132話
いつもの目覚め、清々しい朝の風が窓から──窓から見える景色になんでサンセルのオッサン達がいるんだよ。
一階に降りるとエスが挨拶も程々に店の入口を指差す。
「主様、朝から待たせてる。入れる?」
「朝からって……どれくらい前なんだ?」
昨日は遅くまでモモに説教をくらっていた為、説教をくれていたモモも未だに爆睡中らしい。
「やっちまったな、ソマリ達は弁当無しでギルドに向かったのか?」
「はい。適当に魔物を丸焼きにすると言ってた」
ワイルドランチになりそうだなって、そうじゃねぇ、外に待たせてるサンセルのオッサン達を入れてやらねぇと!
扉を開くと、煙草を咥えたサンセルのオッサンの姿が視界に入った。
「朝から大人数ですまないのだよ。アルム・ニアンキ元討伐部隊長から、物件についての話を聞いたので、私も知りたくて来たのだよ」
サンセルのオッサン達を一旦、店に案内して、水を出していく。
「すまねぇが、話が済むまで注文なんかはストップだ。作りながらだと話が進まねぇからな」
「大男君の言う通りなのだよ。本題を話そうじゃないか、本当に住む場所を借りられるのかね?」
真面目な表情で質問されたので、俺もしっかりと返事をする。
「当たり前だ! 間違いなく貸せる。ただ安くはするが家賃はしっかりと貰うことになるぞ。むしろ、貰わないとモモにガチでキレられちまうしな」
「当然だね。家賃を君が受け取らないと言い出したら、逆に借りることを諦める選択をしたのだよ」
結局、その後の話から、モモの知識や意見が必要だと判断してモモを起こすことになった。
そうして、スラム街に新たな住人が大量に増えることになり、俺は煙草を吸いながら笑った。
それから数日後、スラム街に魔物討伐専門クランという形でサンセルのオッサンは『マタギ』の看板を掲げる。
街の連中もサンセルのオッサンが冒険者ギルドで活動していた事実を知っていたこともあり、瞬く間に噂が広がり、早くもスラム街に農夫姿の男性が足を運んできていた。
そんな魔物討伐クラン『マタギ』の受付には、ウチで保護したアナンが受付嬢として立っている。
「はい。こっちに必要な内容を書いてね。字が書けない人は、口頭で構わないよ。僕が代わりに書いてあげるからさ」
多少元気を取り戻したアナンは明るい笑顔を浮かべながら仕事をこなしている。
そんなアナンを見ながら、俺とサンセルのオッサンは喫煙スペースで煙草を吸っていた。
「しかし、驚いたな。まさかアナンがサンセルのオッサンのクランで働きたいって言い出すなんてな」
「それは私もなのだよ。はっきり言えば、始まったばかりのクランで働きたいなんて、タダ働きと変わらないのだからね」
「いや、アンタがタダ働きなんてさせねぇのは、知ってるからな。俺が心配してるのはアンタが無理して倒れないかだよ」
軽くそんな会話をしていると、依頼を受理したアナンが俺達の方に駆けてくる。
「サンセル支部長! 仕事だよ」
「私はもう支部長じゃないのだがね」
「なら、なんて呼べばいいのさ! 呼び方を教えてくれないと、流石の僕も分からないよ」
ほのぼのするような光景に、俺は軽く笑みを浮かべた。
「サンセルのオッサンの呼び方か、確かに俺も気になるな。なんて呼ばせるんだ?」
「いや、私は別に呼び方などはなんでも構わないのだがね……」
「ただ、俺の知ってる話になるが、マタギの長は、“シカリ”って呼ばれんだ。シカリ長ってな」
俺の説明にサンセルが珍しく、複雑な顔を浮かべるが、アナンはそれを無視するように、メモを取り出した。
「つまり、サンセル・シカリ長ってなるんだね! ただ、言いづらいね……」
「いや、シカリってのが、呼び名になるんだよ。早い話が所長とか支部長ってそのまま呼ぶ感じだな」
ただ、呼び慣れない事実もあり、その後、何故か、サンセルのオッサンは、シカリ殿と呼ばれること決定した。
「では、改めまして! シカリ殿! 仕事が来たよ」
アナンの勢いに押されるサンセルのオッサンを見てから、俺はその場を後にした。
俺が店に戻ると、武装したアルムさん達が店にやってきた。
「ん? アルムさん、それに他の奴らもどうしたんだ? サンセルのオッサンと初仕事じゃないのか?」
「ホタル殿! サンセル支部長、じゃなくて、シカリ殿からこれを預かって来たのだ!」
アルムさんが俺の目の前に置いたのは、膨れた布袋だ。
首を傾げながら質問をすると、サンセルのオッサンから渡すように言われたとアルムさんが教えてくれた。
「我々は魔物討伐に向かう、当然、遅れを取るような真似はしないが、万が一がある為、先に今月分の家賃を渡しに来たのだ!」
律儀すぎんだろ、ったく、縁起でもねぇ。
「わかった。なら、しっかりと受け取るから、戻ってきたら、サンセルのオッサン……いや、シカリ長に店に来るように言っといてくれよ」
「了解した! 必ず伝える。それではホタル殿、失礼する!」
踵を返すアルムさんに俺は待ったをかけた。
「移動先で、飯を作るんだろ? なら、こいつを持ってけよ。ほれ!」
大量の袋詰めされたバターロールの袋を数個と、粉末タイプの業務用即席コンソメスープを渡してやる。
「パンはわかるが、この筒はなんなのだ?」
「その筒の中に入ってる粉をだな……いや、見た方が早いか、少し見ててくれ」
俺はお湯をカップに注いで、小スプーンで掬った粉末を入れてかき回す。
簡単に作り方を見せてから、味見をしてもらう。
「こ、これは……ホタル殿、アルム・ニアンキ、感動致しました!」
思った以上に感極まるアルムさんは、他の連中に引きずられていった。その際に、野菜なんかを柔らかくしてから粉末を入れたら更に美味くなる事実を伝えておいた。
しかし、外に出てからアルムさん達を見送った先に武装した大部隊の姿があり、俺は呆気に取られる。
馬などはいないが、それでも数十人の元騎士達が武装している姿は圧巻だ。
そうして、先頭に立っていたサンセルのオッサンが号令を掛ける。
「総員、今より、魔物討伐に向かう! 我々の命は民の為に! 1人として命を散らすことは、許さぬ! よいな!」
「「はい! シカリ長殿!」」
既にシカリ長ってのが、浸透してるらしいな……流石、元騎士団って感じるな。
そうして隊列を組んだ元騎士団、いや、マタギ衆って言うべきだろうな。
ただ、マタギ衆がいなくなったマタギ本部で、退屈そうにしているアナンの姿があったので、とりあえず、差し入れだけしてやった。
「ホタルさん……僕はお留守番なんだってさ、酷いよね……みんなで魔物討伐に向かってさ」
「ははは、拗ねんなって、サンセルのオッサンはそういう性格だからな」
「僕だって、シカリ長の性格はわかってるよ。留守番も大切な仕事だからね」
そんな会話をしていると、マタギ本部の扉が慌てた様子で開かれる。
「すまないんだが、魔物討伐の依頼をしたくて……」
その声に俺とアナンが視線を扉に向けた。
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