143話
昨日のダンジョンでの襲撃騒動もあり、今日はソマリとポメラも大人しく、庭で狼族と戦闘訓練と称したじゃれあいをしている。
早い話が、本当の休日を過ごしている感じだ。
病み上がりの2人が無理をしないかと心配したが、今の様子なら今日はゆっくり過ごしてくれるよな。
そんな俺の期待は、午後になって叩かれた扉の音で台無しになる。
「邪魔すんぞ! ホタルぅ〜客として来てやったぜ! さぁ、ナポリタンを大盛り3人前だ! 飲み物はエールを大ジョッキ! あとは他の奴らが適当に頼むから、頼むわぁ」
バカ野郎……静かな休日にする為に、『OFF』の看板にしてたのに……いや、OFFって意味が伝わらなかったのか! 英語が通じない……
速攻で注文をしてきたダイルのやつを軽く睨みながら、大ジョッキを置いてやる。
「目つきの悪い店主だなぁ? まぁ、ホタルの店だから許すがなぁ……かぁ、ウンメェ!」
周囲は何故か、黙ったまま、メニューを見ながら、困っていたので、溜め息を吐きながらダイルに連れられてきた冒険者ギルドの連中に声を掛ける。
「メニューが読めないなら、ウチでは、おまかせか、ランチって言えば作る。因みにどれも大銅貨1枚だ!」
そうして、冒険者達から大量のおまかせが頼まれ、大量のスパゲティを茹でることにした。
別のコンロでミートソースを作る為に鍋を火にかける。
大量の玉ねぎを素早く刻んでいると、横からモモとエスが調理に加わってくる。
「先輩? 玉ねぎに鍋、スパゲティって、ボロネーゼッスか? それともアサリを入れてボンゴレッスか?」
「主様……玉ねぎだから、ニンニクと肉で炒める?」
2人ともいいセンスだが、なんでミートソースって考えにならねぇんだ?
「いや! ミートソースだ! だから、玉ねぎマシマシだ! モモはミキサーを頼む! 時短でやるぞ!」
そうして、俺は最初のパスタを別のフライパンでナポリタンとして調理していき、大ジョッキを飲み続けるダイルの前に運んでもらう。
結局、ミートソースを作るまでの繋ぎに、コールスローやフライドポテトをモモに作ってもらうことになった。
それから出来上がったミートソースを提供していくと、冒険者達がマナーなんて、存在しないといった具合にズルズル、ガツガツと食べ出した。
「ホタルさん! 美味いな!」
「血みどろパスタをギルマスが食ってたから、焦ったが、うめぇ!」
言いたい放題の冒険者達を見て、追加でパスタを茹でてやり、1皿ずつ、オマケとして食わせてやった。
冒険者だけあって、よく食いやがる。ただ、こんな雰囲気も嫌いじゃねぇから構わねぇがな。
酒まで入り歌い出した冒険者達は置いといて、ナポリタンを3皿食べ、上機嫌なダイルに話しかける。
「いきなり飯を食べに来たのか?」
「おう、ホタルぅ。最高に美味かったぜ……実は話があって来たんだったが、ナポリタンの誘惑には勝てねぇわなぁ。ははは」
「はぁ……それで本題はなんだ?」
「早い話さぁ……ライムの冒険者ギルドに連れてきた連中がいただろうが? 色々と可哀想なことになったが、オレに協力したいって懇願してきたから、話を聞いたわけなぁ」
ぜってぇ嘘だ!
「しかもさぁ……冒険者だと思ってたらよぅ? なんとびっくり! 冒険者ギルドの人間ですらなかったんだよぅ……ひでぇよな? 悲しいよなぁ?」
演技じみたダイルの言葉に俺は若干引いたが……話を続けてもらう。
わかったのは、チンピラ達は、冒険者登録をしていないまま、冒険者証を偽造していたらしい。
冒険者ギルドとしては、名前を使われたまま、悪事を働いた輩になるわけだからな。
「ホタルぅ……わかるかぁ……オレたち冒険者は最低な荒くれ者の集まりさ、でもよぅ……だからこそ、荒くれより、下に落ちたら終わりなんだ……ふぅ、飲み過ぎたかな……」
「いつもの半分も飲んでねぇだろうが? それより、冒険者を偽るような奴らが、そんな人数で好き勝手してる方が引っ掛かるんだがな」
「だよな……まぁ、オレたちは、オレたちで聞いた情報で動くだけだからねぇ……最高の食事は肉体に、最高の酒は血と魔力にってな」
それだけ言うと、ダイルが全員に声を掛けてゴル金貨を1枚手渡してきた。
「美味かったぜ。釣りは要らねぇからよ」
「多すぎるぞ?」
「なら、また来た時に、ナポリタンを全員分、大盛りで食わせてくれよ。ドリンクはエールでな」
「ドリンクにエールは入ってねぇが、わかった。気をつけてな」
「まだ、昼過ぎだろうが? 何に気をつけるんだぁ? ははは。まぁまた来るぜホタルぅ〜」
上機嫌でダイル達は帰って行った。
その日の夜、俺は商業ギルドから緊急の呼び出しを受けてしまい、商業ギルドへと向かうことになった。
「静かな休日ってのは、夢物語なのか……ったく、1人で来いなんて言いやがって」
商業ギルドに到着すると、ギルド内では激しい言い合いの真っ最中だった。
普段なら、会議室で話すような内容から、商業ギルドに対する不満まで内容はピンキリだが、雰囲気が悪すぎる。
「なんだ、こりゃ……」
入口でそう呟くと、商人のブルーが声を掛けてきた。
「お久しぶりです。ホタルさん! 貴方も呼ばれたんですか?」
「貴方もって、ブルーも呼ばれたのか?」
「えぇ、突然の呼び出しでしたが、商業ギルドの緊急招集となれば、来ない訳にはいきませんからね」
呼ばれた理由は分からないが、他の奴らも商業ギルドに登録している商人らしい。
そうして、商業ギルドの奥の扉が開かれる。
「悪かったわねぇ。でも、まさに商業ギルドに生きるすべての商人の緊急事態! ありえない悪夢のような状況なの、話を聞いて欲しくて集まってもらったわ!」
姿を現したマダムピンキーに対して、商人達が声を出す。
「マダムピンキー! 緊急事態なのはわかってるんですよ! 騎士団を何とかしてくれ!」
「そうです! 露店で生きる連中も、これじゃ飯が食えなくなるって叫んでますよ!」
言葉選びはしているが、明らかに不平不満を口にしている。
ただ、話を聞いてすぐにマダムピンキーが返事を返した。
「既に明日、騎士団に話をつけに向かうつもりよ! ただ、朝市なんかに店を出している商人達に迷惑を掛けてしまうかもしれないわぁ、だからこそ、今! 貴方達に話を伝えているのよぅ!」
真面目にギルドマスターをするマダムピンキーに少し驚いたが、それだけ本当にヤバい状況なんだろうな。
ただ、騎士団に話を通すって内容を聞いて、商人達はざわめいたが、それでも話が決まった。
それからすぐに解散になったが、カイトの件もあるので、店に帰る前にマダムピンキーと話すために声を掛ける。
「マダムピンキー、悪りぃ! 少し話せるか」
「あら、テルテルボーイ? どうしたのかしら、もしも、夜のお誘いなら明日が早いの、だから後日にしてもらえるかしら?」
「なんの話だよ! 違ぇよ! ウチのカイトが大通りで騎士に絡まれてな。いったい何がおきてんだよ?」
「その話ねぇ? 最初に聞いた時は、アタシも驚いてしまって、まさに衝撃、全身に走る激震のインパクトゥゥッ! 同じような報告が何件かきたのよ……正直、“おいた”としては、笑えない状況だわぁ」
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