141話
俺達がライムの街に到着してから、レイダ達は冒険者ギルドへと、チンピラ達を引きずるようにして向かっていく。
正直に言えば、あとは任せて話は終わりだと思っていたが、店に帰ろうとした俺達は何故か、冒険者達に囲まれた。
「ホタルさんよぅ? まさか、これでサヨナラなんて、話じゃねぇよなぁ?」
冒険者の1人がそんな言葉を口にすると周囲からも鋭い視線が向けられる。
何を言いたいかが分からない以上、まだ歩けるようになっただけのソマリとポメラの2人を気にしながら、視線だけは冒険者に向けておく。
ただ、俺の横から別の冒険者が声をかけてきた。
「わかるぜ。仲間を傷つけた奴らをギルドに預けないといけないなんて、実際は苛立って仕方ねぇよな……ただ、それでもダイルの奴なら、兄ちゃんの怒りを晴らしてくれるからよ! そうだよなぁ!」
「おおぉぉぉぉぉ! 間違いねぇ! ダァァァイィィィルゥゥゥ!」
「ダァァァイィィィルゥゥゥ!」
「ダァァァイィィィルゥゥゥ!」
また、ダイルコールが始まると、その勢いのまま、俺達も冒険者ギルドに引っ張られてしまった。
いや、俺は早く、ソマリとポメラを休ませたいだけなんだって!
「俺は!」
「ダァァァイィィィルゥゥゥ!」
「ダァァァイィィィルゥゥゥ!」
ダメだ、こいつら……マジに脳筋じゃねぇかぁぁぁ!
結局、冒険者ギルドに連れてこられると、ダンジョンの町から来た冒険者達が勢いよくギルドの扉を開く。
「久しぶりのライムギルドだぁ! ヒャッハー!」
「すぐにマスターダイルを出してくれ! 話があるからなぁ!」
冒険者ギルドに入った途端にそのセリフはダメだろう……傍から見たら、殴り込みにしか見えねぇ。
そうなると、ライムの冒険者側も眉間に青筋を浮かべる。
「なんだテメェら、見知った顔もいるが、ダンジョンの町で暴れてるからって、ライムのギルドでマスターを呼び出すってのは、ふざけすぎだろうが!」
予想はしてたが、そうなるよな……
結局話し合いの前に乱闘騒ぎになり、クラリスさんが、騒ぎに気づいて奥から顔を出し、氷魔法なのだろうか、ギルドに物理的な吹雪が吹き荒れた。
「ホタル寒いぞ」
「オイラ達は、寒いのは嫌いだぞ」
とりあえず、2人を抱きしめてやり、クラリスさんに声を掛ける。
「悪りぃ! クラリスさん、ウチの2人が寒がってるから止めてくれないか! 怪我が治ったばかりなんだ!」
「怪我ですか? すぐにこちらに来てください。あと、他の皆様……馬鹿な揉め事をやめないなら次は、男性機能を木っ端微塵に砕いて、二度と男性を名乗れなくさせます……自重してください」
その声で冒険者達が全員身動きをピタリと止めた。
クラリスさんに呼ばれるまま、俺達は奥に通されて、暖かい飲み物を出された。
少し落ち着いてから、クラリスさんにレイダを呼んでもらい、試練のダンジョンであったことを説明していく。
「──って、感じで、レイダ達の『グリーンロック』に助けられたんだ」
「それは運が良かったと言う他ありませんね。本来なら、全滅……もしくは死人が出ていたかもしれません。そのゴミ達については、物理的にも、情報的にも必ずすべてを吐かせますので安心してください」
クラリスさんの言葉に背筋に寒いものを感じたが、チンピラ達のことを任せることにした。
ただ、そんな話し合いをしていると、冒険者ギルドの受付側が騒がしくなってきた。
「騒がしいですね。本当に我慢が足りない方々は、本気で男性機能を失わないと理解できないのでしょうかね?」
恐ろしい言葉を口にしながら、クラリスさんが扉を開くと、罵倒にも似た声色で声が叫ばれた。
「我々は騎士団から任務で来ている! 下手な行動を起こせば、ライム支部の騎士団だけでなく、周辺の支部からも攻撃対象になると思え!」
本来なら一触即発だろう光景だったが、冒険者達は睨みはするが、酒を飲みながら反論などしていない。
しかし、何を勘違いしたのか、騎士団が調子に乗って、冒険者のテーブルに置かれた酒を手に取る。
何をするのかを見ていると、騎士の1人が手にした酒瓶の中身を冒険者の頭上で傾ける。
「安そうな酒だな? 浴びるほど飲むのが冒険者のやり方らしいから、我々が手伝ってやろう」
酒を掛けられた冒険者が我慢している中、他の冒険者達が立ち上がり動き出そうとすると、誰よりも早く、騎士の背後に姿を現した男がいた。
「おいおい? 酒は口から喉に、喉から腹に流すんだよぅ……それとも、あれか? 酒の飲み方も女の扱いもママから教わってねぇのかぁ? 優秀な騎士様は、大変だなぁ……あ〜よちよちッ!」
ダガァン!
騎士の頭がヘルムごとテーブルに叩き付けられ、しっかりと抑え込まれる。
「よぅ、自己紹介がまだだったなぁ、坊ちゃん? オレが冒険者ギルドのマスターをしてるダイル・オーレンだ。話し合いは……ありゃ、無理そうだなぁ〜! さぁ、次は誰だ?」
ダイルが苛立ちながら、笑みを浮かべて次の騎士にゆっくりと歩いていき、騎士の方に手を触れる。
「ダメじゃないかぁ? そんな簡単に肩を掴まれるなんて……少し疲れてるなら、肩を揉んでやるよ……あ、お代はいらないぞ〜。なんせ、治療師ギルドに払うだろうからなぁ!」
バゴゥガギィ……ビギッ!
「ぎゃああああ!」
「耳元で騒ぐなァッ! ったく、躾がなってねぇなぁ……騒ぐとウチの秘書がマジにキレちまうだろうがぁ……あ〜あヤダヤダ……」
騎士達が動揺する中、ダイルは悩まずに扉から逃げ出そうとする騎士の前に移動する。
「話し合いにきて、途中退席なんて……お仕置きするしかないよなぁ〜! 鎧はいいよなぁ! 殴っても凹むだけで、幾らでも殴れるんだからなぁ!」
その後は本当に酷かった。話し合いをすると言いながら、ダイルが一方的に騎士を相手に喋り、返事を聞く前に騎士を戦闘不能にしていく。
「なぁ、クラリスさん?」
「なんでしょうか、ホタルさん? あ、紅茶のおかわりですか?」
「いや、あれは止めなくていいのか?」
俺達の視線の先で未だに騎士をボロ雑巾みたいに扱うダイルを指さしつつ、質問をする。
「大丈夫です。むしろ、冒険者ギルドに喧嘩を売る馬鹿と、暴れることが生き甲斐の馬鹿なマスターがじゃれてるだけですからね」
紅茶のおかわりを注ぐクラリスさんの無表情に俺は改めて背筋を寒くした。
そうして、冒険者ギルドから金属が凹む音が消えると、ダイルが床に転がっていた酒瓶を手に取り、口から中身を流し込んでいく。
「ふぁ、少し身体を動かした後の酒は最高だなぁ! さて、久しぶりから、初めましてまで……知らない顔から知ってる顔が並んでるじゃねぇの? なんの祭りだぁ?」
結局、その後、ダイルにダンジョンの町での出来事を伝えると、ダイルが小さな酒樽を酒場から取り出し、一気に飲み干した。
「おい、ダイル……何を!」
「ふぁぁぁ……素面で、馬鹿に話を聞いたら、同情しちまうだろうがぁ? それは絶対にダメだからなぁ……ルール違反はしっかり、全身に刻んでやらねぇとだからな……」
俺達はそのまま返された。チンピラ達に同情したくはないが、ダイルがなんで冒険者達に選ばれたのかが少し理解できたな。




