133話
「すまないんだが、魔物討伐の依頼をしたくて……」
視線の先には村人Aを現実に作り出したような特徴のない男性が立っていた。
ただ、マタギ衆は先程全員出払っている為、話を聞くだけになりそうだな。
「えっと、今すぐには難しいんだけど、僕が話を聞いて、シカリ長に伝えるよ。それでどうしたのさ」
アナンが受付カウンターからそう伝えると、男はゆっくりとカウンターへと歩いていく。
話を一緒に聞いていくと、ライムの街から近い牧場でウルフの群れが目撃されたらしい。
ウルフに乳牛が怯えてしまい、乳が絞れないことと、牧場で働く男の家族も身の危険を感じ始めたらしい。
「話はわかったけど、今からマタギの皆を待つと、早くても3日か4日くらい掛かるだろうね? 僕としては不本意だけど、冒険者ギルドに頼むのが最善策じゃないかな」
「冒険者ギルドでは、ウルフの討伐が済むまで、1日あたり、銀貨1枚と言われて……」
「いや、お兄さん? 当たり前じゃないかな? むしろ、僕でも分かるけどさ、予定より多くウルフが出たら、追加報酬が必要になるしさ?」
アナンの説明にガックリと肩の力を落としたのがわかった。
本来は俺が口を挟むべきじゃないんだろうが、仕方ねぇ。
「なぁ、アナン? あまり辛い現実をぶつけてやるなって、それとアンタ、俺が少し見に行ってやるから、そう気を落とすなって」
俺を見た男から質問される。
「あなたはいったい?」
「俺は、単なる料理人だ。ただ、魔物も軽くなら相手できるからよ。マタギ衆が戻る前に下見をしてやるよ。相手がはっきりした方が、サンセルのオッサンも動きやすいだろうからな」
「料理人って……いえ、藁にもすがる思いで来たので、お願いします。オレはジャイロっていいます」
「おう、俺はホタルだ」
苗字を名乗っても、ホタルとしか呼ばれねぇからな……そのうち、自分でも名前を忘れちまいそうになるな。
それから、一度店に戻ることにした。
ウルフが現れるのは夕暮れから夜の間らしく、まだ時間があるので、昼過ぎから牧場に向かうことに決めた。
店に戻り俺は牧場でウルフを探すことになったとモモ達に伝えると、諦めたようなジト目が向けられる。
「先輩……モモはいつも思うんッスけど、軽く差し入れに向かって、どうして、他人の問題を解決する話になるんッスか……問題ホイホイか、なんかなんッスか?」
言いたい放題言われた後、俺は昼飯を用意していくと、店の扉が豪快に開かれる。
「帰ったぞ! 腹が空いたぞホタル!」
「オイラ達のご飯を作るんだぞ!」
ソマリとポメラの2人がバタバタと戻ってくると、弁当がなかったせいで、「ただいま」より先に昼飯を要求されたのは、なんとも言えないな。
「お前らな、帰ってきたら、ただいま! わかったか? 挨拶ができないやつは飯なんか食わさねぇぞ」
「ケチケチのホタルが現れたぞ! ポメラ、ボク達のご飯のピンチだぞ!」
「違うぞ、ケチケチのホタルじゃなくて、ガミガミのホタルだぞ! 怒らせたらご飯が逃げちゃうぞ!」
それから、お互いに笑いながらも軽く言い合いという名のじゃれ合いをしてから、2人は素直に“ただいま!”と、言ってきたので昼飯にする。
用意した炒飯、青椒肉絲、ワカメスープがあっという間に全員の胃袋の中に消えていった。
「ふぅ……食べたんだぞ〜」
「美味かったんだぞ〜」
「食べてすぐに横になると牛になるぞ?」
俺の見てる目の前で、ソファーにゴロゴロと寝転がるソマリとポメラは眠そうに欠伸をしている。
「ったく、しゃあねえなぁ。まぁいい、俺はこれから牧場に向かわないとならないからな。腹を出したまま寝て風邪を引くなよ」
そう伝えてから、片付けを済ませて、俺は出かける用意を済ませる。
「ツルツルのホタル! お腹がいっぱいになったから、ボク達も付いてってやるぞ!」
「オイラもピカピカのホタルを手伝ってやるぞ!」
皿洗いの間、軽く眠っていた2人が目覚め、付いてくると言い出した。
「いや、別に俺は1人で大丈夫だぞ? 相手はウルフらしいから、数を見にいくだけだしな」
そこまで口にすると、モモが呆れた表情で俺に視線を向けてきた。
「前にそう言って、熊のご飯になりかけた先輩が何を言ってるんッスか、今回はモモも行くッス!」
その後の話し合いで、エスとセスが留守番を引き受けてくれ、ソマリとポメラにモモ、更にドレイクとパラも一緒に牧場に向かうことになった。
ドレイクとパラはピクニック気分で道中は2人で笑いながら歩き、ソマリとポメラは冷蔵庫から持ってきたのか、タレにつけた状態の骨付き肉をタッパーごと抱えて食べ歩きをしている。
「お前らなぁ……それは夜の為に付けてた肉じゃねぇか、生で食べて腹を壊すなよ?」
「らいじょぶらぞ! ゴクっ! ボク達は強いからな! 安心するんだぞ!」
「ほうらぞ……肉はうまいぞ。オイラは楽しいし、うれひぃぞ!」
「食べながら喋るなって、あと牧場に到着したら、絶対に牧場の動物を襲うなよ……」
とりあえず、注意だけして俺達は夕暮れ前に牧場に到着した。
ライムの街から4時間程の場所に作られた巨大な牧場、木製の柵に囲まれた先には巨大な牛舎や納屋といった建物があり、聞いていた以上に牧場だったことに驚かされた。
とりあえず、柵の出入口を探しながら、歩いていると、朝にマタギ本部で話を聞いたジャイロが慌ててこちらに向かってくるのが見える。
「おーい! ホタルさ〜ん。本当に来てくれたんだねぇ〜!」
俺達に手を振りながら、ジャイロは3mはありそうな巨大な牛に荷馬車、いや、牛車を引かせており、木製の柵を挟んで俺達の手前で牛を止めさせた。
「すまないね。こちらから迎えに行かないといけないと思ってたんだが、牧場の仕事が終わらなくて面目ない……しかし、大人数で来てくれたんだねぇ。さぁ、乗って乗って!」
牛車の荷台に乗せてもらい、牧場に建てられたデカい家に案内された。
家の中に通されると、ジャイロの奥さんと娘さんが出迎えてくれた。
ジャイロの奥さんは、おっとりとした雰囲気のふくよかな女性だった。
「あら、聞いてたよりも、大きい人なのねぇ。いらっしゃいませ。本当にありがとうね」
「ママ、本当に“毛死病”じゃない……」
娘の方は、中学生くらいの年齢だからか、ズカズカと頭を指差してきてやがる。
「はぁ、最近は言われなくなったが、俺はあくまでもベリーショートだからな?」
慌てたジャイロと奥さんが娘さんの頭を下げさせて謝罪してくれた。
その後は、ジャイロの娘、サラがドレイクとパラと遊び始めた。
見た目が中学生くらいかと思ってたが、前言撤回だな、まだまだお子ちゃまらしい。
ドレイクとパラがサラと遊んでくれている間に、俺達はウルフを見たという作業員から話を聞くことにした。
「えぇ、夜になる前に片付けをしていたら、柵の向こう側に複数の鋭い光が見えて、よく目を凝らしたら、ウルフの群れだって気づいて、腰を抜かして逃げ出してきたんです」
若い作業員が説明してくれた柵の先には、森に繋がるように伸びた林があった。
「ウルフが森から来たってことなら、調べないとだが、夜も近いから無茶はできねぇよな」
俺は腕を組みながら、森を見つめた。
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