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138話

 ダンジョンの草原に普段から2人に持たせているブルーシートが敷かれていき、俺を含めた3人で腰掛ける。


 そんな普段と違う光景の中で、自分の作った弁当を嬉しそうに食べる2人に照れくさくなるな。

 ただ、弁当箱を見るとソマリは唐揚げ、ポメラはタコの形をしたウィンナーを残したままにしていた。


「なんだ? ソマリは唐揚げ嫌いなのか? ポメラもウィンナーが苦手なのか?」


 流石に肉が好きだからって、毎回オカズに肉を入れすぎてたか?


「違うぞ! ホタルのお弁当の中で1番好きなのは唐揚げなんだぞ〜だから、最後に食べるんだぞ」

「間違いないぞ〜。このヘンテコなウィンナーが1番なんだぞ〜」


 無邪気な笑みを浮かべる2人が最後のオカズにフォークを刺したところで、一階層で見かけた冒険者達が爆速で走ってくる。

 前を見ていない冒険者達は背後に意識を集中させており、ソマリとポメラに躓いて盛大に転んだ。


 そんな冒険者達が騒ぎ出す。


「おい、何してんだ! お前らも逃げろ! うわぁぁぁ」


 騒ぐ冒険者の背後に視線を向けると、凄い勢いで土煙が上がっているのがわかった。


「なんだ、何が来てんだ!」


 立ち上がって走り出す冒険者達に質問をすると、返事が返される。


「イレギュラーだよ! 普通なら階層を魔物は越えられないのに、あいつは、オレらを追って来たんだよ!」


 あいつ、イレギュラーという言葉を悩む時間すら与えないと言わんばかりに土煙が天高く舞い上がる。


 降り注ぐ粉塵の先に姿を現したのは、ハサミムシをダンプカーサイズにしたような虫の魔物だった。


「いや、ハサミムシが土を掘るとか、おかしいだろ!」


 尾っぽを蠍のように曲げ、金属音に似た金切り音を打ち鳴らす魔物にソマリとポメラが絶叫を上げる。


「「ああぁぁぁッ!」」


 やべぇ、2人が慌てるような魔物ってことなら、油断出来ねぇ、何より、2人を逃がすことを考えねぇと。


 2人の前に踏み出した瞬間、ソマリとポメラから小さな呟きが聞こえた。


「あいつ……ボクの唐揚げを食べた……楽しみにしてたのに、奪われたんだぞ……」

「ソマリの唐揚げだけじゃないぞ……オイラのタコさんウィンナーも潰されちゃったんだぞ……」


 よく聞こえねぇが、震えて何か呟いてる……って、やっぱりデカイ虫は不気味だからな。


「安心しろって、俺が絶対に何とかするからよ。むしろ、帰ることだけ考えるんだ! いいな?」


 怯えてるやつになんて言えば落ち着かせられるかなんて、習ってねぇんだ。ただ、生きて帰るって気持ちが大切らしいからな。


「ホタル、本当に本当なんだな! ボク達は信じるからな!」

「大丈夫だぞ。ホタルは約束は守るからな。オイラ達には、まだ希望があるんだぞ!」


 希望なんて言われたら、マジに守りきらないとなッ!


 俺は拳を巨大ハサミムシに放とうとすると、目の前で、戦鎚と戦斧が豪快に振り下ろされる。


「ホタルが帰ったら、唐揚げ祭りをするって約束したんだぞ!」

「違うぞ! ホタルはタコさんウィンナーを山盛り祭りにしてくれるんだぞ!」


 2人の発言に呆気に取られてしまったが、それでも巨大ハサミムシの装甲には僅かな傷が刻まれるばかりで、ダメージになっている感じがしねぇ。


「ふん! なんで……全然切れないんだぞ!」

「わかるぞ。オイラの戦鎚も効かないんだぞ!」


 やっぱり、状況は最悪だな……くそ!


「2人とも、一旦離れろ! 全力で虫野郎をぶっ飛ばす!」


 【身体強化】を全身に広げ、拳から足に、反対の足から腰に、頭から再度手に繋がるイメージを固める。


「弾き飛べぇぇぇぇッ!」


 鈍い音がダンジョン内に響き、巨大ハサミムシが初めて後方へとその図体を押し返される。


 太い尾っぽが力なく、胴体にへたり込み、無数の足がその場で力を失ったように地面に沈んでいく。


「ハァハァ……やったのか……」


 そう口にした瞬間、へたり込んだはずのハサミが俺に向けて一気に伸ばされる。


 やべぇ、気が緩んで、【身体強化】が切れちまった……


「ボク達のホタルは、やらせないんだぞ!」

「そうだぞ! オイラ達のご飯は、オイラ達が守るんだぞ!」


 巨大なハサミに向けて、2人が戦鎚と戦斧を叩きつける。


 2人と巨大なハサミがぶつかり、衝撃音が耳に響いたと思うと、巨大ハサミムシの瞳から光が失われて、黒い靄になり消えていった。


「ホタル! 大丈夫か! 死んだらダメなんだぞ!」

「そうだぞ! 死んだら悲しいからダメだぞ!」


「大丈夫だって、心配させて悪かったな。ちゃんと生きてるからよ」


 俺が笑みを作ると、2人が安心したように泣きそうな表情が笑みに変わった。


 巨大ハサミムシがいたはずの場所には、巨大な魔石とハサミムシの殻と言うべきか、装甲やハサミが転がっていた。


「とりあえず、倒したらしいな。2人ともマジにすげぇ冒険者だな」


「むしろ、ホタルの方がすごいんだぞ! ボク達は最後の攻撃を防いだだけだぞ」

「“鬼人のホタル”から“虫キラーのホタル”に改名だと思うぞ!」


 虫キラーはマジに嫌なんだが……俺の顔写真が貼られたノズル付きスプレー缶が頭に浮かんじまったじゃねぇかよ。


 その場で座り込んで、笑って話していると、二階層の側から、複数の足音が聞こえてきた。


「早く来いって! ビッグシザーテイルが出たんだからよ! 餌になった冒険者共を食い尽くしたら逃げちまうだろうが!」


「わかってるって、こんだけの人数がいるんだから、大丈夫だっての」


「しかし、ひでぇ話だよな? 知らねぇやつに魔物擦り付けて、俺たちを呼びにきたんだろ? ろくな死に方しねぇぞ」


 馬鹿でかい声で、十数人の男女の声が聞こえてくる。


 その声にソマリとポメラが、戦斧と戦鎚をしっかりと握り直したのがわかった。


「ホタル、あれは悪意しかないんだぞ……」

「オイラ達は、この感覚をよく知っているんだぞ!」


 初めて見る見開かれた2人の瞳からは明らかに殺意が映し出されている。


「言い分はわかった。なら、ドロップ品をマジックバッグに入れてくれ、急いで三階層に向かうとしよう」


 この場にいたら、絶対にダメだ……どう考えても悪い結果にしかならないだろうからな。


「むぅ……わかったんだぞ……ボクはホタルに従ってあげるんだぞ……絶対に攻撃した方がいいと思うけど、仕方ないんだぞ」

「仕方ないんだぞ……オイラもちゃんとホタルの話を聞くんだぞ。ただ、攻撃した方がいいとオイラも思ってるんだぞ」


 すぐにマジックバッグにドロップ品を入れてもらい、俺達が走り出した瞬間、弓を射る音が聞こえ、矢が地面に突き刺さる。


「いたぞ! ビッグシザーテイルは見えねぇが、手負いだぁ!」


 その声を合図に遠距離攻撃が放たれてくる。

 スキルであろう、火の玉が草原を焼き、矢が俺達を狙ってくる。


「チッ、穏便に話し合いって思考はないらしいな!」


「だから、ボクは先に攻撃した方がいいって言ったんだぞ!」

「そうだぞ! 逃げるなら、戦う方が絶対に賢いと思うんだぞ!」


「悪かったって! とにかく三階層に──ソマリ! 飛べ!」


「え? あ、あれ……」


 ソマリの肩に矢が突き刺さり、ソマリがその場で転ぶ。


「ソマリがやられたぞ! くそ、やっぱりオイラは我慢できないんだぞ!」


「ポメラ、お前はソマリを担いで三階層に走れ! 俺の考えが甘かったらしい」

お読みいただきありがとうございます!

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