131話
サンセルのオッサンに屋敷を渡してから、少しして、大掛かりな搬入作業が商業ギルドを通して行われた。
ご近所さんになったので、そんな作業をウチの連中と見ていると、アルムさんが声を掛けてきた。
「ホタル殿! サンセル殿から、屋敷の話を聞いて、私は感激したぞ! 流石はホタル殿! このアルム・ニヤンキ、感動のあまり、身を震わせてしまったくらいだ!」
「いちいち大袈裟だって、それよりよう? 相変わらずの人数みたいだが、住む場所とかを考えるとスラムまで毎日くるのは大変なんじゃないか?」
何気ない質問のつもりだったが、アルムさんの表情が渋くなり、どんよりとしたオーラが見えてくるんじゃないかと思うくらいにテンションが下がっていく。
「そこなのだ。正直、私も含めてここに居る者達は大半が騎士団の用意した宿舎で寝泊まりをしていた。今は宿屋暮らしになっているんだが距離的なものがな」
アルムさんの説明では、大通りを抜けてから住宅街の先に今借りている宿屋があるらしい。
ライムの街は、周辺の街や村よりも遥かに栄えている為か大通りを中心に広がる宿屋は個室や多くても4人部屋であり、雑魚寝が可能な大部屋を有する宿屋は街外れにしかないそうだ。
現実問題、距離を考えるだけで嫌になりそうだな。
「全員で家を借りるってのはダメなのか?」
「ホタル殿、もう我々は騎士団ではないのだ……冒険者ならばB級、商人なら信用手形と、信頼がない立場の我々には、単純な家すら借りることは困難なのだ」
いきなりの説明を聞き、俺は流石に同情してしまった。
「主様……発言したい」
不意にエスからそう言われたので、話を聞くと予想外の提案をされた。
「主様は今、宿屋を遊ばせている。貸せば収入になる」
エスの提案は俺の買った土地に最初からあった宿屋を賃貸として貸し出せというものだった。
実際に今の宿屋はたまに俺達が寝るだけで普段は放置している。
その為、エスの提案は俺からしても魅力的な内容だった。
「ただ、そうなると、女湯と男湯に仕切りが必要だな……今は家族風呂みたいになってるからな……」
「主様、時間で分ければいい。もしくは女性用に浴場を追加すれば済む」
「簡単にいいなって、そんな簡単に出来たら苦労しねぇって……」
「主様はお馬鹿。エスがいる……だから不可能はない」
そう口にしたエスがアルムさんに視線を向ける。
「契約するなら、浴室を作る。あなたはどうする?」
「え、わ、私か! いや、だが……家賃はいかほどだろうか?」
「主様……幾らにするか、モモに確認する。主様が決めると揉める可能性が大」
話が一気に進んでいき、モモが家賃を決める。
1部屋、銀貨2枚、日本円で言えば2万円であり、共同風呂だとしても、このライムにある宿屋よりは破格の安さだった。
「ホタル殿! モモ殿! すぐに契約をさせてくれ! できるなら、皆にも話してやりたいくらいだ!」
大興奮のアルムさんだったが、流石に宿屋に入り切らない入居者は受け入れられないので、待ったをかける。
「そ、そうなのか……それでは、住めない者に申し訳ないなぁ」
落ち込むアルムさんを見て、俺はモモにダメ元で考えを話すことにした。
「なぁ、モモ……また土地を買うって言ったら、流石に怒るか?」
「先輩、怒る以前に、四肢の骨をぶち砕くッスよ? いつも言ってるッスけど、ギリギリを生きてる自覚が薄いんじゃないッスか?」
冷たすぎる声色でそう返された俺は、それ以上は何も言わなかった。
アルムさんとの話も一度保留になっちまったのは言うまでもない。
ただ、土地を買うのは諦めたが、スラム街の一部を買っている事実があるので、とりあえず動くことにした。
その日の夜に話があるとカイト、グライ、セス、パラの4人を呼び出すことにした。
4人も突然の呼び出しに多少、不安そうな表情を浮かべている。
「悪いな……そんなに怯えた表情すんなよ、流石に傷つくぞ?」
「いや、組長がオレ達をわざわざ呼び出すからだろ? それでどうしたってのさ?」
カイトが質問をしてくれたので、本題を話してみることにした。
「えぇ〜! 組長、パラ達のお家を無くしちゃうの……」
俺の提案は、カイト達との約束があるので住んでいたスラムの家を残す形で話をしたつもりだったのだが、パラは勘違いしたまま、泣きそうになっている。
カイト達が慌てて、パラを慰めながら説明をしてくれた後に、4人から許可を貰えた。
正直、パラに泣かれた時は、全力で謝罪しそうになっちまったな。
俺はパラをベッドに運び、それから夜に呼び出してしまったカイト達を送っていくことにした。
カイト達を送ってから、スラム街にある俺の土地に向かう。
とりあえず、やる事は既に決めている。
酷くボロボロな街並みに手を伸ばし、スキルを発動させる。
「【店舗収納】──全部、吸い込んじまぇ!」
スキルに次々とボロ家が吸い込まれ、カイト達が住んでいた家以外を平地にしていく。
次に俺は【店舗収納】の中から、宿屋として使える建物を取り出して並べていった。
今回は俺の土地に俺の建物を置いたので、明日には勝手に天使のやつが水回りなんかを手配してくれるはずだ。
「天使がサボったら、前に見せられた映像に対して、異議申し立てをしてやるからな」
わざとらしくそう口にすると、建物が突然光り輝く。
「酷いですねぇ? 前に話し合って、分かり合えたはずですよね? まさか、パンケーキが8段だったから、少ないって話ですか……それなら、ホタルさん、あなたも同志ということでしょうか!」
やっぱりきたな……パンケーキジャンキーが……
「違ぇよ! どんだけパンケーキが好きなんだよ、ったく! それよりもこの数の建物に水回りとかの設置はできるのか?」
「残念ですねぇ……パンケーキ信者かと思って、期待したのですがぁ……あ、質問内容ですが、この天使に不可能など、無いのですよぅ! ミュージック、スター──痛ァ!」
「夜中に騒ぐなって! いいか、今はモモ達に内緒でここに来てんだよ……わかるか?」
「音楽無しですか? 夜空に奏でるハーモニーが一番やる気が出るんですがねぇ……はぁ、なら素早く、パチッとな!」
指をパチッと鳴らすと、建物の中が次々に輝いていく。
スラム街の土地だと忘れてしまいそうになる輝きに俺が感心していると、騒ぎに気づいたカイト達が走ってきた。
「組長、なんだよこれ……街が引っ越してきたみたいじゃんかよ」
「組長……何したのさ……」
その後、天使はパンケーキを散々讃えてから、消えていった。
後半のパンケーキに対する熱意は絶対に要らなかったよな……
ただ、俺が思ってた以上に内装が立派になっていて驚かされた。
水回りに関しては、建物の中に銭湯スタイルで男女に別れて作られていた。
天使の姿は西洋寄りだが、変に和風テイストなのは違和感しかないな。
試しにお湯を溜めていき、本当の意味で一番風呂をカイト達と楽しむことにした。
「ふぅ……染みるなぁ、何より、一富士、二鷹、三茄子、ってチョイスが最高だな。これに関しては天使のセンスに感謝だな」
「組長、1、不死、2、ダガー、損なルビーってなんなんだよ? 意味わかんないぜ」
カイトの言葉に腹を抱えて笑いながら、風呂から出ると、鬼より怖い顔をしたモモとエスが待っていた。
何故か、夜中に正座をさせられたのは本当に納得いかねぇんだよなぁ。
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