142話
冒険者ギルドを後にして、完全に日が暮れてしまった空を見上げる。
モモとの約束を考えると、急いで戻らないとだな……
ソマリとポメラを両手に抱えたまま、俺はライムの街を急ぎ足で進んでいく。
「ホタル、ボクはもう大丈夫だぞ」
「そうだぞ! オイラは怪我してないから、降ろしてもいいんだぞ」
ガキが恥ずかしがりやがって、ったく!
「悪ぃな、俺が2人を連れてきたいだけなんだよ。だから、今は大人しく俺に捕まっててくれよ。またなんかあったら嫌だからよ」
そう口にすると、ソマリとポメラから、フンッと言わんばかりに、顔を下に向けられちまった。
まぁ、2人からしたら、顔見知りばかりの街でこれは恥ずかしいのかもな……ただ、今更降ろせねぇから、急ぐしかねぇな。
「うわぁははは! ホタル早いんだぞ!」
「早すぎるぞ! ホタルがウルフより早いんだぞ!」
必殺の大人ジェットコースター(全力ダッシュ)で2人の気を紛らわせながら、スラム街まで一気に駆け抜ける。
店が見える位置まで辿り着くと、モモ達が何故か外に集まり、何かを組み上げている真っ最中だった。
「モモ達のやつ、こんな時間に何を組み立ててんだ?」
「あ、先輩! 帰ってくるのが遅いッスよ! せっかく、モモ達がバーベキュー用の網と鉄板を用意してあげたのに、空気をしっかり読むのが大人ッスよ!」
モモの声にソマリとポメラが慌てて、俺の手から地面に降りる。
「ホタル、ボク達も行くんだぞ!」
「オイラ達も手伝うんだぞ!」
モモ達の下に走っていく2人を見て、俺は笑みを浮かべた。
確かにポーションはしっかり効いてるみたいだな。
「おい、2人とも! 先ずは手洗いと着替えだ! 俺達は土まみれだからな」
「わかったぞ! ボクが1番に手を洗うんだぞ!」
「違うぞ! オイラが手を洗って着替えるんだぞ!」
元気な姿を見つつ、俺も店の中を進んでいく。
俺達が着替えを終える頃には、外から肉や野菜が焼けるような香りが漂ってきた。
それから俺達全員で肉を焼き、野菜を炒めたり串焼きにする。
腹が膨れてから、改めて今日の朝から夕方にかけての出来事を留守番をしてくれていたモモ達に伝える。
「ありえないッス! ソマリとポメラが可哀想すぎるッス!」
「主様……殺処分を推奨……確定」
モモとエスが鬼より怖い表情になる。
そんな2人とは対照的に、心配そうな視線を向けてきたのは、ドレイクとパラだった。
「マスター? マスターは大丈夫?」
「そうよ。組長、パラがぺちぺちしてあげる?」
純粋に心配してくれてるんだよな……パラの誤解は、まぁ……いいか。
カイト達や狼族の連中も心配してくれたが、そんな中でカイトが不安そうに口を開いた。
「ただ、このままだと街中で商売ができないかもしれねぇよ」
「ん? なんでだよ」
「組長、少しあっちで話そうぜ……みんなの前だとあれだからさ……」
カイトらしくない元気のない声に、俺はとりあえず、全員から離れた位置まで移動する。
暗がりに2人きりになってから、煙草を取り出して火をつける。
「それでどうしたんだ? まさか焼きそば焼ける君を壊したとかか?」
質問をするとカイトが溜め息混じりに街での出来事を教えてくれた。
カイトはいつもどおりに、焼きそば焼ける君を連れて大通りで焼きそば屋台をしていたらしい。
そこに騎士団がやって来て、カイトに対して質問をした。
「おい? 誰の許可を得て、この場所で商売をしている?」
「え、いや、この場所は自由市場だろ……しっかり、商業ギルドに露店の許可は貰ってるよ」
当然、カイトにはマダムピンキーに頼んで商売をする為に必要な資格、つまり商業ギルドの登録をさせてある。
同時に露店販売に必要な販売人証明の代金として(1ヶ月大銅貨2枚)を支払っている。
つまり、カイトに対しても商業ギルドから正式に許可を出されているため、誰からも文句を言われる必要が無い状態にしてあったはずだ。
しかし、騎士団からの言葉にカイトは耳を疑った。
「商業ギルドは販売の許可であり、このライムの街で土地を使うなら、今日からは騎士団の許可が必要になったんだよ。分かったら土地の使用料を騎士団に払ってもらおうか?」
結局、逃げられない状態で、その日の売上げから半分を持ってかれたらしい。
「おいおい、そんな話ありえないだろ……なんで、すぐに言わねぇんだよ! モモ達は知ってるのか?」
カイトは悔しそうに首を左右に振った。
「悔しいけどさ、モモ姐達が、“おかえりッス、上手くいったッスか”って、笑顔で聞かれたら、大丈夫しか言えなくて……オレ、1人で解決したくて、でも悩んでも分からなくてさ……組長、教えてくれよ……」
その先を言わせないために、ただしゃがんでカイトのやつを力一杯、抱きしめた。
「つれぇな、男だから、1人で背負っちまうよな……大丈夫だからよ。むしろ、悔しくても話す勇気を俺は誇らしいと思うぞ」
「く、組長……うぅ、オレ、オレ……ぐやじぐで、まじめに、はだらいで……オレ……ぐみぢょうみたいに……すげぇ……おどなになりだぐで……」
腕の中で泣き出したカイトの姿をみんなに見せないようにしっかりと抱きしめ直す。
泣き止むまでカイトを抱きしめ、その後はカイトを含め、グライとセスも店に泊めることにした。
その日の夜は、何故か俺のベッドは賑やかだった。ただ、ベッドには俺じゃなく、カイト達、男子3人が川の字で寝ている。
問題は床に敷いた予備の布団に眠る俺の左右にソマリとポメラが寝てる事実だ。
カイト達に部屋で寝るように伝えてから、外で一服を済ませ、部屋の前に移動するとパジャマ姿のソマリとポメラが立っていた。
「あ? 何してんだ、お前ら?」
「うわ、ホ、ホタル違うぞ! ボク達はあれだからな」
「そ、そうだぞ、ホタルと寝たいからいるんじゃないんだからな!」
そんな勢い任せな言葉に俺は笑った。
「わかったわかった。確かにカイト達もいるなら、みんなで寝たくなるよな。ただ、ベッドは3人でいっぱいだから、布団になるぞ?」
部屋に入れてから、予備の布団を更に1枚敷いてやる。
そこまでは普通の流れだったが、俺を真ん中にするように寝かされ、左右にソマリとポメラが眠ってしまった。
なんだかなぁ……大家族の父親ってのは、こんな感じなのか?
だとしたら、布団の予備を手に入れる方法を考えないとだよな……
改めてそう考えながら、俺は1日を振り返って、左右で寝息を立てているソマリとポメラの寝顔を見る。
俺だけだったら、今この2人のどちらかがいなかったかもしれない。
今両手を掴んでくるチビ達の体温と寝息が生きているんだと俺に伝えてくる感覚に俺はなんとも言えないような感覚になるのもまた事実だった。
「ホッとした……とも、違うが……ただ、良かったってやつなんだよな」
そう考えた俺は目を瞑り眠ることにした。
ただ、両手をがっしり掴まれて、寝返りすらできないので、本当に困ったがこんな1日の終わり方もまあ、悪くないんだろうな。
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