136話
ライムの街に入る際にバタついたが、俺達は無事に帰宅した。
夕食の用意をしていると、不意に店の扉が開かれた。
「おう、邪魔するぜ。ホタルよぅ、元気してるかぁ?」
「ギルマス……威厳の欠片もない態度は控えてください。もう遅いでしょうが、僅かに残った信頼すら、消え去りますよ?」
「手厳しいなぁ、クラリス……はぁ、いきなり悪いんだが、ホタルよぅ? ちぃ〜と話せるか?」
声の主が誰かはすぐに理解した。俺の店に来たのは冒険者ギルドのギルドマスターのダイルと、秘書のクラリスさんだ。
「なんだ? 夕飯を食いに来たなら、メニューを見てから選んでくれ」
とりあえず、水を2人分用意して、席に案内しようとすると、ダイルから盛大な溜め息を吐かれた。
「ちげぇよ……ったく、やだねぇ〜! わかってるんだろうが、正門で騎士団のバカとギルドのバカがぶつかってなぁ……って、そこまで言えばわかるかぁ?」
マジにどこのチンピラだよ……身に覚えしかないが、めんどくせぇ話になりそうだな。
「あぁ、わかった、わかった。確かに俺達もその場にいた。ただ、殴り合いを始めたのは冒険者側で、なんなら挑発したのは騎士団側だ」
「お、いいねぇ! 目撃者の生の声って奴だねぇ! そこでなんだがよぅ? 実は新しい騎士団の頭が、頭の中身がすっからかんみたいでな……力貸してくれや、頼むぜホタルよぅ?」
ダイルの顔が完全に悪人面になるが、その背後からクラリスが会話に割って入る。
「ギルマス……以前にホタルさんを殺しかけた事実があるのに、その頼み方は有り得ません。クズなんですか? ゴミなんですか? 流石に引きますよ……むしろ、引きすぎて嫌悪です」
見えない言葉の刃……いや、散弾銃がダイルにダイレクトダメージを与えてるみたいだな……
「ホタルさん。冒険者ギルドの愚かなギルドマスター……いえ、ゴミにも劣る最低なマスターが失礼致しました。冒険者ギルドとして、謝罪いたします」
「あ、いや、俺は構わないんだが……ダイル、大丈夫か?」
「流石にクリティカルだが、クラリスはいつもこれだからな! 気にしてたら、心が潰れちまうからな! だはは! それで今からが本題なんだがな」
ダイルはそれからとんでもない提案を口にした。
「実はよぅ……冒険者ギルド側としちゃぁ……我慢する必要が無くなったわけよぅ。分かるだろ?」
分かりたくねぇ話になってきてるんだが、ダイルは空気読まねぇからな……はぁ。
「聞いてんのかホタル? まぁ、言いたいことは分かるよな。サンセルのやつがいない騎士団に気を使う気はねぇからよ。
少し街が賑やかになるだろうから、騎士団には近づくなよ。あと、ソマリとポメラにも数日はクエストは出さねぇって言っといてくれや」
ダイルは言いたい放題言ってから、ナポリタンを大盛りで2皿食べてから帰っていった。
帰り際にクラリスさんが俺に頭を下げてきた。
「いきなりすみませんでした。本来はサンセル様に“話だけは通す”と言っていたのですが、不在だった為、こちらに来たようです。ご迷惑をお掛けしました」
「いや、俺らも多少は火種だろうからな。ただ、ダイルが無茶しないように見ててくれよな」
「無理です。あの脳筋なギルマスが正しい判断をする頭はありません。むしろ、暴れ飽きるまでぶつかるかと……ですから、私も含めて騎士団には泣いていただくつもりです」
去り際のクラリスさんがダイルよりも楽しそうな笑みを浮かべていたのは、見なかったことにしようと思う。
次の日の朝になり、いつもみたいに冒険者ギルドに出掛けようとするソマリとポメラに、昨晩のダイルからのメッセージを伝える。
「えぇ! 勝手すぎるぞ、ツルツルホタル!」
「そうだぞ! オイラは納得できないぞ!」
朝から騒がしくなったが、俺が一緒に適当なダンジョンに付き合うことで納得してくれた。
出掛けようとすると、エスから声を掛けられた。
「主様、ダンジョンで他のダンジョンコアと浮気をしたら、許さない……」
やけに鋭い視線を向けられながら、見送られる結果になった。
店の外に出ると、エスが昨日に作ってくれた大きめの小屋から狼族達が飛び出してきた。
正直、ずっと小さくキャンキャン言われてるが、何を言ってるかわかんねぇんだよな。
「だから、ボク達は忙しいんだぞ……」
「そうだぞ、遊びに行くわけじゃないんだぞ。だから、連れて行けないんだぞ」
なるほどな、獣人同士だから、ソマリとポメラは何を言ってるかわかるんだな? 便利そうだが、見た感じ遊びに行くと勘違いされてるみたいだな。
「いんじゃねぇか? 全員は無理だろうが、何匹? いや、何人って言うべきか、連れてってやれば」
俺の発言に狼族がお座りでシッポを振り、ソマリとポメラが唖然としていた。
「ホタル! それはダメだぞ! ボク達3人で久しぶりのダンジョンなんだぞ!」
「そうだぞ! 今日はオイラ達だけで、ダンジョンの予定だぞ!」
2人の言葉に狼族達が明らかに下を向いて、悲しそうな鳴き声を出し始めると、何故か背後からモモが大声を上げてきた。
「騒がしいッス! 留守番も出来ないワンコには、骨はあげないッスよ!」
いや、ワンコって、こいつらは獣人だからな……って、シッポをモモに振りやがった。
「いいッスか! 1人一本ッス!」
そうして、モモがスープ用に冷凍している牛骨を勢いよく投げ始める。
狼族達はそれを嬉しそうに追いかけてキャッチするとその場で美味そうに噛んでいく。
「先輩、せっかくソマリとポメラが楽しみにしてるんッスから、男なら、しっかりビシッと行ってくるッス! あと、無事に帰って来るんッスよ」
モモに笑顔で送り出してもらい、改めてダンジョンに向かうことになる。
ただ、ライムの街を歩いていて気づいたが、何処か雰囲気が悪い。
正門に向かうと、その答えがすぐに理解できた。
騎士団と冒険者が朝っぱらから激突したのか、壁を背に気を失っている門番と青タンを作った冒険者達が所狭しと視界に入ってきた。
「なんか凄いぞ! ホタル、アレを通れるのか不安だぞ……」
「オイラもそう思うぞ……」
不安を口にする2人を後ろに、先頭を進んでいると、顔見知りの門番から手招きをされた。
冒険者達も、明らかに新顔の騎士団と揉めているようで、顔見知りの門番には絡んでないらしい。
「よ、ホタルさん。朝から賑やかで悪いな、門はここの扉から出てくれ、もし帰りが馬車なら、西門に向かってくれよ」
「お、おう、なんかすげぇな?」
「なに、騎士団の新顔が横暴でな……正直、冒険者を応援したくなっちまうよ。まぁ、気をつけてな。生きてライムに戻ってこいよ」
「おう、行ってくる」
門番と軽く会話をしてから、俺達3人はダンジョンを目指して、ライムを後にした。
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