされた。
魚介類や肉は【店舗受取】で補充できるが、野菜に関しては、やはり新鮮な方がいいからな。
何より、無農薬野菜は健康的なイメージになるしな。
ただ、少し品揃えが悪くなった気がするんだが……聞いてみるか?
野菜を扱うおばちゃんに質問をしてみる。
「あら、ホタルさん、悪いわね……なんか、最近はライムに入るのがややこしくなってるみたいなのよ。ここだけの話だけど、騎士団がね、外からの商人に高い入場料を払わせてるみたいなのよ……」
噂好きのおばちゃんの話だから、話半分で聞いとくか、ただ……肉屋も魚屋も鮮度がよろしくねぇな……
話半分に聞いていたつもりだが、実際に賑わいもいつもの半分ほどに感じる。
マダムピンキーが上手く話をつけてくれると助かるんだがな。
とりあえず、噴水のある広場でベンチに腰掛けて一服をする。
広場でも、騎士団のやり方について話すものと、街から離れるべきかを考えるやつらもいるらしく、様々な話が耳に飛び込んでくる。
「ふぅ──耳栓でも、持ってくるべきだったか……賑やかすぎんだろうが……」
煙草の煙を吐き出しながら、そう呟くと背後から声を掛けられる。
「何が賑やかなのですか?」
「ん……クラリスさん? なんで広場に?」
我ながら間抜けな質問だと思う……ただ、不意に知り合いが現らわれると無駄な質問をしちまうのは、仕方ないよな?
「私は、バカで傲慢なダメ人間のギルマスが、ホタルさんの作っていたナポリタンを再現しろと無理を言われまして……本当にギルドマスターでなければ、32回ほど、灼熱の釜で煮込んで……スケルトンにしてやりたいくらいですよ……」
笑ってるのに笑ってねぇ! ってか、ダイルのやつ、スパゲティーもペンネもない世界で何してんだよ!
「ち、因みに……材料は何を選んだんだ?」
「恥ずかしながら、私は料理はあまり得意ではないので、“イトヤシ”、“ブラッドブラッド”、“ニガロスター”、と、見た目が似ている食材を選ばせて貰いました」
・イトヤシ──細く皮が伸びる木の実、煮込んで柔らかくすれば摂取可能。腹痛の薬などに使う素材。
・ブラッドブラッド──中身が種ばかりの野菜、種を炒めると真っ赤な油が出てくる。油は激辛なので注意。
・ニガロスター──星型の細長い野菜、苦味が強く、甘い野菜と炒めて使われることが多い。
食材のチョイスだけ見ても、絶対にナポリタンにならないのは明らかだった。
「な、なあ、あれなら、作り方と食材を教えるぞ?」
「いぇ、ホタルさん……私があの愚かなギルドマスターから頼まれたのは、見た目の似た料理です……なので、二度と私に対して、変なことを口にしないように、味を刻んでさしあげないとですから……」
笑顔が怖ぇって! クラリスさん、わかってやってるよな……
結局、正しい作り方をクラリスさんに伝えられないまま、話が終わった。
「あ、ホタルさん……商業ギルドが動いたみたいですが、安心しないようにしてください。騎士団は愚か者ばかりみたいですので……」
意味深な言葉だけを残して、クラリスさんは帰って行った。
「なんだってんだよ……安心するなって、まだなんかあるのかよ?」
考えても分からないので、散々悩んだ結果、帰りに商業ギルドに寄ることにした。
商業ギルドに到着すると、カイトの姿があった。
「あ、組長!」
「おう、なんでカイトがいるんだ?」
「実は、取られた場所代の返金を商業ギルドがしてくれるらしくて、それで呼ばれたんだよ。ただ、さっきから、色々とおかしくてさ?」
「おかしい?」
俺が商業ギルドのカウンターを見ると、商人のブルーが困った表情を浮かべながら、必死に何かを訴えていた。
「いや、絶対におかしいのですよ! このブルー商会の店が何軒も狙われたのに、返金される金額がこれだけな筈がないでしょう!」
ブルーにしては、かなりの大声だったので、驚いたが、それは他の商人達も同じように見えた。
そして、カイトに順番が回ってきたが、カイトもなんとも言えない表情を浮かべている。
「組長……全然足りないんだけど」
その言葉に脇に避けていたが、そのままギルドカウンターにグッと身体を割り込ませる。
後ろに並んでいた商人が何か言いたそうだったが、笑顔で頼んだら、先にどうぞと俺に譲ってくれた。
「なぁ! 悪りぃが、さっきから聞いてたら、随分と金額が足りてないみたいだが、マダムピンキーと話をさせてくれねぇか?」
受付嬢は、引き攣った表情で口を開いた。
「む、無理を言わないでください。ただでさえ、今、マダムは忙しく……」
「ウチの大切な家族が必死に稼いだ金だ! どんな理由だろうが、話を聞かねぇと納得なんてできねぇだろうが!」
本来なら、こんな真似はするべきじゃないだろうが、やっぱり納得いかねぇからな!
商人達の騒ぎを聞いてか、俺の声に反応したのか、奥からマダムピンキーがうんざりした表情で顔を出した。
普段の勢いがないのが逆に不気味だと感じる。
「話があるみたいね……アタシも少し誰かと話したい気分よ。テルテルボーイ……入りなさい。他の皆も悪いわね……もう少し待ってて欲しいわ」
まじにテンション低いじゃねぇか!
言われるまま、俺とカイトは奥の部屋に入ると、ベリーさんの他に数人の商業ギルド職員が紙の束にペンを走らせていた。
「マダムピンキー? これは何してんだ?」
「テルテルボーイ……アタシが騎士団に出向いたことは知ってるわねぇ?」
「あ、あぁ、街で噂になってたからなぁ」
「そぅ、ここからがアタシがやられた事実になるわぁ……悔しい話なのよ」
マダムピンキーが眉間を押えながら、苛立ちを顕わにしている。
「今、この部屋では、騎士団から預かってきた書類が並んでるわ……ただ、問題はそのすべてが帝国文字でも、王国文字でもないのよ、別大陸の文字で書かれてるのよ……」
まったく、話が読めねぇ……
「早い話がねぇ……この書類は一時預かりで、2日後には返さないとならないのよ……」
マダムピンキーからの説明は騎士団で話をつけた後の話だった。
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




